ボーナス
「おーい『昼猫』。さっさと出てこい、居るのは分かってるんだ」
「は〜〜知らないよぉぉぉ他の鍛冶屋に頼めよぉぉぉぉぉぉ」
「NPCじゃないの?」
「一応プレイヤーなんだ。昼間は外で腕を鳴らしている。だから『昼猫』て二つ名を与えられてる」
「渉君の知り合い?」
「親父方の従妹。北海道にいる。可愛いと言えば可愛いが…性格が勿体無い…叔父さんはどう育てたのやら…」
目の前で見ているように、極度の面倒くさがり屋。
「…これやってくれたら『金だこ』のたこ焼き奢るから」
「「ホント!?」」
そして、すぐに物で吊られる。
へいへいいらっしゃい、と2人の女の子がでてきた。私たちより一つ下かな?しかもすごいソックリ。
「言ってなかったな。双子の直音と継音。苗字は吉野」
「で何のようだい!?」
カーソルに「Sugune」と出ている方の子は話してきた。ダメだ。つかみどころがない。
「メインの用は俺だ。この装備を軽くしてくれ」
と、渉君が強引に話の流れをぶった斬る。ナイス。
「え〜〜『獣風』と『草原の守り人』?普通に合計1000まで下げられるけど、ロスト率ちょっと高めだね」
直音が手元のパネルをスワイプして困惑しているみたい。
ですよね〜、いきなり超激レア装備を渡されても。
「ロストしても金はしっかり払う。別にいいだろ?俺の経験値も上がるし、オマエらの鍛治スキルも上がるし」
「後悔しない?」
ずいっと渉君に顔を近づけるが、彼は一切動じない。
「終わったらメッセージ送ってくれ。ニセ物渡してもすぐバレるからな」
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「うわぁなによこの攻撃!?服ビチョビチョで気持ち悪いんですけど!?」
これ覚悟で来ただろ、と心で反論している。
とりあえず、時間潰しのつもりで入った期間限定クエスト「水田の猛者」。広範囲の水属性攻撃を繰り返すモンスターが大半を占めるクエストだが、ツインで攻略すれば経験値を稼ぐことができるので入ってみた。
HPはほとんど減っていないわりに、精神的に少しキている手塚。対して俺は農耕兵防具セット、星3となんとも言えない装備だが、「農耕」というだけあって対水属性は高性能だ。
武器は変わらず「鎖燕」。
無属性ではなく「属性フリー」という変わり種。日本刀自体レアだが。
チュートリアル終了直後の転送先で洒臭いオッさんに押し付けられた武器。どうやら最大3つ属性を選択でき、任意で切り替えられるようだ。
最大の弱点は、盾が装備出来ない事だ。その為、広範囲攻撃はもろ当たるわけで。
「グダグダ言わずに。真面目にHP削り切られるぞ」
しょーも無い話は切上げ、強いモンスターがいない狩り場を進む。
出口で終了を宣言して帰るも良しだが、もう少し長居することにした。
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結局、彼らは「水田の猛者」をパーフェクトクリアした。サブクエストも一つだけで、リポップ十秒以内のモンスターを5体倒す「湧き潰し」クエストだった。
メッセージは未だ送られてくる気配さえ無いので、彼らの家に帰って行った。
「アレなんなの?!ヌメヌメしてたし、群れてたし。見た目もキモいし〜」
「ナメクジだろ?上の湖畔エリアはもっといたらしい」
「…ナメ……ク…ジ……………」
手塚は顔面蒼白。
そう、彼女はナメクジが大の苦手である。
「手塚ぁ、大丈b」
「いやあああああああああああああぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
武器の特性上、AGI優先でステ振りをしていた故に、システムアシストによってとんでもない速度で家の玄関に向かっていく。
絶叫と空気を叩く様な音をその場に残して行った彼女に注がれるのは、失笑と哀れみだった。