ベンチ
時は前回よりも2週間弱経ってます。
「お」
「久しぶり、おじさん。」
「よお、最近来ないからちょっと心配になったぜ。何日ぶりだ?」
「2週間ちょっとだよ。」
おじさんが空けてくれたベンチのスペースに腰を下ろす。
「あれ、そんなに経ったけ?よく覚えてるな。」
「そりゃあね、久しぶりに親と喧嘩したから。」
「へー、そりゃなんでまた?」
「僕が勉強もろくにしないで公園に行ってるから。」
「あー。はっはっは、だから言っただろ、毎日来る必要は無いってさ。」
「そうだけど、別にずーっと公園で遊んでるわけじゃないから。」
「って親に言ったら喧嘩になった訳か。」
「うん。よく分かったね。」
「そりゃあ毎日お前と話してたし。それに親なんてそんなもんだよ。これも全部お前のためなんだぞ?」
「それは分かるけど…」
「で、それで公園に来なかった訳か。」
「親が行くなって言ったから僕も意地になって。」
「なるほどなるほど。懐かしいなぁ、そうゆうの。」
「ジジくさいよ。」
「るっせ、もうそんなやりとりする事は無いんだから懐かしんだっていいだろ。」
「あっ」
「気にすんな。お前もいずれ俺と同じになるんだ。それが早いか遅いかだけの違いだよ。」
「うん。でも、喧嘩はよくないね。」
「ああそうさ。大抵最後はどっちも得しない結果に終わるんだ、するだけ無駄だけど起こるのが欲深い動物さ。」
「でも、避けることは出来るよね。」
「ああ。だからお前はそうゆう大人になれ。損が少ないぞ。」
「でも得も少ないんじゃない?」
「そうかもしれないが、まあリスクリターンの話になるな。」
「なにそれ?」
「大人になれば嫌でも覚える言葉さ。」
「そうなんだ。じゃあそのディスクリターンってのは大きいほど良いの?」
「"リスク"な。まあ大きさはその人の性格が出るからどうとも言えないさ。俺は中くらいでいいかな。」
「じゃあ僕はおじさんより大きくする!」
「お、言うなぁ。でも、それだとたぶん喧嘩をいっぱいする事になるぞ。」
「えっ。じゃあ、うーん、どうしよ。難しいなぁ。」
「そんなものさ、考えに考えるんだ。
それが大人に近づくことさ。
あ、でもあんまいい事でもないけど。」
「僕も働きたくないから子供のままでいいや。それに難しい問題も嫌だし。」
「そんな事言うなよ、嫌でも大人になるんだから。どんな大人になるかはお前次第だけど。」
「ふーん。」
「ま、振り返った時後悔が少ない大人になれ。」
「少ない?」
「世界は魅力的だからな。何かいいモノを見つけた時、それが自分になかった時に人は色々思うのさ。その中には負の感情も少なからずある筈だ、その中に後悔がある。」
「確かに。」
「お、分かるか?」
「いや、あんまり。」
「はははは。ま、後悔は悪いことじゃない。」
「なんで?さっきは負の感情だって言ったじゃん。」
「後悔がその人を前に進める事もあるだろ?更に上へ向かおうって言う、まさに向上心さ。」
「うわ、またジジくさ。」
「悪うございました。」
「じゃあ後悔はいっぱいした方がいいね。」
「と思うだろ?そうとも限らないんだなーこれが。」
「またー?」
「ああ、後悔ばっかしてると段々下向いてそのまま立ち止まっちゃうんだ。最悪戻ろうとしたり無くそうとしたりして更に悪化させる時もある。」
「ふーん。」
「だから難しいんだ。」
「ふーん」
「ま、だからちょっとくらいは後悔した方がいいのさ。お前の嫌いな勉強にもなるし。」
「勉強はみんな嫌いだよ。」
「そうだな。でもたまに勉強が好きだっていう変態が居るんだよなー。」
「嘘だー、そんなの人間じゃないよ。」
「本当だって。教科書見てみろよ、そこに載ってる奴らはみんな勉強が好きな変な奴らだよ。」
「あ、そう…だね?」
「科学者や政治家はそんなもんさ、それを勉強と呼ぶかは置いといて。それに勉強したいって思ってる奴も世の中にはいっぱい居る。」
