LegendVI キューピー
「ねぇ…勇者って奴が現れたらね…僕がやっつけなきゃいけないんだってぇ…」
何百と言う人形が薄暗い部屋中、所狭しと並べられていてなんとも怪しい雰囲気を醸し出している。
その人形の中の一つの様だが、周りの人形よりも少し大きめな少女が喋る筈など無い人形の山へと声をかけた。
【ルリィのコトは俺が守ル。大丈夫…安心シロ】
人形の山の何処からかカタカタと機械的な…それでも何処か人間味のあるような声が聞こえてくる…
「ありがとっ。キャロロ」
読書をしていた少女はにこっと口元を緩ませた。
「一番近い扉は……此処だな。行くぞ」
地図を見ていたテナーが顔を上げて言う。
「ふぁ……ねみぃ…随分張り切ってんな。」
「張り切っている?馬鹿を言うな。貴様の為に仕方が無くついてきてやっているのだ。感謝しろ」
「………へいへい。」
俺達が向かうのは隣の国へ向かう途中にある扉………らしい。
アルトから受け取った扉の地図はテナーが握り締めていて見せてくれる様子が無い。…まぁ俺が地図を持っていた所でどうしようも無いのだが。
…って言うかなんか俺、家来みたいじゃね?
「何だ。言いたい事があるのならはっきりと言え。」
「い、いやっ別になんでもねーよっ!」
「いや、絶対何か言いたい事があったろう。言え。」
「だから何でもねぇって!しつけぇっ!」
「なっ!!しつこいだと…?貴様が何でもかんでも表情に…」
――――――もぞっ
「「……?」」
――――――もぞもぞっ
「「…!?」」
そんな風に言い争っていた最中だった…
手に持つ俺の鞄がもぞもぞと動き出したのだ。
「ちょっと!何か動いてるんですけど!!」
「貴様の鞄だろ!さっさと確かめろ!!」
恐る恐る…ゆっくりと鞄のジッパーを開け……
「きゅっぴぃぃいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
「ぎいゃああああああああああああ!!!!!!!!!」
まるで剛速球が飛んで来るかの様な勢いで鞄の中から飛び出してきた「何か」の所為で俺は腰を抜かしてそのまま地面に尻餅をついた。
「いっ痛ぅー……くそっ!何だ今の!不意打ちすぎるぞ!」
「おお、キューピーではないか。何故貴様…こ奴の鞄の中に居るのだ?」
「…………キューピー?」
落ち着いた後でよく見てみると丸くてふわふわしている………アルトから受け取った「何かよく分からないもの」だった。使い道が分からなかったので適当に鞄の中にポイッと放り込んでおいたのだが…まさかコイツ…生き物だったとは………。
「な……何なんだよこいつは…っ!」
「通信獣もとい物質転送獣もとい兄さんのペットだ。」
「つうしんじゅう?ぶっしつてんそうじゅう?」
俺が頭にハテナマークを飛ばしていると「ハァ…」とテナーが溜息をつき、「口で言うより見た方が早い」とキューピーと呼ばれるこの丸い物体に話かけた。
「兄さん。応答できるのか?まさか死んでしまったわけでは無かろう。」
すると、暫くの沈黙の後、キューピーの口が開かれた。
「…おや、その声は…テナーですね。私もフラワも幸いな事に無事ですよ。」
アルトの声だ。キューピーが口を動かすのと同時にアルトの声がそれから聞こえてくるのだ。
「ふん。ならば良い。心配等微塵もして無かったがな。」
「またまたぁ〜本当は心配していたんでしょう?」
「ばっ馬鹿者!しているわけが無かろう!」
そうか!「キューピー」とは言わばトランシーバーとか電話とか…そういう類の物なのか!
『獣』と言う位だからやっぱり一応は生き物と言う事なんだろうが…
「そうそう。正人に渡し忘れた物がありました。」
キューピー越しにアルトが俺に話しかける。
「あー?渡し忘れた物?」
「えぇ、今から送ります。」
そういえばテナーはキューピーの事を「物質転送獣」と言っていた。物質転送…つまりキューピーは物を送ったり受け取ったりも出来るわけか………うーん…よく分かんねぇけど…なんか凄ぇ!
…………でも…どうやって受け取ればいいんだ?
…そんな俺の疑問はすぐに解決された。
キューピーの口が大きく開いて其処から何かが出てきたのである。
「さぁ、受け取りなさい。勇者の剣を!!」