世界と未来と世界と
世界を変える準備は出来た。
その前に、揺らぐ前に確固たる誓いをより強固にするために。
「約束通り、殴ってでも止めたよ。」
「そうか、ありがとう。それで「それで、もうあいつは思い出そうとするような仕草はしてないぜ。俺が見てる限りでは。」」
「なら、良かった。」
「たぶん諦めたんじゃないの?それにしても「これは彼の為なんかじゃない。」」
「ふぅん。」
「 ただの俺のわがままだ。言うなれば俺が君と約束を果たす為だ」
「でも提示したのは」
「ああ、俺のが先だな。結局、俺の目的の中に君との約束が最初っから含まれてたわけだよ。だから言っちゃえば、約束は簡単さ。ただ、この目的は難しい。」
「でもあんたなら。」
「そのつもりさ。約束を守ってくれたんだからこっちも守らないとな。」
「そこまで無理しなくても…いや、無理してでもじゃないと無理だよね。」
「ああ、覚悟も決まってる。」
「それで?」
「これから行動に移る。」
「頼もしいね。」
「頼ってくれていい。」
「はは」
「ふっ」
2人して夕暮れの空を隣り合わせにベンチに座って見上げる
「あー、一ついい?」
「何?」
「邪魔だけは、しないでね」
「…どうだろうね。僕達の約束は繋がった。でも目的は全く違う方向を向いてて、繋がることはない。衝突やすれ違いの可能性を残して。」
「「俺は約束より目的を優先するよ」」
お互いの自分の心臓に親指を立てる。
互いの意思を示し合わせた後、悪くはない虚無感がその場と俺たちの心支配した。
「ああそうだそうだ。確認するけど、言い換えたら?」
「ん?あぁ。単純さ、俺の自己満足さ。」
「自分勝手な目的だね。」
「『目的』は自分勝手なのさ。俺がそうしたいからそう頼んだ。」
「約束なんか交わさなくても自分で出来たんじゃないの?」
「そりゃあ出来るよ。でも、目的の為にも、約束の為にも俺はあまりあの子に干渉しちゃいけないんだ。」
「ふぅーん。」
「なかなか難しいんだぞ?」
「あんたが決めたんでしょ?あいつには決めさせておいて。」
「それは、まあ、ね。俺は諦めるように仕向けただけで、諦めたのはあの子さ。」
「違うね。」
「違わないよ。」
「いいや。」
「…」
「あんた本当に自分勝手だな。」
「知ってる。」
「自覚してるならまだましか?俺も大概だけどね。」
「そうだね。」
笑顔で返す。
「うわっ…ちょっと報酬として一発殴らせてよ。」
「嫌だよ、痛いじゃないか。特に君のは。」
片掌もう一方で拳を突きバシッと音が響く。
「まあね。自信はあるよ。ね、試しにさ。」
「嫌だってば。」
「ちぇー」
本気でがっかりしてるようにも受け取れる仕草をした。
「まあ、本当、ありがとう。止めてくれて、助けてくれて。」
「いいや、まだ助かっちゃいねーよ。それがあんたの目的で有り俺たちの約束でしょ?」
「ああ。」
「じゃあこれからも頑張って。よっこいしょっと。」
「ああ。君も目的に向かって頑張って。」
彼は立ち上がって俺の方を振り返った。
「言われなくても。それじゃあ。」
そういってしばらく瞳を覗き込んだ。
俺は彼の中に純粋な目的に対する異常な情熱を見た。
彼は、俺の中に何を見ただろうか?
