表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾いふだ  作者: lycoris
18/27

夢の続き 後悔の渦

「やあやあ。」

サンタは目の前まで来ると立ち止まって手を振った。

「こんにちは。」

寝てる妹を庇うように立つ。

「まあ、そう警戒するな。とりあえず座ろうか。ちょっと腰が…」

荷物を横に置いて壁にもたれて座りだした。

僕は立ったまま。

「ん?座らないのかい。」

「いいです。さっきまで座ってたんで。」

「ふむ、そうか。まあいいや、そのまま聞いてくれ。」

視線は雨を見つめたまま僕に尋ねてきた。

「君はこのままでいいのかい?」

「…何が」

本当は何を聞いてきたのか分かってた。

この人からはおじさんと似たような感じがしてやまない。

「もちろん、あの公園の幽霊の事さ。」

「おじさんは幽霊じゃない!」

思わずカッとなった。

「おおっと、これは失礼。ただその方が分かりやすいと思っただけで、すまない。」

「…」

「あー、それでだな。そのおじさんの事はもういいのかい?」

「何で?」

「何でって言われてもなー。質問を質問で返すな、と言うか答えてくれないと答え辛いんだよなぁ。」

「別にあんたには関係ないじゃん。」

「そうなんだけどー。うーん。じゃあこうしよう。」

横に置いてある袋から何かを漁りだす。

それを僕の目の前に持って来た。

「君はそのおじさんの存在をみんなに証明したかったんだよね?」

「…」

僕は、分からせたかった。

けどそんな細かいツッコミを入れるほどこの怪しげなサンタと仲良くない。

「これがあればそれが出来る「要らないよ。」」

目の前に差し出されかけた箱を払い退()ける。

「んむ?どうしてだ?」

「もう遅いよ…今更そんなの出されても遅いよ。世界はもう、敵だらけだから…」

「はははは、そんな状況でもこれがあれば世界を変えられるぞ。世界が変われば『おじさん』の存在がみんなに証明出来る。どうだ?」

「違う…」

「何かおか「違う!違う、違う、違う!!世界は敵だ!!!世界を変えるんじゃない、世界が変わるんじゃない。僕は!世界に変わるんだ!そうしたら敵が全員味方になる!!」

絶叫した。

思いの(たけ)を、喧嘩した日から考えた事を。

サンタが口角を上げて口を開いた。

「それじゃあおじさんはどうなる。」

「簡単でしょ?これが一番簡単で、他のみんなが傷付かない、親も心配しない。おじさんだって分かってくれた。だから、これで…いいんだ…」

「あっはっはっは!いゃあ、面白い!いいねぇ、全く予想してない事ばっかりじゃないか?いや、当たり前すぎて考えないようにしてただけか?それにしても、面白いなぁ!お前の子供達は!」

サンタが腹を抱えて笑い出した。

突然吹き出したサンタにびっくりしたが、何より馬鹿にされてるようで腹が立った。

「うるさいぞ、あんた!」

このおかしなサンタが何をしだすのか今になって不安になった。

それに今は妹も居る。

「あ、あはははは。ご、ごめ、ふふふふ。ふぅー、いやぁ、ちょっと、ふっ、あー、よし、落ち着いた。もう大丈夫だ、ふーぅ。」

大きな素振りで呼吸を整えたサンタはプレゼントをしまった。

「それじゃあ、もうこれは必要ないんだな。ふっ、それだけお前が大人になったって事だ。良かった。いやぁ、本当に良かった。ふふふ。」

怖くなってきた。

ここは人通りの少ない所だった。

だから妹はぐっすりと眠れて、落合がサボりに来た。

それにこの人は僕を知っているようだが、逆に僕は知らない。

知らない?

「やっぱりお前は優しいな。」

一呼吸置いた後サンタが半笑いで僕の頭に手を乗せた。

その感触を覚えている。

その感触を思い出した。

「だがな、残念ながら君は世界にはなれない。」

「何を「ここは君の世界じゃないから。」

「え」

僕の、『世界』。

ここには、家族がいて、友慈がいて、おじさんが、いて。

みんながいる。

みんなが


あ_


「あ ̄」


「ん?」

みんな、みんなが!

僕がいて、友慈がいて、齋藤がいて、落合がいて、先生が…

足りない、足りない!

