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幸せな木

作者: 荒北 英俊

 昔々、大きな木が丘の上に立っていました。

 木は歩くことができないので、遠くを見ることも他の木達と話すこともできませんでした。けれども木はそのことを不幸だとは思いませんでした。何故なら春には虫たちが花粉を求めて木の所へやってくるし、夏には人間が日陰を探して木の下に遊びにくるし、秋には鳥たちが木の実を食べにやってくるからです。

 木はみんなといろいろな話をしました。見たこともない花のことや、街の中を流れる川の音、音楽が好きな異国の話し。

 


 木にはどんな話もとても魅力的でした。

 木はいつしかいろいろなものを見てみたいと思うようになりました。そして木は歩ける足が欲しくなって神様にお願いしました。すると、木の根っこはみるみるうちに地面から抜け、二本の足になりました。木はうれしくて、すぐさま駆け出し、世界に旅立って行きました。

 


 まず木が初めに見たのは、大きな都市でした。

 木はそれを見て感動しました。自分より大きなビル、行き交うたくさんの人々、活気がある店の数々。木にはどれも初めてで新鮮でした。

 しばらく歩いていると声が聞こえてきました。助けて、助けて。木は声のする林のほうへ向かってみました。木が見たのは一人の男と同族の木でした。男は言いました。俺はここに新しい会社を建てるんだ。こんな木はなんの役にも立たない。切り倒してしまおう。同族の木は精いっぱい止めてと叫びました。けれども男には木の言葉は理解できません。同族の木の声はどんどん小さくなり、やがて何も言わなくなりました。

 木は怖くなって逃げ出しました。しかし、男に見つかってしまいました。歩く木なんて珍しい。見世物にすればかなり儲けることができるぞ。そう言って斧を片手に追いかけてきました。木は死に物狂いで走りました。とにかく西へ西へ。

 


 なんとか逃げ切った木が次にたどり着いたのは、小さな田舎町でした。こんな平和そうなところだったらもう怖い思いをしなくて済むだろう。木は安堵しました。

 木は一軒の民家を覗いてみました。その民家では若い男と女が話をしていました。男が言いました。こんな調子では税金なんて納めることなんてできない。女はそれを聞いて言いました。もう娘を売るしかない。大丈夫よ。私たちの娘は双子ですもの。そうして買取屋に連絡しました。

 買取屋の前には双子とその母親がいました。母親は買取屋に言いました。こっちの子をお願い。いいえ、やっぱりこっちを。妹は安堵しました。姉が連れていかれる前に母は言いました。やっぱり、姉はダメ。結局連れて行かれたのは妹でした。妹は外で見ていた木に向かってこう言いました。お母さんがいらなかったのは本当に私。それともおねいちゃんのほう。

 木はやっぱり恐ろしくなって逃げだしました。

 


  その時でした。さっきの斧の男に見つかってしまったのです。逃げた木に怒った男は斧で切り付けてきました。足に斧が当たった木は倒れてしまいました。男は木に向かっていいました。もう歩けないなら価値なんてないな。切ってしまおう。

 


 意識が薄れてゆく中、木は思いました。こんなに世界が悲しみに満ちているなら、世界なんて知らなきゃよかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 姉が 連れていかれる前に母言いました。やっ ぱり、妹はダメ。結局連れて行かれたの は妹でした。 この部分なのですが 姉が 連れていかれる前に母【は】言いました。やっ ぱり、【姉】はダメ…
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