彼の眼に映る俺の瞳には何も窺えなかった。
「もう会うことはないのかな?」
「いや、でも会わない方がいいね。」
「かもね。」
「あの子を頼んだよ。」
「それはこっちのセリフだよ。」
「そうだけど、でも、後短い間だけでもあの子を。」
「そのつもりだよ。」
「いいや、たまには目的を霞めてみてもいいんじゃないか。今を楽しんだってバチは当たらない。」
「バチは当たらなかったとして罰は受けるんだろう?」
「俺が許してやってもいいんだぜ?」
「いいや、しっかり受けるさ。ただ、後悔したくないんで、今を。」
「そうかい。なら「もういいんじゃないの?」」
「約束なら、1つあればいい。」
「ひょっとしたら君にはかなわないかも知れないな。」
「いつかあんたにも勝ってみたいな。」
「おお、怖い怖い。君はどこまで行くつもりなんだい?」
「当然行けるところまで。」
「さすが。」
「そしてその先に、必ず。」
「応援してるよ。じゃあ、行ってらっしゃい。」
「行ってきます!」
「せっかくなんだ、自分勝手に好き勝手に生きてみろ!」
拳を突き立て応えて公園を去っていく。
時々思ったのだが、彼はだいぶ漫画に影響を受けているようだ。
それも今の子供が読むには少し古い
今日から、この世界を変える。
正しい未来の為に、彼ら子供たちの為に。
まずはこの世界の異常を特定し抽出し、解決する。
その為には、
この世界全体を覆っている結界を破る。
そんなものは簡単だ。
掌を太陽に向けて、呟く。
「消えろ」
なんの変化もないが世界は変わった。
世界が平常なのだから異常はすぐに正常を見つけ出すはず。
だが、ここで待っている暇も気もなかった。
こちらから、出向く。
それだけ覚悟と決意がある。
大人として、男として、「 」として
やるべき事を果たす。
少し離れた所の高校の屋上で待っていた。
「ここで良かったか?」
サンタクロースが、何処からともなく背後に現れた。
「ああ。」
振り返り向かい合う。
「よく来たな。」
「逃げても追ってくる癖に、無駄なんだろう?」
「お前のした事、する事、全て、無駄。」
「そこまでは言ってないだろう?酷くないか?」
「どの口が言う」
怒りが込み上げてくる。
「まあどっちにしろあんたもそろそろ何とかしないといけないと思ってたんだけどね。寺での『借り』も有るし。」
「俺はもうお前を退かすことにした、世界から。それにお前にその『借り』は一生返せねぇよ。」
「いちいち偉そうだな。そういうの、好きじゃないんだが。」
「俺もお前が嫌いだね。」
「あっそう。嫌われるのにはもう慣れてるし。オレもコイツも。そんな事今更どうだっていいし。」
「どうでもよくないから、ここに来た。」
「あ、そうなの。ま、無理だと思うけど。」
「慢心は油断を生むぞ」
「忠告どうも。でもそのまま返すよ。」
掛け合いもこの辺りにして、指で相手の心臓に指す。
「どうかな。」
指先に力を込める。
「ふ、っ、っふふっふ」
サンタクロースが奇妙な含み笑いをしながら、握り拳を作る。
平然とした顔を偽りながらその額には、春先にも関わらず暑っ苦しい格好をしている訳とは違う理由で汗が伝っていた。
「さて、言い残す事は?」
さらに力を込めて、言う。
「ふっ、っ、くっ…ぐっぅっ、はっ」
サンタクロースは一瞬苦しそうな顔を見せ、すぐに拳を握り直し、唇の端を釣り上げた。
「慢心は良くない」
「おぉおおぉぉおおお!!!!」
サンタクロースが不敵に吐き捨て、
そのすぐ後勢い良く助走を、
ダン!ダンッ!!ダンッッ!!
