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気がつくと、頭上に気持ち悪いくらい青い空が広がっていた。所々に白い人工的な形の雲が浮かんでいる。足下には茶色いレンガのブロック。少し先に同じブロックがいくつか浮いている。
遠くの方は何故だか認識ができない。おそらく前に進めば見えてくるのだろう。そんな気がする。
とりあえず歩き出す。後ろにも行こうとしたのだが、見えない壁にぶつかってどうしても進めなかった。だから前進するしかない。
しばらくすると、遠くから猛スピードで走り来る人影が見えた。
あれは……。
西園寺?
「マリアは全ての横スクロールアクションゲームの祖先!」
叫んで、西園寺は思い切りジャンプする。
高い。
高すぎる。
ていうか、私に向かって来てない?
「踏みつけが攻撃法とは、すごい発想だ!」
西園寺の足が、私の頭上に近づいてくる。
うわ、やめろ! 踏むな!
死ぬ。
死んでしまう。
「うわあああっ」
*
「うわあああっ」
「む、大丈夫か? 桜井」
「はっ!」
飛び起きると目の前に西園寺の顔があった。
「ぎゃあ! 踏むな、踏むな!」
「何訳の分からないことをわめいているのだ」
「……あれ?」
青い空も白い雲も茶色いブロックもなかった。
ここは、私の部屋だ。
「どのような夢を見ていたのか知らないが、俺が桜井を踏むわけないだろう。早く現実世界に帰還しろ」
「……わかってるわよ」
どうやら寝不足がたたって、帰宅と同時に寝込んでしまったらしい。
恥ずかしいところを見られてしまった。
「まあ、桜井が俺を踏むことならあり得るがな」
「あり得ないわよ!」
「過去を振り返ってみろ。胸に手を当ててよく考えてみろ。そのぺったぺたな胸に」
「本当に踏んでやろうかしら!?」
「睨むな、単なる冗談だ」
「あんたの冗談は笑えないのよ!」
私は叫んで、そして時計を見る。
「え! もう夜の九時じゃない!」
「ああ、そうだな」
「あんた何時からいたのよ」
「午後四時二十三分五十四秒から」
「精密すぎるわ! ……じゃああんた四時間半もここでぼーっとしてたわけ?」
「ああ」
「何もしないで?」
「そんなわけはない。現在制作中のゲームのプログラムを組み立てていた」
そう言って西園寺は近くに置いてあったノートパソコンを指さした。
「まあ、それは三十分ほどで終わったがな」
「速っ! 残りの四時間は何してたのよ」
「桜井の寝顔を見ていた」
「はあ?」
「普段も意外とかわいらしい容姿の桜井だが、寝顔は特にかわいいな」
「な、何言ってるのよ! 冗談は止めなさい!」
「これは冗談ではない。俺は女性の容姿に関しては絶対に嘘はつかない」
かあーっと顔に血が上った。
思わず、掌底。
「うぐぇ!」
西園寺の心臓にクリーンヒット。膝から崩れ落ちる彼。カウント。ワン、ツー、スリー……。
「暴力は感心しないと何回言えばわかるのだ」
あっさりと西園寺は立ち上がった。どうやら致命的な一打ではなかったようだ。
「あ、あんたが変なこと言うからいけないんじゃない!」
「大丈夫か? 地球温暖化を加速させそうなほどに真っ赤だが」
「うるさい!」
握りしめたグーでリバーブロー。
「がほぁ!」
息を吐いて西園寺はまたも倒れる。
今度は10カウントを聞いた。