あかり
僕が大学時代の恩師に戴いた、誕生日プレゼントにまつわる一件である。
戴いた品はアンティーク調のランプだった。
明かりを灯すと、かぶせた傘に女性の顔が上品に浮き出てくるというものだ。
僕は早速お礼のメールをした。
ランプのほの温かい光に対する賛辞を述べ、特に浮き出てくる女性の美しさをたたえ、飾った写真も添付した。
後日、恩師から返信があった。
『女性の顔が浮き出るランプなど選んだ覚えがないので、店のほうへ問い合わせてみた。ところが店でもそういったランプは取り扱っていないそうだ。君ね、それ幽霊だよ』
それからしばらくして、恩師と会う機会があった。
「君、あの幽霊“あかりさん”どうしてる?」
「それが、日が経つごとに明かりと明かりの間を行き来するようになったんです。そのうち隙をみては噛みつこうとするので、機を見て外の街灯に追い払いました。幽霊っていうより、まるで妖怪ですね」
「妖怪の新種か。どうして捕まえておかなかったんだ」
そこで鼻息を荒くするのが、僕の恩師たるゆえんでもある。
恩師はその後、しばらく僕の住んでいる地域を夜ごと徘徊していたのだが、“あかりさん”はとうとう見つからなかったそうだ。