3歩踏みだした後に拳が俺の頬をぶっ叩いた。
「ふぅー…ふぅー…」
サンタクロースが低く連続に息を吐き出す。
その隙に体を起こす。
確かに、何処で慢心が生まれていたのだろう。
だが、
「っ、無理は良くない」
口を開く瞬間走った痛みは口の中が切れている事を如実にしていた。
「どの【口】が言う?」
にやけ顔が最高に腹立つ。
だが、サンタクロースの拳は震えている。
それを見て、取り乱しそうになった心に余裕が戻った。
「ふっ、それくらいやってもらわなくちゃなぁ」
まったく、自分がまだまだ未熟な事が笑える。
立ち上がって再び指を指す。
「…」
「ぐっ、同じ事ばかりお前らは…!いつもいつも偉そうに…!」
「…」
「嫌いだ!大っ嫌いだ!クソ野郎どもめ!腐った世界め!」
その罵声は世界への嘆きか、自分への叱咤か。
「嫌いだ!クソッタレめ!」
溢れ出す涙と歩みだそうとする足。
「どうして!俺たちが!何で!」
出来るはずもない事をやろうとする。
叶うはずもない事を叶えようとする。
目的と手段が違えば、それはとても素晴らしく、尊敬に値するほど美しかった。
だが、その固執した愛が、歪な願望が、無遠慮な欲望が、輝きを放ち、その姿を明瞭で醜く華やかで穢らわしく力強く、美しく見せていた。
「…くっ…!」
阻む歩が止まらない。
どれだけ強めようと 、止まらない。
限界など勝手な決めつけだが、今は確かにそうだと言える。
それでも止められない。
「ふっ…」
つくづく未熟な自分が嫌になる。
伸ばした手で空を掴み、手元に引き寄せ、そのありったけを相手の頬にぶつける。
残念ながら相手の方が先にこちらの頬を捉えたが、
「ぐぅっ!」
それでも、意地で踏ん張り、ぶつける。
お互いによろけ合う。
痛かったのに、まだ痛い。
気のせいなのか気持ちのせいなのか。
どちらにせよ、早く次の行動に移らなければ、保たない。
「っぉらぁっ!」
もう一発かます。
相手が反撃するよりも早く、強く。
サンタクロースの体が宙に舞う。
「はぁ…っ!」
そのまま馬乗りになってさらにサンタクロースの頬を拳で叩く。
「はぁ、はぁ、」
こんなに動いたのは久しぶりで、すぐに息が切れてしまう。
対してサンタクロースは余裕そうに顔を歪めていた。
「知ってたか?」
「何をだ?」
胸倉を掴み起こす。
「どうしてお前が今になってこうしているか。を。」
「何が言いたい、何を知っている?」
「そのまんまの意味さ。犠牲に無しに人は生きれない。
人は、何かを犠牲にして記憶を取り戻す時がある。
その記憶を本能と言ってもいい。
だが、あいつらはそれ以外をも取り戻そうとする。
人ではないお前の記憶を犠牲に、あいつらは記憶を取り戻す。
もう、分かったんだろう?」
「!?」
絶句する。
「キャパシティーをオーバーしたあいつらの未熟な脳は処理に追いつけず熱を出し、その後何事もなかったように日常を過ごしながら日常を思い出し、最後に不意に覚醒する。
お前が阻止しようとしてる事はお前が発端なんだぞ。」
「あっ…っ…」
言葉が出てこない。
思い返しても、こいつの言った通りだ。
いつだって、あれほど大事なモノを忘れた時は彼らと出会っていた。
でも、だからって、
だからって!
「ふん!」
一発ゲンコツをサンタクロースの頬に突き刺す。
「始まりはお前らだろうが!
理を犯しておいて今更人に罪を擦りつけるのか!」
殴り続ける最中急に掴み止められた。
「オレは願いを叶えただけだ。」
「それは叶えられてはいけない願いだ!叶う事のない、願いだ!」
空いている手で殴ろうにもこれも止められてしまった。
「それでもオレは、叶えたぞ!願いを!」
そしてそのまま押し上げられ、反抗しようとしてしまい、その瞬間逆に手を引かれ身体ごと前のめりになった。
無防備を晒した顔に鼻の付け根を狙った頭突きが刺さった。
よろけた拍子に力が抜けてしまった拳を即座に放され首根っこを横から強引に掴まれそのまま地面に叩きつけられる。
掴んだままの手にさらに力が込められ、さらには両手で絞めにはいった。
「願いは!叶えられた。」
「ぐっ!っく…ぅうっ…!」
「オレは強欲なんだ!叶えられなていない願いを邪魔されたくないんでね!それも、叶わない願いだけどな!」
こいつは、どこまでも、どこまでも!
