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残酷で美しい異世界より  作者: 狼森エイキ
砂の城
102/125

砂の城 14

筆者の名前変えました。


おいのもり、

です。


よろしくね。

 数日後、ついにシャルを取り戻すための計画が動き出した。

 動き出したのだが……


 「この世界の新聞ってすごいよねぇ……これ手書きなんでしょ?」


 諸々の計画を練ったいわば今回のブレーンである咲良は悠長にも今朝届けられた朝刊をゆったりと読んでいた。


 ちなみにこの世界にも新聞というものが存在する。

 ちゃんと朝刊と夕刊が存在し、何かあった場合には号外だって出る。

 配達員もいれば販売所もあり庶民が様々な情報を得るにあたって一番ポピュラーな手段と言えた。

 すごいのは咲良が言った通り、彼女が今手にしている新聞はタイプなどの活版印刷術によって書かれているのではなく、手書きだということだ。

 もちろんその文章に誤字脱字は見られず、それでいてすさまじく丁寧で読みやすくもある。

更に、この世界にはいわゆる写真というものが存在しないので、全て手書きによる挿し絵が使われる。

 それ以前に取材やその裏取りにも時間をかけているはずなのだ。

 これだけの手間がかかっていて、毎日朝晩発行されているのだからもはや職人の域だ。

まさかブラック企業よろしく奴隷の如く働かされているんじゃないか?とも疑いたくなるレベルである。


 「それはミンエイって奴なんでしょ? 国が出してるのは機械で書いてるって前にライラが言ってたわよ?」


 そう答えたのは咲良の部屋の隣人にしてパーティーメンバーのトリナである。


 「ミンエイ? 民営のことかな? 成る程、こっちの国営のものは活版印刷使っているんだ。 流石、国営の会社はお金があるねぇ」


 そう言って咲良が取り出したのはもう一部の新聞。

 先程まで手にしていたものとは別のものだ。


 「フムフム、こっちは王都だけじゃなく国外のことまで書いているのか……」


 先程までの新聞は王都とその周辺くらいの出来ごとを記事にしていた。

 それに対し、今持っている国営のものは国内全てはおろか、諸外国のことも記事にしている。

 しかも内容を見るに、ここ数日の出来ごとであると見られ、早馬でももっと時間がかかるなか、どうやって情報を手にしているのか気になるところではある。


 「いや、国が関わっているくらいだもんね。 いくらでも情報を外から入れる方法なんてあるか」


 国防において情報というのは重要だ。

 そしてそれ正確かつ新鮮であることが好ましい。

 きっと自分ではおよびつかない方法があるのだろう、と咲良は納得することにした。


 「あ、占いがあるね。 誕生月占いだけどこれ私の生まれた月でも適用できるのかな? 異世界だと月も違いそうだよね」


 「ねえサクラ!? あんた何でそんなに悠長な訳? これから一世一代の大勝負に出よってのに」


 ズイっと顔を近づけてくるトリナの圧に屈しそうになるが、それでも冷静に話を続ける。


 「そうは言っても私達にできることはなにも無いよ。 私達にできることは風を吹かすことだけなんだから」


 「風?」


 「『風が吹けば桶屋が儲かる』ってことわざがあってね。 まあ 風が吹いたらめぐり巡って桶屋が儲かるっていうそのままの意味なんだけど」


 「じゃあ何? 初めの一手さえ打ってしまえばあとは勝手に話が進んでいくっての?」


 「社会はよく機械に例えられる。 複雑に絡み合い、関係し、結果がもたらされる。 動きさえ読みきれれば案外何とかなるよ。 ディーナさんにも協力してもらえたしね」


 「そう上手く行くかしら?」


 「そこはディーナさんとシャルに期待」


 そう言って咲良は再び新聞へと視線を落とした。



***




 「ふむ……10月生まれの運は最悪か…… 幸先の悪いことだ」


 王都の道を走る馬車の中、誰に聞こえでもなくそう言ったのはマエストリ伯爵である。

 普段からして伯爵は占いの結果に一喜一憂する性質ではないし、そもそもそういった類のものを見たりはしない。

 新聞にしろ、普段目を通すのはせいぜい自分に関係しそうなこと、政治関係、あとは自分が興味を惹かれそうな記事くらいか。

 今日に限っては少々事情が特殊で、実は昨晩遅くの便りによりミレッジ子爵に昼食の誘いを受けたのである。

 しかしながら貴族同士の昼食においてそのまま食事をするだけの会になる、ということはまずない。


 まずミレッジと言う家を探ってみると、誘った本人の子爵の他に親であるミレッジ辺境伯と言う名も出てきた。

 辺境伯と言うくらいだから王都から離れたところに領地を持っており、マエストリ伯爵の派閥と対立する貴族でもあった。

 よってその娘たるミレッジ子爵もまた自身と対立する貴族であることは容易に想像できる。

 おまけに彼女は自分の娘がいたあの憎きパーティーと懇意にしているという。

 目的がシャーロットの奪還なのか派閥工作の一環なのか……

 

 「どちらでも構わんか。 狙いがどうであれ小娘に好き勝手にやらせるなどありえない話だ」


 そんなことは自分のプライドが許さないだろう。

 すでに四十を超えているとはいえ貴族の中ではまだ若手かせいぜい中堅、家の歴史も浅いが、それでも王国貴族に列せられているという誇り、自分こそがこの国を支えているという自負は誰にも負けない自信があった。

 と、マエストリ伯爵が心に固く誓っていたころ。



キキッ!!


