真祖の吸血鬼
前回のあらすじ:血ぃ~吸うたろか~
(一同) そんな話じゃなかった!!
吸血鬼、人の血を糧として生きる怪物。
不老不死であり、その肉体は鏡に映らず、人家には招かれなければ入ることもできない。
反面、陽の光や流水、銀や十字架のような聖なるものやニンニクなど弱点も多い。
とはいえ、ここは異世界、ヒト以外にもエルフ、獣人、魔族などいわゆる亜人と呼ばれる人種も数多くいて、吸血鬼自体もそれほど珍しくない。
いや、陽の光を嫌う、弱点である彼らが昼間に人里に現れるという意味では珍しいかもしれないが。
逆に言えば、陽の光さえ何とかなり、何とかならなくても、他の人間に友好的な吸血鬼も多くいて、街に暮らしていることも多い。
ちなみに、血液に関しては両者合意なら吸ってもいいし、販売業者もいる。
しかし、いきなり人を襲い血を頂戴しようとするのは殺人になるので当然犯罪である
という訳で
「いきなり斬っても大義名分あるから問題ナーシ!
どりゃあああ!」
トリナが吸血鬼に斬りかかる。
吸血鬼はトリナを一瞥するとすぐさま後ろに下がって距離をとる。
「若くて活きのいい女…… お前の血も旨そうだなあ……」
「悪いがそいつの血はやれないな」
サリアが吸血鬼の後ろを取っていた。
「回る雷撃!」
「がっ!」
サリアの電撃を伴った回し蹴りは吸血鬼の背中に命中し、相手は片膝をつく。
その身体は痺れているだろうに、すぐ立ち上がり高く飛んで再び距離を取った。
「殺すつもりの威力だったんだけどな」
「無駄だ。
私は十三人いる真祖の一人、サウード=ウェーバー。
貴様らなんぞでは殺すことはおろか、封じることすらできんわ!」
「じゃあ、試してみるか!」
シャルが脇からサウードの頭を横に薙ごうとする。
サウードは頭を下げて躱し、それと同時に爪を伸ばしてシャルに斬りかかる。
「水の型 その肆 潺」
シャルはそれを受け止め、かつ受け流した。
刀と爪が当たった瞬間、刀から水がほとばしった。
「参の型改 渦潮三連!」
攻撃を受け流したその身体の向きのまま、さらに体を回転させ、三度サウードを斬りつけた。
「ぐっっ!」
斬られてすぐ、サウードはダメージにたじろいだが、その傷はすぐに回復してしまった。
「シャル、浅すぎ。
もう少し深くダメージ与えられないとすぐ回復しちゃうよ」
「はあー!? 初手躱されたワンコに言われたくないんですけどー!?」
「貴様ら何を無視しとるか!!」
と叫んで二人に襲い掛かってきたサウードに対し、シャルが攻撃を受け流し、トリナが右手を斬り飛ばした。
「ぐああああ!!」
サウードはまた飛んで引いた。
「は! は! はぁ……」
サウードの右手首付近からは血が流れ出ている、しかし、その傷口から徐々に腕が生え、もう回復し始めていた。
代わりに斬りおとされた右手は、灰になって風に乗って消えた。
「う~ん、思いの外回復速いなぁ。
どうするよトリナ」
「回復速いったって場所によりけりでしょ。
人間にとって痛撃になるようなダメージなら回復も遅いはず。
例えば」
「首とか?」
サリアが二人のもとにやってきた。
「だな、よし行くぞ!」
シャルの合図で三人が一斉に飛び出した。
まず、トリナがサウードに斬りかかり、鍔迫り合いに持ち込む。
それによって自由が利かない内にサリアが接近する。
そして、トリナが離れると同時に、
「電撃の槍(エレクトリックスピア―)!」
サリアの正拳突きがサウードに命中し、体が痙攣をおこした。
命を奪うのではなく、痙攣をおこさせ、動きを一時的に封じる技。
身体の自由が利かず、膝から崩れ落ちたサウードの首をシャルが切り落としにかかる。
(無駄だ…… そんな薄い剣では首を落とすことなどできん)
と、サウードは思っていたのだが
「そんなことないさ」
一切抵抗なく、スッパリ首を落とされた。
「お前カタナ知らなかったろ。
使うやつが使えば相当切れるんだよ?」
と、しゃがんで吹っ飛んだ頭に話しかける。
身体は少しふらついたあと後ろに倒れ込んだ。
サウードに言うことでもないので黙っているが、刀は確かに薄いので折れやすい。
ただし、それは力の入れる方向を間違えた場合である。
斬る方向に真っすぐ、素早く刃を入れれば折れることはない。
とはいえ言うほど簡単なことではなく、それこそシャルが相当な腕利きであることの証明ともいえる。
「そうか……なかなかやるじゃないか。
だがまだ甘い!」
サウードは頭と胴体が離れたままであるにもかかわらず、喋り出す。
そして体もひとりでに起き上がり、シャルの背後から襲い掛かった。
ガキン!