「まだまだこんなもんじゃ満たされないんだよ。もっとオレに絶望を!1回じゃ物足りなさ過ぎんだよぉ!」
「っ!」
気が付いた。思い出した。
ならば、やらねばならない。
「ぐっ!くっ、ぅぐぅあ、あぁっ!」
必死に力を振り絞り、拘束を解こうとする。
「なんだぁ?力まで持ってかれたかぁ?あっひゃっひゃっひゃ!」
非常に愉快に不愉快な笑いをする非道に気付かされた。
「かっ!も、っな!」
「んん?」
「っで!っも、くっ!」
手をサンタクロースの髭を大雑把になぞりながらその顔に添える。
さっき殴って出来たであろう痣を頬に見つけ撫でてやる。
そして不意に笑った。
サンタクロースは当然君悪がり手をはらった。
はらわれた後に手が落ちた場所はサンタクロースの膝。
形勢逆転、さっきとは真逆のこの状況で膝の上に置かれた手に少し力を入れてやる。
そうするだけで相手は何かを察知してすぐに後ろに飛び退いた。
「ゲッホッゲッホ!おぇ、う、うぇぇ、ケッホ!げ、おぇ!」
咳き込みながらも立ち上がる。
「かっぁ、ぁ、あーあ、ゲッホ!あ、あー。ふぅ、おぇ」
吐きそうになりながらもなんとか声も調子は取り戻したようだ。
「うっぷ、ふぅ。あーあ、もう、そんな事だったらもっと早く気が付けばよかった!」
気付いてしまえたなら楽だったんだ。
もっと早くに。
「何だ?」
当然怪しく思うだろう。
「いいや、特に、本当になんでもない、大した事じゃないないさ。
それより、まだ続けるか?」
「当たり前だろ?ここでお前を排除する。」
ですよねー。
「はぁ…」
ため息と共に油断や慢心も吐き捨てる。
なるべく節約して闘わなければ。
ゆっくりと息を吸う。
吸い終わった時、サンタクロースは目の前まで迫っていた。
「らぁっ!」
顔を狙った一撃目を防ぐ。
すかさず逆の手で二撃目の首を狙った突き。
予測が出来るなら躱すことは造作もない。
反撃も。
「っ!」
向こうは予測出来ていないような、反射で身を屈め躱した。
躱すだけでは終わらず、そこから鳩尾を狙ったボディブロー。
予測出来ないはずがない。
掌底で横から手首を払い除ける。
そのまま体を捻り払い除けた手をしっかり掴みその腕を軸に背負い投げ。
バランスを崩したまま投げられ受身が取れずにその場で背中を強打した。
腕を離さずに仰向けに倒れたサンタクロースを見下す。
「さっきまでと目の色が違うなぁ」
「それがどうした」
「ゲフッ。いんや、オレにも出来るんだよねぇ!」
赤い瞳が黄色に染まる。
反射だろうか、輝いているようにも見える。
そしてその瞳に反射する俺の目色は相変わらず金色には届かない琥珀色。
どこまでも未熟。いつまでも未熟。
なら、だから、
俺じゃなくあいつらが。
吐き捨てた筈の油断で体が引っ張られる。
掴んだ手を離すも遅く、無防備な胸にサンタクロースの足裏が迫る。
「ぐっ!」
一瞬息が苦しくなり一歩下がってしまう。
その隙に飛び起きたサンタクロースが獣の如く襲い来る。
「っ!?」
予測出来ても追いつかない。
追いつけない。
無邪気な子供のようにただ相手を傷つけるためだけの攻撃。
無意味な攻撃に戸惑って不意に出した腕を掴まれ肩に噛みつかれる。
そして噛みちぎられ突き飛ばされる。
「ぺっ、人間の肩はぁ美味しくねぇな。」
「くっ…」
抉られた肩を押さえながら立ち上がる。
「そうか、味付けがないからか。それもそうだな。
にしても、お前の本気もこの程度かよ。」
間違いなく慢心だ、が。
確かに今のままじゃ勝てない。
「ふ、これからだよ。」
はったりではないが、これをこいつはどう受け取るか。
「そいつぁ楽しみだ!」
正面から駆け出して拳を突き出す。
これは予想出来た。
だが、次は。
分からないから、躱すか、受け流すか、反撃するか。
迷った瞬間サンタクロースの顔が歪に笑顔に変わる。
そして拳が強く俺の胸を叩く。
殴り飛ばされるがすぐに立ち上がる。
「あっははははっ、その程度かい。まだまだなのかい?どっちなんだい!」
地面を蹴り上げ飛び上がる。
迷うな、目的はこいつを倒す、殺す、どうにかして止めることだ。
