三話
___夢乃が飛び降り自殺を図ってから一週間。
雪兎は夢乃が隠れて住んでいたマンションの部屋に佇んでいた。
夢乃が自ら飛び降り、二人が病院にいる頃近隣住民から通報があった。その通報により雪兎と柊也はあの後警察に話を聴かれた。夢乃と二人の関係。夢乃が突然姿を消したこと。それ以外二人は何も話さなかった。そう、何も。自殺にまで至った夢乃の残酷な過去も、白沢雪兎の姉、白沢叶のことも。二人の事情聴取は当然個々で行われたが互いにどこまで話すかは分かっていたようだった。
夢乃のことに至っては運良く一命を取り留めた。
だが、医師によればもう一生目覚めることがないかも知れないと言う。それでも二人にとっては奇跡のようなことだった。実際一命を取り留めるのはかなり奇跡的なことだが、普通の人なら一生目覚めないなんて聞かされれば上げて落とされたもいいところ。
だが二人は今夢乃がこの世にいること事態が心の救い。大袈裟に言ってしまえば生きがいそのものだった。
「これか。小学生から付けてた日記。」
雪兎はなにかにひかれるように寝室へ向かった。机の前で立ち止まる。綺麗にファイルの上に置かれた一冊の汚れた日記帳を手に取った。
小学校に通っていた時期から使っていたというのも分かる程年期が入っている。裏表紙には珈琲の染み跡、表拍子には可愛らしい剥がれかけのシールなどがついている。まさに思い出その物のような品だった。
「随分、染みが多い。」
一度だけ雪兎はそれを見せてもらったことがあった。その頃よりも明らかにふやけた表紙。きっと夢乃の涙のせいだろう。そう雪兎は悟った。大好きだった親友との思い出の品を目の前に泣くなというもの無理な話だ。
雪兎は剥がれかけのシールを貼り直すように優しく撫でる。そうやってもすぐにまた剥がれてしまった。それを気にも留めずじっと日記を見つめる雪兎。その瞳は緊張の色が見えた。
前に一度見せてもらったと言っても、今より小綺麗だった表紙だけ。中身も見せてほしかった雪兎は何度も見せてほしいと強請ったのだがその時は、夢乃が恥ずかしがってかたくなにそれを見せようとはせずに、死守し続け結局中身までは見せてはくれなかった。
開いてみると最初には書き始めた日付、理由などが綴られている。書き始めたのはまだ小学五年生の時のものだった故お世辞にも綺麗とは言えない文字は読みにくい。文を読むに、これは叶と夢乃がお揃いで買ったもののようだ。次のページには前のページの日付から一ヶ月経っていた。どうやら一ヶ月ごとに書き進めていくらしい。それなら小学生時代から新しく買わずに続けていられたことに納得がいく。
「ん?」
どんどんページをめくっていくと何やら気になるページがあったのか雪兎はその手を止めた。