 馬車が止まった。

 どうやら目的地に着いたようなのだが、御者をしてた家の使用人が自分のもとにやってこない。

 貴族が馬車から降りる場合、自分から扉を開けて降りるのではなく、配下の者に扉を開けさせエスコートを受けたうえで馬車から降りるのが一般的である。

 のだが、なかなか来ないし、すっと待っているわけにもいかないので窓を開けてみる。


 どうやら目の前にほかの者の馬車があり、それが昼食会の会場であるレストランの入り口に止まっているようなのだ。

 しかもその馬車はよくある庶民が使うような乗り合いのものや荷馬車と違い、しっかりとした作りの高級感のある馬車であった。

 それの意味するところ貴族か、そこまで出なくとも上級階級が使っているのだろうと推測できた。

 御者はそれに気づき、馬車を検めに行ったのだ。

 相手が貴族だった場合、馬車の壁などに家紋が描かれている場合が多いからである。

 そして予想通り書かれていた家紋を見、どこの家なのかわかったところで、顔を真っ青にして自分の家の馬車に戻ってくる。

 伯爵が窓を開けたのはそのタイミングだった。


 「どうした?」


 「――――――――――――!!」




***




 「ほう? これはこれはマエストリ伯爵ではないか。 貴殿もミレッジ嬢に呼ばれた口かの?」


 通された部屋に行けば案の定いた王国貴族の重鎮、ドロル侯爵。

 その名を聞いた時には偶然居合わせただけだと思いたかったが、どうやらそうではないらしい。

 一応同じ店にいる以上挨拶はすべきだろうと店の人間に声をかければ同じ部屋だといわれ、ここに通された。

 運が悪いという占いも存外当たっているようだ、と心の中で悪態をつく。

 誤解の内容に言えば決してマエストリ伯爵は侯爵と仲が悪い訳ではない。

 とはいっても、やはり貴族界の重鎮を相手取れば誰だって緊張するし、避けたくなるのが人情と言うものだ。

 それでいくと、まだかなり若く、子爵という身分でありながら伯爵はおろか侯爵も呼び出すという胆力は凄まじい。

 相当に野心家かただの世間知らずの大うつけか、判断に迷うところではある。

 わからないのは侯爵がそんなミレッジ子爵の呼びだしに応じてやって来たことだ。

 侯爵程の格であれば本来若い子爵など歯牙にかけるまでもないだろう。

 にもかかわらずこうしてやって来た。

 その理由が気になるが、考えてもわからない。

 ので聞いてみることにする。


 「知りませんでしたな、侯爵がミレッジ子爵とお知り合いであったとは。 その御年でも若い子女と仲良くなれる秘訣、是非ともお教え願いたいものですな」


 「なぁに、仕事上の付き合いで仲良くなっただけのこと。 あの若さで儂についてこれるのだから大したものよな。 伯爵も励まねば、追い越されてしまうぞ」


 仕事上の付き合い、それは決して共同歩調をとってるということではないだろう。

 二人の派閥は対立関係にある上、侯爵はその派閥のトップ、どう転がっても仲良くはなるまい。

 しかも向こうは侯爵をして油断ならない相手と言わせる人物。

 伯爵自身にも、気をつけるよう釘も刺してきた。