なら、
「全、力!」
飛びかかってくるサンタクロースに、殴ると見せかけた拳を勢い良く空振りさせて体を捻る反動で上段回し蹴りを浴びせる。
クロスカウンターになる事を予測していただろうサンタクロースは案外遠くに、容易く蹴り飛ばされた。
「っち!」
だが、すぐに立ち上がって舌打ちをする。
何かを言う前に先に体が動いたようだ。
「あっはぁあー!」
ひっかく、と言うよりは抉りとりにきているその指先を避け手首を掴んで捻り、絞る。
さらに力強く。
サンタクロースの右腕は音を立てて骨が砕け360°を超えてさらに捻じ曲がる。
それでも動く右腕に引き寄せられる前に手首を離し、吸い付いてくるように迫る狂気の顔に右フックを刺しこむ。
サンタクロースが吹き飛ぶ前に逆回転をかけた体に釣られた左手で折れ捻じ曲がった右腕を逃さず掴み本来飛んでいく方向と逆に無理矢理投げ飛ばす。
壁に叩き着く前に正面に追いつき、ぶつかった反動で前に跳ね返ってくるガラ空きのボディに全霊のせいけんづきでもう一度壁に叩きつける。
すかさずもう一発。
肩に痛みが走る。
が、いまさら気にするような事でもないだろう。
これで終わ「ゲッホ!グハッ!」
退けようと引いた腕を掴まれた。
一瞬の混乱、隙を突かれ蹴りが鳩尾に入れられる。
「ぐっ!」
一瞬の怯み、その命取りを体が勝手にとってしまった。
痛みに耐える頭にサンタクロースの頭突きが飛んでくる。
鼻頭を確実に狙ってきた。
次なる怯みを生まないためにも自分から額を差し出す、勢い良く。
「「がぁっ!」」
脳が少し揺れる。
バランスを崩しその場からユラユラと不安定に下がる。
サンタクロースも同じで壁に保たれてズルズルと倒れていく。
頭突きの痛みとは違う痛みが頭を襲う。
「助けてくれ!お願いだ、お願いだぁ!!」
「どうして俺たちがこんな目に遭わなくちゃいけない!」
「神なんて、今さら縋たって…」
「この世界を、恨む!恨んでやる、憎んでやる、呪ってやる!許せない…!壊してやる…」
「どうして俺たちばっかり…」
一瞬、サンタクロースの記憶の断片が、走馬灯のように一瞬頭を駆け抜けた。
それは相手も同じで、さっきまでの不気味な笑顔が消え失せ、惚けて不思議な顔をしていた。
さっきまでやられっぱなしだったのでここですぐに気を引き締め再び向かう。
反応に遅れ、立ち上がる前のサンタクロースの顔を蹴飛ばす。
「ぐっ、かっ!ははは…ははっはっは!」
よろけながら立ち上がるサンタクロース段々と大きく笑った。
「あーっはっははっは!」
顔に手を当て、腹を抱え、気が狂ったように楽しげに笑う。
迂闊に手が出せないから相手の出方を待つしかない。
「お前、はは、お前は!はっはっは、お前、くっはっはっは!」
身構える。
「なんだ?」
「くくく、俺がやった事は、くはっ、やってきた事はやっぱり、あは、無駄じゃなかったんだよなぁ、ぷはっ、」
心の底から込み上げてくる笑いを、喜びを抑えきれないように不愉快な笑い声が漏れ出すのを止められないようだ。
「あっはっはっはっは!」
それは決着もしてないのに勝ち誇っているようで、
「た、たまんねぇぜ、こ、くふ、こんなの止めら、っくっく、止められるわけ、ないわ、あは、っふっふっふ」
無邪気に悪戯が成功して喜ぶ子供のようで、
人を蔑み馬鹿にする悪魔のようだった。
「なら、」
一頻り笑い終えると冷静になったようだ。
「お前も見たんだろぅ?俺の、いや、俺たちの記憶を。」
「ああ、もっとも、見たくもなかったし、知っていた。だから、見えた、が近いな。」
「勝手みといて偉そうだなぁ。いや、俺もか、あはっ。そういやあんたも偉いんだったか。」
「…」
「あーは?あは、そういえばまだ見習い?駆け出し?でしたっけ?ぷふふ、偉いって言ってもそんなんじゃあ うぉっとぉ!」
つい熱くなってしまった。
「ひぇえ、危ないねぇ。まあ、俺よりかはだいぶ偉いんだしそれでいいじゃん?ね? っぶね!」
「っち」
「あ、今偉い人が舌打ちしたっ!舌打ちしましたよぉ!」
今のは当てられる自信があったんだが、すばしっこいな。
