響
「正確には言うと残ったわけじゃないよ。
欲しい奴らだっていっぱい居たよ。だから、普通はじゃんけんして、勝った誰かが食べるはずだよね。」
「うん、いつもはそうだな。」
「で、今日もじゃんけんは当然あった。」
「じゃあなんで?」
「勝った奴が言ったんだ。『友慈に持って行ってあげよう。』って。」
「そいつは?」
「まあこの状況ならもう分かるだろうけど」
そこまで言った齋藤君の言葉を友慈が遮った。
「拓人か。」
齋藤君は少し答えに詰まったようだ。
「…うん。」
友慈がこっちを見て「ありがとう」と一言言った。
僕はただ頷いただけ。
その後また齋藤君の方に向き直って続きを促した。
「で、それがどうした。」
「いや、なんか、意外だった。」
「何が?」
「普通今の流れならプリンを持って来たのは俺だと思うはずだけど。」
「まあ普通はな。でもあのクラスにそんな奴はこいつくらいしか居ないし、それにこいつはそういう事はわざわざ言わない人間だしさ。」
「仲が良いんだね。」
「まあな。こいつとは『浅からぬ因縁』ってやつを感じる。何故かお前ともな。」
友慈の『浅からぬ因縁』は、今僕が読んでる漫画のワンシーンにあった。
そこから引用したんだろう。
でも、僕も心のどこかで友慈のセリフに共感していた。
「…それで、奇跡が起きたんだよ。」
齋藤君が唐突に話を戻した。
「へー、じゃんけんでか?」
「うん、まあ。」
「つまるところ一人勝ちとかか?」
「「!?」」
驚きで、瞼が大きく開く。
「う、うん。良くわかったね。」
「なんとなくさ。にしてもまさか一人勝ちするとはな、さすが拓人だ。で何人くらいだった?」
「確か10人くらい。。あ、先生も入れて11人。」
「おー!普通にすげーな!」
友慈が素直に驚く。そして僕を称賛する。
「1回でか?」
「うん。」
齋藤君が本調子を取り戻したかのように頷いた。
「はは、そりゃあ奇跡だな!」
「でも、奇跡じゃないかもしれない。」
そこで齋藤君は怪談でも話すかのようにトーンを変えた。
「ん?なんでだ?さっき自分で言っただろう。」
「確かに俺たちから見たら奇跡だね。でも本人からしたら、当然かもしれないじゃないか?」
齋藤君が腫れ物を触るような目で見てきた。
人を差別するときのように、冷めた眼差し。
「…」
何も言い返せない。
それにもう手遅れだと内心悟っていた。
ここまで言われたらもうどうしようもないと。
「本当か?」
友慈が少し怪訝な顔で確認してきた。
「まあ、うん…あの時、何となく…いや、出してみたら全員に勝っちゃった。」
本当に何となくだった。でも、途中で否定しようとした。それは…
「やっぱり、お前は…」
友慈は僕の返答に少し困惑する。
齋藤君は僕の返答に確信する。
「お前さ、いつも、公園で何してるんだ?」
「遊んでるけど?」
何気なく返した当たり前の答え。
だが、それを口にした後に、何故だか焦燥感が湧いてくる。
「本当に?たまにベンチで一人で。いや、幽霊と話してないか?」
最後の言葉を断定的に力強く言った。警察が容疑者を追及するように。
だが、その眼差しは相変わらず冷めている。
「…うん。」
「え?え??」
友慈が混乱する。
だが、今この状況じゃ説明するとかえって変な事が起こりそうだ。
そう思ったのか齋藤君も友慈を無視して話を進めた。
「何の話をしてるの?」
「…君には、関係ないじゃないか…」
やはり正直にものを言うのは戸惑われる。
今だってさっき素直に肯定した事を後悔している。
でも、否定しちゃダメだって気がした。
「ふん」
鼻をならした齋藤君はそのまま視線を下に降ろして何かを考える。
「そうか。」
考えがまとまったのか、また顔を上げさっきより冷たい、なんなら睨んでるようにも見える眼差しで問いてきた。
「お前、最近あそこの公園で遊ぶ子が減った理由、知ってるか?」
そりゃあ、昨日友慈に聞かされたから、教えてもらったから。