「えー」
「はは、これも本当さ。社会人の半分くらいは思ってるんじゃないか?俺は思わないけど、したくてももう授業とかは受けられないからな。社会人の半分くらいはもっと勉強しとけばなー、なんて思ってるんじゃないか?」
「確かに、それは聴いたことある。ところで社会人って?」
「俗に言うと大人って奴らさ。中でも働いてる奴ら。」
「じゃあおじさんは社会人じゃないね。」
「あっははは、確かにそうだな。恐らく成れの果てじゃないか?まだ働けるのに幽霊になってるって事は。」
「おじさんみたいになるのは嫌だなー。」
「失礼だな。まあ俺よりいい大人にはなってくれよ。」
「ジジく「悪かったな、おっさんで!」
「そんなに怒るなんて、やっぱり…」
「くっ、どうやらお前は喧嘩が好きなようだな。やっぱりリスクリターンの大きい人間は違う。」
おじさんが僕の頭に手を乗せた。
「だが、俺は大人だ、これくらいで「大人と言うよりおっさんだよね。」
おじさんに笑顔を見せる。
「こ、この野郎、言わせておけばぁ…」
髪が乱れるほど強く頭を撫でられた。
おじさんは元々撫でるのがそんなに上手く無かった。本人曰く動物しか撫でたことないんだって。
「あ、あははは。でもさ、おじさんは後悔が少ない大人になれたの?」
「ん?そうだな…」
ピタッと荒々しい手つきが止まった。
手を離し、膝に肘を置いて顎に手をつける。
「覚えてないや。」
「なんだそれ」
「しょうがないだろ、もうだいぶ昔の事なんか忘れちまったよ。どんな事をしてたのかどんな子供だったのか。でも、後悔はしてると思うな、いっぱいいっぱい。」
「じゃあダメな大人になったんだね。」
「はは、痛いな。もっと、たくさん、いっぱい、救えたら…」
「…おじさんは、誰かを助ける仕事してたの?」
「…ん?俺そんなこと言ったか?スーツ着てるサラリーマンが誰を助けるって言うんだよ、自社への貢献しかないよ。返ってくるものは少ないけど」
「あれ?」
話が噛み合わなくなっちゃった。
これがgeneration gap っていうものか、昨日テレビでやってたけど。
「ま、何にしろ後悔しようにも思い出せないんだからしょうがない。残念ながら俺はそういう大人になっちまった。ごめんなぁ昔の俺よ。」
おじさんは独り言のようにボヤいていた。
「じゃあ、僕はおじさんを救えるような大人になるよ。」
「…ありがとう。でも、俺だけじゃなく多くの人を救えるような人間に、大人になってくれよ。」
「言われなくても!」
ふと、おじさんの潤んだ瞳に反射した光が目を刺激した。
「ああ、ダメだ。なんか」
「もう、やっぱりジジくさいんだね。」
「ああそうさ。俺ももう年なんだ。やっぱりこうゆうのが、効いてくるようになるんだな。ああ、昔は…昔、か。あんまり思い出せないな。確か部活やってて・・・」
またボヤキ始めたのでもう放っておいて、今日のところは帰ることにした。
あまり長く公園に居るとまた喧嘩しかねないし。
「あ、そろそろ時間だから帰るね。」
「ん、そうか。途中から俺が話してたような気がするけど、ま、またいつでも。」
「うん、じゃあね。」
「おう、またな。」
ベンチから立ち上がり公園の出口へ向かう。
途中でふと声をかけられた。
「おーい、拓人ー!」
呼ばれて振り返るとそこには大切な友達が手首をブルブル振り水を払っていた。
「あ!友慈くん!」
返事も早々に駆け寄っていく。
「どうしたの?」
「俺はトイレしてただけだ。お前こそ一人で公園に来て何してたんだよ。」
「あ、あれだよ、ボーッとしてただけだよ。」
「暇な奴だな。でも、誰かと話をしてなかったか?」
ギクッとなって冷や汗が出始める。
「いやぁ、ただの独り言だよ。」
「ボーッとして独り言言ってたのか?」
「う、うん。ちょっと親と喧嘩して飛び出して来ちゃったからさ。」
「ふーん。」
なんとか誤魔化せたかな?