「おー?ご不満そうな顔ですなぁ、いやはや、俺もあんたらにはだいぶ不満最後までたっぷりなんだけどねぇ。」
「はぁ」
一旦、ため息を吐く。
やっぱり未熟さはまだまだ。
「え?お悩み事ですかぁ?相談なら乗りましょかぁ?いや、全力で邪魔しますけど、うはっ」
「はぁ」
呆れた。そう思ったら口から息を吐いてしまっていた。
どうにも拍子抜け、やる気がだいぶ下がった。
おかげで冷静に、思い出せた。
「さ、返してもらおうか。」
手を差し出す。
「んん?何をだ?」
「みんなの記憶。」
「どのみんな?」
「あいつらだよ。」
「だからどいつらだって。」
あー、そうか、そうか。
「分からなくていいから、じゃあ、全部全員分寄越せ。」
「あー、それなら別に出来るけど」
何だ。
「それなりの対価を払ってもらおうか。」
言うと思った。
だが、
「これは取り引きじゃない。命令だ。元々お前のものでもないだろう。」
「そうだなぁ、でも俺のものだ。そいつは無理だ。」
「それこそ無理さ。無理矢理にでも奪い返す!」
「お?さっきみたいにまた頭突きでもすっか?まあお前の要らないけど記憶も手に入る事だし。」
サンタクロースの足先に尖った岩が突き刺さる。
それはさっき飛ばされて衝突した壁の破片の一部。
「ぐっ!?」
「俺の記憶なんざぁあいつらの為ならいくらでもくれてやる。
ただし、あいつらの記憶は全て返して貰うぞ!」
駆け出し飛び出す。
避けようとするが足と地面の間に食い込む岩がそれをさせず、咄嗟に顔を守る事しかさせなかった。
そこに飛び膝蹴りを浴びせる。
「ぐぐっぅ!!」
バランスの悪い中よく踏み堪える。
膝を受け止めてる腕の上から覗かれる頭に掌を被せる。
そして着地。
「くそっ!」
油断ではない。
だが、代償は大きい。
頭から顔へ掌を降ろし、強く掴む。
「クソ!クソ!クソぉッ!!」
殴られ続けた腹はやがて貫かれた。
「ぐふっ!」
「あ…あ…あ…」
お互いによく粘った。
これで終わりだ。
手を離すとガクリと糸が切れた人形のように倒れる。
すんでで踏みとどまりそこから殴り飛ばすとはさすが。
関心しながら少し飛ばされた体を起こし、開いた距離を徐々に広げていく。
「はぁ、はぁ」
だいぶ疲れた。
「くっ、あっ、が、は、」
サンタクロースが力なく伏して四つん這いになる。
だがすぐに顔を上げてこちらに睨みをきかせる。
「に、逃がすか…ぁ!」
起き上がろうとするもそれは弱々しく、さらに足先に刺さる岩が邪魔をする。
「悪いな、ここは、いった、ん、引かせて、もらう、」
喋るのも少しキツイな。
「神、が、逃げる、のか、!、?」
この状態でもまだ挑発するほど元気とは。
「八百万居るんだ、逃げたって、俺くらいは、それに、ふはっ」
「逃が、すか、!」
「ほ、本当に、追ってきそうだな、、な、ら、」
既に立ち上がっているサンタクロースに手をかざす。
そして力を使い、崩れた壁を再生する、サンタクロースの下に。
「これ、くらい!で、どう!、した!」
不完全な壁に歪みが生まれ広がる。
「は、ははっ。残念だったな、俺がここに、居る限り、お前はそこから抜け出せない。」
また再生させる。
塞がっては広がるヒビが繰り返される。
「くっ!くっぅ!!」
徐々にだが、サンタクロースは前のめりに、ヒビが走る速度も速くなる。
「はっ、っははは」
強い。
「ここで、俺を殺さな、ければ、未来は変わらないぞ…!」
「ああ、そうだな。」
背中で答える。
「諦め、たか」
怖くて、振り返りたくなる。
だけど、
「諦めた、訳じゃ、ない、!受け入れた、だけ、だ。」
もはやこの世界は俺の知っている俺の世界ではない。
「それに、俺が欲しかっ、った未来はそれじゃない。」
「俺が欲しかった未来は、あいつが欲しがった未来。」
「それが、お前が望まない未来、だとしても、か?!」
「ああ、それはお前も望まない世界、お前が拒んだ未来、お前が背けた過去。それを欲しがったのは、他でもない、お前と、あいつらなんだ!!」
「ほ、ほざけぇぇえええええええ!」
屋上のから見えるグラウンドの風景は俺の知らない景色。