 「とすると、今回の会もやはり仕事上の?」


 「じゃろうな。 子爵はどうにも我々の仲の良さが羨ましい様子。 いろいろ聞いて回ってるようじゃわい」


 伯爵の身体からサッと血の気がひいた気がした。

 冷水を浴びせられたような、そんな体温が奪われていく感覚。

 次いで出た焦りによって体温はむしろ上がったように感じる。


 「そ、それは本当ですか!?」


 そう大声をあげてしまったマエストリ伯爵に対し、侯爵は人差し指を口に当てることで制止する。

 要は黙れ、と。


 「し、失礼しました」


 ここは個室。

 高級料亭だけに壁のつくりも立派で、会話がそうそう外に漏れることはないだろう。

 が、大声をあげれば流石にその限りではないし、そうでなくても何かの拍子に外の誰かに会話が聞かれないとも限らないのだ。

 ましてその会話の中身があまりにも後ろ暗いならば細心の注意を払うべきだろう。


 「まぁはっきり言ってしまえば伯爵がその地位を王より賜るにあたって少々力技で通した面は否めんからの。 一度つつこうと思えば貴殿の父君のことまで類が及ぶのも必然。 冒険者ギルドにいる儂の友人もそのあたり気にしておった」


 「やはり……」


 これは嗅ぎまわられた、と聞いた段階でマエストリ伯爵も想定していたことだ。

 しかも、ある意味で自分のことよりも触れられたくない事実までも向こうはその手にしている可能性がある。

 そうなればマエストリ伯爵家の地位が揺るがしかねない。

 なんとも眩暈のしそうな話ではないか。


 一方の侯爵も侯爵で内心少しばかり焦っていた。

 仮に子爵がおおむね事の全容を掴んでいたとして、そのさきが気になった。

 単にシャーロットなる伯爵の娘を取り戻したいなら応じなくもない。

 しかしそうなれば、子爵と侯爵家は完全に対立関係となる。

 小娘に良いようにやられるのでは侯爵の面子が立たない。

 面子なんて、と思うかも知れないが、侯爵は自身の派閥のトップである上、貴族界の重鎮。

 王国での影響力を維持することを考えたら面子はとても重要だ。

 したがって、対立すればなんらかの形での報復も考えねばなるまい。


 では、シャーロットのことは置いておいて自身やマエストリ伯爵の攻撃を目論んでいた場合。

 今のところ疑惑だけであるから、これだけで二人を追い落とすことはできまい。

 問題なのはそれに証拠がついてきた場合……

 現状それはないと侯爵は踏んでいるが、もし出てきた場合、そのまま扱いは慎重にしなくてはならない。

 目の前の女貴族もそうだが、自分の周りの貴族も無視できない。

 同じ派閥にいると言っても一枚岩ではないのだ。

 派閥のトップから追い落とそうと狙う貴族も多い。

 それらにも今回の一件は朗報となってしまう可能性がある。

 だからこそ、相手を若輩の女貴族と侮り、気を緩めることはできないのだ。


 そんなことを考えている間に部屋の扉が開き、今日の主賓の少女がメイドを伴いやってきた。

これだけ書いたのに話が進まなかった……

なぜだ?

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