結果的に公園に長居してしまった。
だからここは一時撤退する事にした。
どうせ友慈くんとは学校で遊べるし。
「じゃ「そういえばさ。」
話しだすタイミングが被ってしまった。
「あ、帰るのか。じゃあまた今度でいいか。」
「いや、いいよ、もう少し居ても。気になるし話してよ。」
「わかった。」
そう言って友慈くんと公園の水飲み場の近くの、さっきまでとは別のベンチに座った。
「それで?」
「ああ、この前さ、見える友達が言ってたんだけど。なんかこの公園に地縛霊的なのが居るんだって。」
「へ、へー。」
一瞬おじさんの顔が思い浮かぶ。
「んでよ、そいつはよく居る場所が…」
友慈くんがワザとタメを作った。
「場所が…」
それに釣られて嫌な予感がする。
「すぐそこの電話ボックスと…」
「と…ゴクリ…」
あ、やっぱり…
そう思うも生唾を飲んでしまう。
「お前がさっきまで座ってたベンチだよぉ!!」
「ひっ!」
分かってはいたけど、友慈くんの急な大声の方に驚いた。
そう言っても言い訳にしか聞こえないだろうから黙って続きを待った。
「はっはっはっは、良いリアクションだな、はっはっはっは。と、とりあえず、トイレがそこに近くなくて良かったぜ、ぷ、っはっはっは。」
あー…
笑われた事よりも他の誰かにも見えてた事に驚いてそれどころじゃなかった。
「ひ、酷いなぁ、そんなに笑わなくたっていいじゃん。」
「ははは、いやぁ、この話した中で1、2位を争ういいリアクションだったぞ。」
「はは、そうなんだ。」
更に衝撃的な言葉が出てきて作り笑いが苦笑いになってしまった。
「ま、俺は幽霊なんて信じてないからどうでもいいんだけどさ。最近ここの公園で遊ぶ事が少なくなったのはそのせいだけど。俺は遊べれば別にどこでもいいけどあんまり遠くは嫌だな。」
最近この公園で遊んでる子が少なくなってるのはそのせいだったのか。
「確かに、そうだね。」
とりあえず生返事しか出来なかった。
「まったく、噂も広がりすぎるとロクな事ないな。まあその内忘れられるだろうけどさ。」
さっきまで半笑いだった友慈くんの雰囲気が変わった。
「けどさ、なぁ。お前は見えるか?」
どう答えていいか分からず黙り込んでしまう。
「ま、見えてたらさっきみたいにびびらないだろうし、そもそも近づこうとしないはずだが…真面目に答えてくれ。お前、幽霊が見えるか?」
適当な返事じゃ駄目だろうと思った。
だから、
「…うん。」
はっきりと首を縦に振った。
「そうか。」
答えるのに緊張したのに帰ってきたのは淡白な反応だった。
「や、っぱりか。」
だが、それから友慈は少し困ったようだった。
「今日ので確定みたいだな。」
「…何が。」
友慈の反応から不安が込み上げてくる。
「お前が、その地縛霊と仲が良いって事だよ。」
「それって…」
「ああ、今やお前は噂の霊能力者さ。」
「ふっ、なんでそんな事になってるのさ。」
自分の事ながら馬鹿馬鹿しくなった。
「ふふっ、笑い事じゃねーぞ。地縛霊の噂は前々からあった。でも、最近は「はっはっはっは。あはははは。」…」
馬鹿馬鹿しくなってどうでもよくなった。
真面目さを取り繕って笑いを我慢してる姿はいつもの友慈だった。
友慈が自分に釣られて微かに笑ってるのを見て余計おかしくなった。
おかしくなって笑いが止まらなかった。
「あっはは、その先は言わなくてもわかるよ。あー、思い返せばそんな感じがするよ。あっはっはっは。おかしいなぁみんな、あっはは。」
気づけばお腹を抱えて、狭いスペースで横たわって、手でベンチを叩いて、ふと瞳から涙が溢れた。
「ぐっ、つっ、ぶっはっはっはっは。はっはっはっは、なんだよお前、おかしくなったのか?あっはっは。」
「だ、だってなんかおかしくって。あははは、友慈くっ、はっはっは、友慈、だって、笑ってるじゃん、あっはっはっは。」
気づけば2人でベンチの上で転げ回っていた。
「あっはっはっはっはっは」
最近子供の出入りが減った公園に元気が笑い声が響いた。
それは近所迷惑になって学校に苦情が来るほどに。
最近あまり笑わなかった子供の声が。
「懐かしい声がするな。昔聞いた笑い声だ。昔か、俺の過去は…どんなんだっけな…」
1人公衆電話のボックスの中で、公園を視界に捉えていながら別の、遠くの公園を見ているような、ここに居ないはずのサラリーマンは夕暮れの公園を眺めて呟いた。
暇を見つけて書き溜めたのをやっとこさとうこうです。
何とか今週中にはあげられたようです。
来週からはもう少し暇になると思うので、と言っても毎回おそくなってしまいますが。がんばりゃます。
変なところにネタが挟まってますがミスとかでは無いです、他にミスはあるかもしれませんが。
こういう、と、こうゆう、書き分けようか迷いましたが、気分ですらすらーっと。書きました。
気にしてる時間あったら書けって話ですね、はい。
今回はだいぶ書き溜めた奴だったのでいつもより長くなってしまいました。
おかげで進行が今の所スムーズです。
前回を皮切りに話の流れは決まったのでそれに向けて頑張ります。
例によってアレな回でしたがアレがアレなのでアレしてくれるとアレです。
なるべく早め早めに暇を見つけて、でもやっぱり忙しくなりそう。
今期のアニメは何を見ようか
それでは
P.S.
霊感がある、噂を流した子は齋藤君です。
齋藤 藤丸くんです。
名前が決まったと言うことは、アレです。はい。
根はいい子なんです!
と一応先にフォローしときます。
彼の両手の小指の第一関節の線は薬指の第二関節の線より(若干)上にあるそうです。(作者比)