「黙、ぁれぇぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!」
決壊する。
やはり、持たなかったか。
1度目を閉じると目の前のフェンスに、ちょうど俺が通れるくらいの穴が開く。
振り返り、目を開ける。
「やっと、分かったよ。」
脱出した勢い余ってよろけている。
「お前、強かったんだな。」
すぐによろけたバランスを無理やり直しながら駆け出す。
きっと足を挫いているだろう。
「やっぱり強いよ。」
空中に体を預ける。ベットに倒れこむように、何もない空に。
獣の如く荒々しく飛びかかってきているサンタクロースにもこの先は分かっているようで、寸でで起動を変え音を立ててフェンスを歪め激突する。
そして、そこから下に落ちていく俺を見下す。
「またな、今度会ったら、絶対、勝つから」
聴こえないはずの声がサンタクロースの耳に届く。
「俺もだ」
たしかにそう言ったサンタクロースの声を耳に残し、目を閉じる。
さて、日も暮れてきたし、帰ろうか。
俺の、居場所に。
目を覚ますと、公園で、ベンチで、いつもよりも寝相を悪くしていた。
もう少しでズリ落ちる寸前だった。
ダメだ、どうやら、頭も少し回りきってないようだ。
そんな俺の様子を呆れるような視線で見つめている、ような気がする黒猫がこちらを伺っていた。
「生意気だな。」
そう思い手を伸ばす。
もう少し触れる、というところで逃げられてしまった。
だが、それでもいいと思えた。
それがいい、と。
さてと、体を起こし、ベンチに座り直す。
会いに行かなきゃな。
とりあえず時計を見て時間を確認する。
「お前はどうしてそうなんだ!」
昔、薄れかかっている意識の中で、薄れている俺の記憶の中で上司に言われた言葉が、頭の中で響いた。
条件反射で、体が強張る。
おかげで身が締まり気も引き締まるった。
呼んでる、
急がなければ、間に合わなくなる!
そして、公園を出て駆け出す。
未来へと。
今、俺が望む未来へと。
痛みなどはもはや関係ない。
俺以上に痛がっているやつが、やつらがいる。
ならばそいつらのために。
後悔や未練も今さらない。
何故なら彼らが望み、俺が望み、サンタクロースでさえ願ってしまう未来なのだから。
そして世界は…
「少年よ、君にこれを託す。
これが切り札で、君がジョーカーだ。」
それではさらばだ、世界よ。
未来で会おう!
長らくお待たせいたしました。
すみません、本当に、振り返ると1ヶ月ぶりになります。
今週こそは、今週こそは…!
と思いつつ暇を作って書いていたのですが、
どうにもおじさんとサンタクロース、両人ともお気に入りですので長くなってしまいました。
最初からこの展開は考えていたんですが、近づくにつれどうしようどうしようと、でもいざ今となってみれば、
もともと今回の話は1話でまとめるつもりでしたが、それを断念して区切ろうかなと思うほど長くなってしまいました。
そのせいで遅れたというのもあります。
まあこの2人の絡みが好きで色んなセリフを言わせたりやりとりさせたり、
どっちを強くして、どっちをどう驚かそうか、なんて考えてたらキリがなくなっちゃってきます。
なので、出来るだけ選んで、選んでそれでも長くなってしまいました。
そんなわけで逸れてしまいましたが、
本当にお待ちいただきましてありがとうございます。
それと同時にほんとすみません。
とりあえず、社畜社畜しすぎて考えた事を書く前に忘れる、なんて事はよくあって中々筆が進まない時もあります。というか最近そんな感じです。
書けるときに勢いで書いてるので、たまに誤字脱字なんかがあるかもしれませんが、脳内補完でお願いします。
ありがとうございます。
本編ですら長いのに後書きも長くなってしまいました。
兎にも角にも、今回も読んでいただきありがとうございます。
出来ることならば今後も応援と次回もよろしくお願いします。
それでは、
PS.
今の所、「おじさん」の全盛期が私の中では最強の設定です。
私の作品の中で。




