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私とゲームを作りましょう!  作者: 水池亘
〈WORLD 1〉
9/13

1 ― 3 (1)

「それで今日も寝不足なわけねえ」

 結衣の言葉に私は大きなあくびで答える。

「ふわあ……」

「まあ。女の子がそんなに大口をあけて。はしたないわあ」

「うるさいわよ……眠いんだから、仕方ないじゃない」

「せめて手で隠しなさいよお」

 確かにその通りだと思ったが、時既に遅し。

「寝不足になるまで一緒にゲームするなんて、さすがのちひろも西園寺君の情熱に心動かされたわけねえ」

「そんなんじゃないわよ」

 そう。そんなんじゃない……いや、そんなんなのか?


 西園寺のゲームプレイは、言うだけのことはある上手さだった。

 動きに淀みが全くない。流れるように次々と難所をクリアしていく。私が何時間もかかったステージも、数分とかからずに通り過ぎてしまった。

「はあ、あんた本当に上手なのね」

「何万回もくり返したからな。目隠ししてもクリアできるぞ」

「嘘っ!」

「嘘だ」

「……」

 じろりと西園寺を睨む。

「ある程度やりこんだ人間なら、俺程度のプレイは当たり前にできるぞ。そうだな、客観的にみて、上手さとしては上の下といったところだろう」

「ふうん」

 上には上がいるものなのか。

「お、そこにはワープゾーンがあるぞ。ほら、このブロックを叩いてやれば……」

「あ、ツルが出てきた」

「それを上ればワールド7へワープできる」

 このゲームは8つのワールドに分かれていて、それぞれのワールドには4つのステージ(面)が存在している。そのことは先ほど西園寺に教えてもらったばかりだ。

「ステージ7……ってことは、今はステージ4だからかなりのショートカットになるわね」

「そうしたら『全クリ』まであと少しだ。だが今回はあえて無視しようか」

「何でよ、もったいない」

「間のステージが遊べないだろう」

「いいじゃん、どうせ同じようなステージばかりだし」

「それがそうでもない」

 会話している間も、西園寺の操るマリアはノンストップで駆け続けている。もしかしたら、本当は目隠しクリアも嘘じゃないのかもしれない。

「Bボタンってずっと押しっぱなしでいいの?」

「ああ。慣れるとむしろ押しっぱなしが普通だからな。離すのは穴が多くて不安定な場所くらいだ」

「とか言いながらダッシュで穴も避けてるじゃん」

「ふふふ」

「なんかその笑み、むかつくわね。ちょっと貸しなさい。私にだってやればできるんだから!」

 こうして夜が更けていく。


「なるほどお。手取り足取り教えてもらったわけねえ。それも夜通し」

「誤解を招く言い方しないで」

「西園寺君の両親は、何も文句なかったのかしら。いきなり異性の家に一泊なんて、うちでは考えられないわあ」

「結衣はお嬢様だから、特別厳しいのよ、たぶん」

「まあ、そうかもねえ。ちひろの方は大丈夫だったのお?」

「何が?」

「いや、だって娘の部屋にずっと夜中まで男がいるわけでしょう。親御さんは心中穏やかじゃないと思うんだけどお」

「あー……母さんは『あんたにもついに春がきたのね』って笑ってたわ」

 あのニヤニヤ顔は今思い出しても腹に据えかねる。

「……ご愁傷様あ」

「どういたしまして」

 始業を告げるチャイムが鳴り響く。西園寺の姿は見えない。

 結局、西園寺は昼休みになって悠々と登校してきたのだった。しかし叱られもしない。

 恨めしい。

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