LegendIII マーガレット
「花房………!?」
そう言った後で彼女は「花房梅」では無いという事に気がついた。
花房の髪は茶髪で肩に付くくらいの天然パーマなのに対し、今目の前に居る少女は青?というより緑色ストレートの髪…傍から見ると物凄く不自然な髪色である。
しかもその色がやけに似合っているのだから何とも言いようの無い、不思議な気持ちになった。
そしてまるで漫画かなんかに出てくるような………民族衣装のようなものを身に着けていた。
俺が驚くのと同じように、少女の顔もまた、驚いたような表情をしていた。
少女の足元にはこの花畑で作ったのであろう…花冠が落ちていた。
きっとさっきのバサッと言う音はこれだったんだろう。
少女は俺の言った言葉に対して何の反応をする事も無く俺に向かって
「ゆ、勇者様がおいでなすった………!」
と一言呟いてその場にへたりと座り込んでしまった。
「だ、大丈夫か…?」
俺は座り込んでしまった少女に近づいて手を差し伸べた。
少女はぼぅっと…虚ろな目で俺を見上げているだけだ。
「よかったよ。人っ子一人見当たらなかったからよ…。とりあえず、此処は何処なんだ?」
少女は依然として虚ろな目を俺に向けたまま。……俺の質問には返答無し。ちょっと寂しい。
「おーい」
手をひらひらと少女の前でひらつかせ、呼びかけると少女はハッとして「すみません」と謝った。
「で、此処は何処で、君は誰なんだ?勇者って?」
「勇者様が絵本の中から飛び出して参られた…」
「絵本?ってこの落ちてた絵本か?」
「勇者様は私達の世界を救うために参られた…」
全く話が噛み合わないのですが。
「はっ!お兄様に伝えなければ!!お兄様っ!おにーーーさまあああああ!!!!!」
突然立ち上がった少女は、落とした花冠を拾ってしゃがんでいた俺の頭に乗せ、走ってその場を去っていった…。ぎゃーとかうわーとか変な奇声を発しながら。
とりあえず…彼女はお兄様とやらを呼びに行ったらしい。
此処は無闇に動かない方がいいか。…きっとその内お兄様とやらが来るだろう…
あの少女より話が噛み合う奴だと良いんだが………。
一体何分経っただろうか。
ぼーっとしているだけじゃ、時間が経つのも遅く感じるんだろう…。
再び絵本に手をかけた時、遠くから声が聞こえてきた。先程の少女の声だ。
目を凝らして遠くを見ると、少女の後ろに背の高い一人の青年がついてきていた。
「お兄様!この方です!勇者様なのです!」
「ほーう。君が。」
俺のすぐ傍まで青年が近づいてくると、にっこりと微笑んで会釈した。
俺もつられてペコリと軽く頭を下げる。どうやらこっちは話が通じそうな奴だ。
青年は腰まで伸びた銀髪で少女と同じストレートの髪、そして少女と似たような民族衣装で、装飾品をたくさん身に着けていた。
「で、俺…全く今の状況が掴めてないんですけど……どういう空気なんですか今。KYなのは俺の方なんですか…?」
恐る恐る聞いてみた。
もしかしたら劇団の劇の練習とかにつき合わされてるんじゃないだろうな。俺は…
「おや。フラワ?彼に事情は何も話していないのかい?」
「え。あ、はい。………興奮してまして…」
「はぁ…呆れた妹だ。彼が不審そうな目つきで此方を見ているのにも説明がつきますね。」
青年は俺の方に視線を戻し、話を始めた。
「まずは自己紹介から。私の名前はアルト・マーガレット。気軽にアルトとお呼びなさい。そしてこっちは妹のフラワ・マーガレット。少しおっちょこちょいというか…前が見えてない子なのさ。以後御贔屓に」
「はぁ…」
「フラワが言うには君はその絵本から出てきた…とか。」
アルトは俺の持ってる絵本を指差して問いかけてきた。
曇りの無い笑みで。だがしかし、少し人を見下した態度が気に食わない。
「いや、俺は校外学習で山に来てて……そんで…寝て…電話来て……」
そこまで来て俺は気がついた。
携帯電話の存在に。
ポケットを探ってみるとよかった…入っているようだ。
急いで携帯を開く。
画面は………真っ暗だった。