二人の間に割って入った者がいた。
吸血鬼に爪を盾で受け止めた。
「これはこれは、いつの間にやら姿が見えなくなっていたハリィちゃんじゃないですか。
今まで何してたんだよ」
「いやいや、コレ買っとったぜよ。
流石に相手の攻撃は受け止めきれんと思って……
警戒しすぎやったか?」
「ああ、体が丈夫で回復速いことを除けば、十人並だ」
「そうか、ならおとなしくしてもらうぜよ!」
ハリィは盾を放り投げて、右手を引いた。
「みぞおちぱーんち!」
ハリィがサウードに放った一撃は彼女の硬化魔法で石のように固くなった右腕の為に、すさまじく重い一撃になった。
それこそ、高いところから鳩尾に大きめの石を落とされるがごとしだろうか。
「かっ! はっ!」
今度こそサウードの身体はその場で崩れ落ちた。
頭のほうは下半分が消えており、すぐに体のほうと統合されるのだろう。
人間なら意識をなくすところだがそれでもサウードは保っているようで、吸血鬼の身体には驚かされる。
「な、何故だ…… 私は真祖…… サウード=ウェーバー……」
「真祖じゃないでしょうが」
言葉を遮ったのはトリナである。
彼女は続けざまに畳みかける。
「もし本当に真祖なら、私たちは一瞬で始末されてた。
戯れに手加減してたにしても弱過ぎる。
だってホントの真祖なら私やシャルの剣なんて、躱さなくても受け止めきれる。
それこそ、傷さえ負うことなくね」
「違う…… ワタシハ……」
サウードは否定するがそれをサリアが否定する。
「違うなら…… なんで魔法を出さない?
出せないからだな。
攻撃に使えるほどの魔法を出せないんだ
その時点で真祖じゃないじゃないか。
陽の元に出ているから……中級くらいか?」
「どっちでもいいさ。
おとなしく連行されてくれよ。
いきなり暴れた理由に憲兵隊は興味津々だろうからね」
そうシャルが締めくくった。
「チガウ 私は 真祖の サウード ウェーバー
負けル事は許サれなイ」
そう言うとサウードはポケットから小瓶を取り出し、中の液体をすべて口の中に注ぎ込んだ。
「お前今何飲んだ!?」
サウードはそれに答えず、体を痙攣させ始めた。
するとサウードの身体の筋肉が一回り膨れ上がった。
その姿は吸血鬼というより獰猛な野生生物のようだった。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ…… ハァ、ハァ、ハァ」
「なあ……サリア、あれなんだと思う?」
「よく判らないが……確かこの町あのオッサンが変な薬流通させてたんじゃなかったか?」
あのオッサン―――それは、アズーロ=ライネルのことである。
彼は、商人として様々な商品を取り扱っていた。
それこそ、食料品や雑貨、生活必需品などは勿論、表立って扱えないような代物まで……。
先刻、そういった商品の運搬に彼女たちが知らない内に手伝わされたところである。
そして、今回彼女たちが運ばされた品物が違法薬物である。
「毒性が強くて確か気分が高揚するとか……
ドーピングみたいな効果もあったんやの」
「毒性強くて、人間なら身体を壊すような薬でも体が丈夫な吸血鬼なら関係ないってか……」
「さぁ…… 始めようか…… 今度こそ真祖の力を見せてやる」
「まだ言うか」
「もう吸血鬼ですらないぜよ……」
(シャル) 知ってるか? よく切れて、折れず、曲がらないってのを共存させるのってを難しいんだよ?




