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私とゲームを作りましょう!  作者: 水池亘
〈WORLD 1〉
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1 ― 2 (1)

 私にとって、イラストとはどういうものなのか。

 毎日普通に学校に行って、勉強もそれなりにやって、昼休みは結衣と一緒にご飯を食べる。家に帰ったら適当に雑誌や漫画を読んで、暇つぶしにテレビを見る。それにも飽きたら、絵を描く。好きな漫画の模写をすることもあるし、ぱっと思いついたオリジナルキャラクターを描くこともある。

 でもそれは単なる趣味だ。誰に見せるわけでもない。ただちょっと楽しいから描いている。知り合いに見せて回ったり、ネットのお絵かきSNSに投稿したり、ライトノベルの賞に応募したり、なんてことは考えもしない。想像するだけで、顔に血が上る。

「ただいま」

 少し本屋に寄り道して、帰宅したのは四時半過ぎ。

「おかえりぃ」

 出迎えた母が、妙にニタニタと笑っている。

「何よ、その顔」

「いや、ちひろもなかなかやるなあと思って。もうそんな年頃なのね、母さんびっくり」

「はい?」

 何を意味不明なことを言っているのだ。

 ハテナマークを頭に浮かべながら自室へ向かい、扉を開けると西園寺がベッドに座ってオレンジジュースを飲んでいた。

「お、ようやく帰ってきたのか。待ちくたびれたぞ」

 そのままバタンと扉を閉めた。

「か、母さん!」私は思わず叫ぶ。「なんで西園寺が私の部屋にいるのよ!」

「いやー、あなたが男を連れこむなんてねえ。うれしいけど、なんだか複雑だわ、母さん」

「何言ってんの!?」

「わかってるわよ。いっしょに遊ぶんでしょう? でもあなた、急にゲームだなんて、一体どうしたの?」

「はああああ!?」

 もう一度自室へ飛んで行って、くつろぐ西園寺を思い切りグーでしばき倒した。

「あひゅう!」

 奇妙な叫び声をあげて西園寺は吹っ飛んだ。

「痛いっ! どうして俺が殴られるのだ!?」

「あたりまえでしょ! 何勝手に上がり込んでんのよ!」

「きちんと母上の許可は取ったぞ」

「私の許可を取れよ!」地団駄を踏みつつ叫ぶ。「何で私がゲームやることになってるの!」

「いや、やるだろう。やらないのか?」

 心底疑問だというように首を傾げる西園寺の顎に左アッパーをたたき込む。宙に舞う西園寺。ノックアウト。カンカンカン。

「勝った……」

「何に勝利したというのだ」

 ゾンビのようにのっそりと西園寺は立ち上がる。

「暴力はやめてほしいものだな。力に頼るのは醜い。知性ある人間がやることではない。というか単純に痛い」

「あんたのせいでしょうが!」

「そうか、桜井はSなのだな」

「Sじゃないわよ!」

 納得したように頷く西園寺の額に裏拳。

「ぐほぅ! ……まるで説得力がない台詞をありがとう」

 憎まれ口を叩きやがって。

「まあ、戯れはこれくらいにして」西園寺はパンと手を叩いた。「さっそくゲームをやろうではないか」

「へ?」

「すでにセッティングはしてある。ほら、この特殊接続ケーブルを見ろ。これはスイッチ一つで接続ハードを切り替えられる優れものなのだ。まずはエタコンからがいいか。さすがの桜井も任編堂(にんぺんどう)のエターナルコンピューターくらいは知ってるだろう? 確かにかなりの旧世代ではあるが、テレビゲームを世に認知させた革命的ハード機だからな。しかも最初期型だぞ、この本体は。もう生産終了しているから、丁寧に扱えよ。ソフトは、やっぱり初めはマリアから、いや桜井なら格ゲーの方が……」

「出ていけ」

 私はわなわなと震える。

「どうした、桜井。寒いのか? もう初夏も近いというのに。ああ、武者震いだな? それともトイレが近いのか?」

「出ていけええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」

 思いきり足で蹴り飛ばし、西園寺を部屋の外に追い出した。

 即座に扉を閉め、鍵をかける。

 それでも西園寺は明るい声で、「うむ、やはり最初はスーパーマリアシスターズをやるといい。電源を入れるだけで始まるようセットしてある。名作だぞ。名作。明日感想を訊くからな!」と扉の向こうでしゃべりたおす。そして去っていく足音が聞こえた。

「はあ……」私は頭を振った。

 どうかしている。

 部屋の中央には大小様々なゲーム機が整然と並べられていた。丸みを帯び、こじんまりとたたずむ可愛らしいもの。ばかでかい直方体形状のいかついもの。中には赤い双眼鏡のようなものもある。全部西園寺が持ち込んだものらしい。

 そのうちいくつかには見覚えがあった。おそらくテレビのCMか雑誌で見かけたのだろう。しかし見たこともないハードの方が多い。

 脇には大量のソフトが詰まった箱が三つほど置いてある。ざっと見て、少なくとも五十本以上はあった。いきなりこんなに大量のゲームを無理矢理に貸し出されて困惑しない女子高生がはたして存在するのだろうか(反語)。

「はあ……」

 今日、自分は何回ため息をついただろう。

 気を紛らわせようとテレビをつけると、画面には何も映らない。どうやら西園寺が外部入力モードにしていたらしい。本当に準備は万端だったようだ。

 テレビの前に、一つのゲーム機が置いてあった。

 赤と白の、比較的小さな機体だ。

 左右のポケットに、十字や丸いボタンのついたコントローラーが納められている。

 前面部には、金に光る『ETERNAL COMPUTER』の印字。

 どこかレトロな雰囲気をかもし出している機体だ。

 どこにも汚れ一つなかった。まばゆい白色が光を反射する。明らかに整備が行き届いている。

 エタコンって、これのことか。

 西園寺はたしか、最初期の貴重品だと言っていた。そんなものを気軽に貸し出すものだろうか。それも、何も知らない素人に。

 中央のソケットには、すでに黄色いゲームカセットが挿入されている。下部に『スーパーマリアシスターズ』の文字が印字されていて、そしてその上では女の子のデフォルメキャラがジャンプしていた。

 このキャラを私はどこかで見たことがあった。

「……何か、結構かわいいわね」

 私はじっと、そのソフトを見つめる。

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