みんなは、

「ぁァあアあ゛ア゛ああアアあああああ!!!!」

喉が裂けるくらいに慟哭する。

思いが叫びとなって喉から溢れて口から吐き出される。


どうしてみんがいない。

こんな世界、受け入れられない。

あんな悲惨な光景は、もう見たくない。

あんなに辛い悲しみはもう味わいたくない。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「ど、どうしたんだよ一体?」

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」

「んー、これはやってしまったか?」

「逃げなきゃ、みんなで、ここから。早くしないと。」

「あー、これはもうダメみたいだな。その娘が起きちゃったしこれだけ叫んだら人が来るだろう。じゃあヤるのは次の機会にしようかな。バイバイ。」

「火がもうここまで。急がなきゃ、みんな死んじゃう!」

燃え盛る火が僕たちの目の前まで迫ってきていた。

「どうしたの、お兄ちゃん?ここに火なんてないよ?」

「うぅ、うわぁああああ!熱い!熱いよ!」

火の粉が飛び散り、今にも火に飲まれようとしていた。

「おい!どうしたんだよお前!どこが熱いんだよ!」

みんなの鳴き声と叫び声が耳鳴りのように続く。

僕の声もそれに混ざって教室内はまさに阿鼻叫喚だった。

地獄だ。

「うぅ…みんなぁ…嫌だよぉ…グッ…」

「お前起きたのか。じゃあちょうどいい、お前の親とついでに坊さんを呼んでこい。その間俺が様子見ててやる。」

「う、うん」

「グ…グスっ…ど、う…して…ンっ…」

焼ける体を冷ますように涙が止まらない。

もう声が出ない。

「あ…ぁ…ァァ…」

体に力が入らない。

そのまま倒れる。



「…ぉ!…ぉぃ…!…お…!」

聞き覚えのある声が遠くから呼びかける。

「おい!」

瞼が重い、光が眩しい。

「おぉ!目が覚めたか!おーい誰かー!」

「ん…」

「どうしたー?」

「目が覚めたんだよ!早く門田(もんだ)さん呼んできて!」

「あ、ああ分かった。」

うるさい。でも不快ではない。

「お、起き上がっても大丈夫なのか?」

状況を確認するためにも半身を起こす。

「ん、大丈、夫だよ。」

「なら良かった。」

落合が安堵の息を吐く。

「状況を教えて?」

「はは、冷静だな。ここはお前『昨日』来た寺だ。今は見ての通り昼間だ。」

「君、学校は?」

「話聞いといて人の心配かよ!面白いなお前は。」

「自分ではそうでもないと思うよ。」

「そんなことないさ。今日はサボった。初めて公認が出たぜ。」

「どうして?」

「休んだのはお前のおかげ、というよりはお前のために ってところかな。」

「なんで?」

「はは、質問ばっかりだな。まあなんだ、お前を見てるとほっとけないんだよ。どこか俺と似た所があるっていうか…まあぶっちゃけお前のセリフが心に刺さってな。なんでかは分かんないけど、それでお前にさらに興味が湧いたからこうして看病兼観察してるって訳。」