「君が変な噂を流したんだろう?」
「あっはは、違うよ。」
今日、ここに来て初めて"彼"は笑った。愛想笑いではまったくない、冷たい笑い。嘲るような見下したその笑い声が癪に触る。
「まず、」
人差し指を鼻の前に立てて得意げに語り続ける。
「お前が聞いた噂の内容はどんなのだった?」
漫画を元置いてあった場所に差し込む。
「『あそこの公園には幽霊が出る。』のと『僕が霊能力者かもしれない』ってのだけど?」
「だいたい当たりだ。」
「…」
「直すとしたら、『あそこの幽霊は悪霊。』、『その証拠に1人、取り憑かれている子がいる。』だな。」
「!」
友慈の言うことをそのまま受け入れていただけに、予想外の現実に驚いた。
「はは、だってそうだろ?何もいないベンチに1人で語りかける少年。それにその少年が置いてったゴミはいつのまにか捨てられてるんだよ。」
齋藤君が囁くように語る。
「それに俺以外にも何人か、上級生にも見えるって言う人が何人かいたよ、大人も。」
そういえば、初めて会った時に、見えるだけじゃなくて聞こえるかも確認してきてたような…
「それにお前、今日ので分かったけど、あのじゃんけんはどう考えてもおかしいだろ?」
言い返せない、冷や汗が出始めた。
「あれは超能力でも使わなきゃ普通起きない。まさに奇跡だ。それでもお前は勝つ自信があった。いや、確証してたんだろ?」
もう逃げ場もなさそうだ。
「…うん…」
「そりゃあ取り憑かれて、何か"力"でも貰ったんだろ?あんなに親しげに話してるしな。どうだ。」
苛立ち始める。
「…力なんて貰ってないよ。ただ、ただ普通に普通の話をしてただけだよ。」
「はは、どうかな?取り憑かれてる本人が気付いてないだけじゃないか?」
腹が立ち始める。
「そんな事ない…」
「幽霊なんて信じれるわけ無いだろ?だいたい 」
そんな時は
「 だろ?」
簡単だ。
「だって 」
その握った拳を
「 」
振るうだけ。
「イダッ!?」
倒れそうになる齋藤の体を、胸ぐらを掴んで支えてやる。
「フー…フー…違う…」
興奮して荒くなる息を整えようとする。
「なんだ、よ…?」
齋藤が精一杯睨んでくる。
だが、彼の体は震えていた。
「違う!
違う!!違う!!!違う!!!!
違「うるせぇ!!!!」
ガチャッ!
顔に硬いものが当たる。
ボトッ
飛んできたゲーム機が畳の上に落ちる。
飛んできた方向を見て体が固まった。
「うっせーんだよ!!耳障りだから喚くな!頭に響くんだよ…お前らの声がさ!」
胸ぐらを掴む手の力が緩んだ。
その隙に齋藤は僕と距離を取った。
「もう…帰ってくれ…帰ってくれよ!ここは俺ん家だ!ここで騒ぐな!"ここ"を巻き込まないでくれ!…頼むからさ…」
友慈の叫びは時々弱々しかった。
片手で頭を抑えて、握った片腕を見つめていた。
それは人が強い後悔をしている様にも見えた。
そんな友慈の声と姿に体が重くなる。
動かなきゃ行けないのに、ここから出て行ってあげないと行けないのに。
齋藤は先に荷物をまとめて一目散に出て行った。
誰に向けて言ったのか礼儀正しく慌ただしく「お邪魔しました!」とだけ残して。
「悪いけど、お前も…」
「う、うん。」
もともと持ってきたのは見舞い品なんかで帰り時の荷物はほとんど無かった。
ほぼ空の軽いバックを持って、
「ごめん。…お大事に、ね。」
…
「…おう。」
その返事を背中で聞いて、
齋藤に続いて
「お邪魔しました。」
と友慈の家を出た。
帰り際、思わず公園によろうとしてしまった。
そんな自分が悔しくて 、情けなくて、
走ってまっすぐ家に帰った。
1週間早すぎるよおおおおおおおお
んおおおおおおおお
そんなわけでギリギリですが。
今回はつぎはぎが多かったのでミスが心配です。
なければいいのですが。
そんなわけで話は順調に進んでます。
遅れず次回からも頑張っていこうと思ってます。
保険は一応かけておきますけどね。
それでは