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私とゲームを作りましょう!  作者: 水池亘
〈WORLD 1〉
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1 ― 2 (3)

「あら、西園寺君、おはよお」

 結衣が軽く挨拶を交わす。彼女は西園寺とほとんど話したことはないはずだ。そういう初対面に近い相手にも物怖じせずに挨拶できるのが、結衣という女性の強みである。

「おはよう、烏丸」

 西園寺は笑って返答。

「あら、名前覚えててくれたのねえ」

「あたりまえだろう。このクラスの全員の名前を俺は覚えている」

 堂々と言う西園寺。

「別に誇ることでもないけどね」

 そんな私のツッコミを無視して西園寺は、

「桜井の友人ということは、俺の友人ということでもある。今後ともよろしく」

 そして結衣に向かって右手を差し出す。理解したように結衣も右手を差し出し、二人ががっちりと交わす握手。

 なんだ、こいつら。

「さて、桜井ちひろ」

「フルネームで呼ばないでよ。……何?」

「決まっている。マリアのことだ」

「別にそんな話、したくない」

「いや、重要なことなのだ。まずは俺の話を聞いてほしい」

「嫌」

「マリアは全ての横スクロールアクションゲームの祖先なのだ」

 かまわず話し始めやがった。

「まず、ただ右に進んでゴールにたどり着けば良いというルール。これがすばらしい。それまでのテレビゲームは、固定された一画面の中で敵を殲滅したり一定時間倒し続けたりすることが主な目的だったが、マリアはそこにアスレチック的な、『設置された障害物を乗り越えゴールにたどり着く』という要素を持ち込んだのだ。さらに、画面のスクロールという新たな技術を用いて、一画面ではない横長のコースを設置することに成功した。これは大きな発明といえる。

 さらに、ゴールすることが目的ゆえに、敵は必ずしも倒されるべき標的ではない。避けて進んでもかまわないのだ。倒してもいい、避けてもいい。選択はプレイヤーにゆだねられている。この自由さは当時衝撃的だっただろう」

「えっ、あのタケノコ倒せるの?」

「なんだ、わからなかったのか。ジャンプして真上から踏めば倒せる。一部の敵には例外もあるがな。そう、それも重要なことだ。攻撃方法が、ただジャンプして踏みつけるだけ。この発想はすごい。何故なら人間の攻撃法に『踏みつけ』は基本存在しないからな。武器を使うか、あるいは殴る蹴るなどするのが普通。桜井のようにな」

 ギロリとにらみつける私の視線を意に介さず、西園寺は話を続ける。

「操作性もすばらしい。普通に十字キーを押すとただ歩くだけだが、Bボタンを押しながらだとマリアは走る。そして走った状態でジャンプすると通常より遠くまで跳べる。走り幅跳びのように。慣性や重力も考えられていて、跳躍の軌道はちゃんと放物線を描くし、急に止まることもできない。現実とはかけ離れた世界造形でありながら、人物の動きだけはとてもリアルに作られている。それはつまりプレイヤーの実感そのままということだ。だから俺たちは、まるで自分で走ったりジャンプしたりしてているかのように直感的にマリアを操作することができるのだ」

 それはたしかに理解できる話だ。ゲーム無知の自分でも、なんとなく動かし方がわかったから。走りながらジャンプは、かなり難しかったけれど。

「さらに、オクラを取るとパワーアップするというシステム」

「何それ。私知らないわよ」

「ブロックを叩かなかったのか? 下方向から宙のブロックへ頭突きをすると、コインがもらえたりパワーアップアイテムのオクラが出現したりする」

「へえ」

「オクラを取るとマリアがスーパーマリアに進化する。通常なら一撃で死んでしまうマリアだが、この状態なら一度は耐えられる。残機が一つ増えたようなものだ。さらにスーパーマリアになるとブロックを破壊することが可能で、その上カリフラワーを取ればファイアボールを放てるようになる。すなわち攻撃手段が増える。これによって戦況はすごく有利になる。しかし一度でもダメージを食らえばまたチビマリアに逆戻りだ。また、穴に落ちたらスーパーだろうがチビだろうが関係なく死んでしまう。このあたりの、適度な緊張感を失わないゲームバランスも、とても良く練られていると言える」

「あー、あの穴はうっとうしいわね、確かに」

「語るべき要素はまだまだある。コノコノの存在が一例だ。のっそり歩く亀がいただろう? 奴を踏みつけて、手に入れた甲羅を蹴り飛ばすと、一列に並んだ敵を一気に倒すことができる。八匹連続で倒せば1UPだ! この爽快感!」

 1UPという言葉はわからなかったが、深く追求はしなかった。

「普段は意味のないアイテムであるコインも、百枚集めるとやはり1UPする。これは思わぬボーナスを得たような嬉しさがある。それとBGMもすばらしいな。地上面では明るく、地下面ではおどろおどろしく。ボスの城では緊張感を高める音楽。制限時間が百を切ったときに流れる高速の音楽はプレイヤーに否応なしにプレッシャーを与える。SEもいちいち心地いい。エタコンの音源数で良くもまあ、と感心せざるを得ない」

「まあ、音楽は確かにキャッチーよね」

「覚えやすいメロディゆえに頭にしみこんで離れない。口ずさむことだって簡単。ほら、こんな風に……」

「やらなくていいわよ」

「そうか? まあとにかく、スーパーマリアシスターズはあまりに良くできた革命的アクションゲームなのだ。1985年の発売当時から25年以上経過した現在に至るまで、マリアに影響されていないアクションゲームは存在しないと言って過言ではない」

「へぇー」

「どうだ。マリアのすばらしさがわかったか?」

「わかったわかった。わかりすぎて頭が痛いわ」

 正直かなりどうでもよかった。というか寝不足に西園寺の講義はつらい。それに長い。

「西園寺君、ゲーム詳しいのねえ。驚いたわあ」

 結衣は本当に目を丸くしている。純粋に感心しているのか、それとも呆れているのか。

「いや、この程度のことはゲーマーなら常識だ」

「そうなの?」

「ああ。特にマリアは最も研究の進んだゲームと言っていいからな。ロックミュージックでいうところのビートルズのようなものだ」

 ビートルズもよく知らないのだけれど。

「さて桜井、昨夜は結局どこまで進んだ?」

「へ?」

「マリアだ」

「あー、変なでかい怪獣みたいな奴にやられて、そこまで」

「ケッパだな。察するに、ワールド1だろう。何もわからない状態から自力でそこまでたどり着いたことは褒められるべきだが、しかしまだまだだな」

「そりゃあそうよ。ゲームなんて初めてやったんだから」

「よし、桜井。今日は俺が直々にマリアの攻略法を伝授しよう」

「結構です」

「桜井、部活には入ってないのだろう? 俺は部活に少し顔を出してから行くから、家で待っていてくれ」

「勝手に話を進めるな!」

 しかし、ああしかし、西園寺はどうしたってやってくるに違いないのだ。

「あらまあ。仲のよろしいことでえ」

 ニコニコ無責任に笑う結衣の顔が、イライラをさらに増幅させる。

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