「そうなんだ、ありがとう。」

「いやいや、俺が好きでやってることだ。それで、どうだ?落ち着いてるか?」

「うん。おかげさまで。」

「なら無駄話も無駄じゃなかったって事だな。」

「ふっ、寒いよ。」

「あ、大丈夫か?」

「あ、いや、そういう意味じゃないよ。それに無駄なんかじゃなったよ。」

「そうか。いやそれはまあいいとして。その様子じゃ何か思い出してる、いや覚えてるのか?」

「…うん。思い出したし、ちゃんと覚えてるよ。」

遠くから少し慌ただしい足音が聞こえてきた。

「なら話が早くて助かるな。それにちょうど大人達が来たみたいだし、俺は退()くよ。」

立ち上がろうとする落合の服を咄嗟に掴んでしまった。

「ん?どうした?」

「あ、ごめん。ちょっと夢を見てたから。」

「そうか。悪いが邪魔にしかならないからもう行っていいか?」

ここで離したら

「あ、うん。ありがとうね。」

彼は火の中に飛び込んでしまう。

「おう、どういたしまして。」

これが夢、いや、 だったなら。

「拓人!」

両親が駆け寄ってくる。

妹の姿がない。

たぶん保育園に預けているんだろう.。

「大丈夫なの?」

お母さんがお父さんの言おうとするセリフを奪った。

「うん、大丈夫。平気だよ。」

「そう、良かった。」

お母さんの声が揺れる。

僕を見つめる目が潤んだ。

お父さんが何も言わず僕とお母さんの肩に優しくしっかり手を置いた。

「良かったですね。」

僕を担当してくれてる住職の門田さんが後ろから声をかけてくれた。

「はい、おかげさまで。」

「あんな奴でも役に立てたのなら良かったです。」

少し反発心が生まれた。

「いえ、彼だからだと思います。」

「ふふ、そうですか。悪く言ってすみませんでした。」

「いえ、別に…それでこれからどうするんですか。」

これは両親にも問いた事だった。

「もう一回お前の除霊をするんだと。」

お父さんが答えた。

「あっ…」

一瞬、心に残った後悔がそれを止めようとした。

「どうした?」

心配そうに両親が覗き込んでくる。

「いや、なんでもないよ。分かった。」

立ち上がろうとした所を止められた。

「おい、別にすぐじゃなくたって。」

「大丈夫だよ。早くやろ。」

「いいんですね?」

やりとりを聞いていた門田さんが聞いてきた。

「はい、お願いします。」

早くこんな想いを捨て去りたい。

「はい、承りました。」

柔らかい笑顔で門田さんが答えた。


門田さんに連れられて、狭い部屋に着いた。

戸をしっかり閉めて対面で座った。

正座が得意ではない僕は崩して座った。

その様子を見て門田さんが気を遣ってくれた。

「なんなら寝そべって頂いても結構ですよ?」

変な体勢で居るよりは決心がつくだろうと寝転がる事にした。

「さて、始める前に。」

少し間を置いて続きを話した。

「本当に、いいんですね?」

「止めて下さい、鈍っちゃうじゃないですか。」

「そうですね、失礼いたしました。」

一呼吸置いて門田さんが開始も合図をする。

「それでは、始めます。」


除霊の最中、特に体や思考に違和感が無い。

自分がそう思ってるだけかもしれないが。

とりあえず目を瞑ってこれまでのこと、これからのことを考えていた。

夢を見ているような感覚だったのかもしれない。

頭の中で色々なビジョンが駆け巡る。

忘れていた事、忘れようとしていた事。


サンタと会って思い出した事は今でも覚えている。

でもその記憶はまだ完璧ではなかった。

あの時公園で何かを思い出しかけた。

その何かは、また別の記憶。

思い出せてたら、きっとこの記憶の空白も埋まっていたはずだ。

でも、今はもうどうでもいいや。

ただ忘れる事に、消し去る事に集中しよう。

後悔を忘れて後悔しない様に後悔して無様に生きよう。

そうすればきっと僕は

僕の世界は

だから、齋藤の夢は叶うだろう。

僕はもう僕じゃない。

さよなら。

ここからやり直そう…新しい夢を抱いて。

•••

「終わりましたよ。」

その呼びかけで意識がはっきりした。

「…」

なんだかボーッとする。

「大丈夫ですか?一応成功したと思うんですが。」

「ああ、はい。なんかちょっと、軽くなりました。」

門田さんの心配そうな顔が(ほころ)んだ。

「そうですか!それは良かったです。」

「はい、ありがとうございました。」

「いえいえ、これはあなたの頑張りもあったからですよ。」

「そう、ですか。これから頑張ります。」

「ええ、また何かありましたら何時でもおいで下さい。」

「はい。」

「それでは、この後ですが•••」

それから色々な説明や支払いを済ませた。

ほとんど両親がやっていたので、その間、落合と遊んでいた。

途中から父が迎えに行って連れてきた妹も混ざり3人で遊んで、最後に、お寺と門田さんと落合に一家でお礼を言って、久しぶりに一家団欒で外食をして帰った。


家に着いて、色々と最後の最後の整理をするために「今日は疲れたからもう寝るね。」と嘘を吐いたら「せめて風呂くらい入りなさい。」と言われたので、着替えを用意して張り直したお湯が溜まるまで歯磨きをした。

その間もずっと考えていた。

お風呂でも。

上がったらすぐに着替えて部屋の明かりを消してベッドに寝転がる。

「これで…」

不安を押し殺す。

「いや、良かったんだ…」

後悔を押し退ける。

「もうみんなのあんな顔は見なくて済む。させなくて済む。だから、良かったじゃないか?」

自問自答する。

頭の中にはクラスや学校のみんなの顔。

両親の顔。

でも、僕の一番見たい顔は…


もう夕焼けの逆光が強くて見えない。


次から次に込み上げてくる後悔で思い出せない。



みんなの顔も、


僕は今、どんな表情(かお)をしてるだろう?

僕はあの時、どんな表情をしてただろう?



でも、僕は、

それでも僕は





今回も長くなってしまいましたが読んでいただきありがとうございます。

前回の更新が早かった分今回もその勢いに乗ろうとしたんですが自分の中でも扱いの難しい回に差し掛かったので色々と手直しや再構成したりなど手間取りました。

あと最近段々とまた暇がなくなってきたようなそうでもないような。

はい、先週分が早かったので少しサボってました。

週超えてないのでお許しを…

あと、久々に毎日閲覧して頂けたのでモチベーションが上がって何とか、少し遅くはなりましたが何時も以上に自分では納得出来るモノが書けたと思ってます。

いつもいつもありがとうございます

今回の回は本当は自分でも扱いが難しく、どこで区切ろうか、と言うよりはどこまで続けようか、という感じで書き続けてました。


本当は色々と今後の別作品とも関連させようかなーなんて考えてた回なんですが、不粋だと思って取り除きました。

むしろスッキリしたと自分でも思います。

まあ後書きだから書く事何ですがね。

言い訳じみたものです。

よく書いてた謝罪の代打という事で。

あと、お寺への支払いってお布施でいいんですかね?そこのところちょっと分からず適当になっていますが、それぞれの脳内補完でよろしくお願いします。

それと坊さんは適当に思い付きました。

やはり名前が無いと不便ですね。

妹?妹は妹でしょう?


それでは、次回の内容もある程度は固まってきてるので早いうちには更新出来るとは思うのですが…

後書きまで長くなってしまったので、フラグを立てて、

それでは




PS;サンタが出てきたという事は…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