第3話 自由研究は突然に
――お母さんは、少し考えながら言った。
「そうね……エリオットは、あちこち放浪癖があるけど……私も詳しくは知らないのよね?」
やっぱダメかぁ~。
私の中で少し期待していた部分があったから、ちょっぴり残念。いや、ちょっぴりどころじゃない。
ここで諦めてなんかいられる訳ないじゃない!
無駄に闘争心に火がついてしまった私は、食い下がるように続けた。
「そうなんだ。でも、絵本の絵とお父さんの写真が同じって、すごい偶然じゃない? なにか……もっとこう……、深い意味があると私は思うんだけど」
「う~ん。そうねぇ……」
なんか私、タタンと同じこと言ってる気がする……。でも、そんな事どうだっていいわ! ここまで来たら、気になるもんは気になるんだもん。
「それにしても絵本とはいえ、エリオットの写真と同じ絵か……それはちょっと気になるわね」
よしよし! お母さんがその気になってきた!
「でしょ?だから、もっと詳しく調べたくて」
「そうね……私も少し気になるし、調べてみましょうか」
お母さんはそう言うと椅子から立ち上がった。
「でも……その前に、まずは夕飯にしましょう。お腹が空いてたら頭も働かないわ」
「もー、お母さんったらっ!」
せっかくいい感じに、テンション上がってきてたのにぃ~!
でも、確かに。もう夕飯の時間はとっくに過ぎている。
私のお腹もグゥと鳴った。
「先にご飯にしよっか!」
「ふふ……そうこなくっちゃ!」
お母さんはにっこり笑うと私の頭を撫でてくれた。
そして私たちは研究室を後にした。
◇ ◇ ◇
私たちは食卓につく。
今日のメニューは煮込みハンバーグとサラダ、それにライ麦パン。
煮込みハンバーグの何とも言えない、かぐわしい匂いが部屋中を満たしている。
「ふーん……。この絵本に秘密がある……か」
お母さんはハンバーグを頬張りながら、本をぱらぱらとめくる。
「うん、タタンがそう言うんだけどね?」
私はパンをちぎりながら答える。
実は私もそう思ってるんだけど、ここはタタンに乗っかっとこ。
だって、この歳になって「本には重大な秘密が!」なんて、恥ずかしいんだもん。
「でも、仮にその絵本の物語が事実だったとしてもさ、秘密ってなんなの? 私には、ただの日記にしか見えないけど」
お母さんは、パラパラと本をめくりながら、問題の挿絵にたどり着く。
「それ、その絵!」
私は、挿絵が開かれるとすかさず手でページを止めた。
「秘密、秘密、うーん。……例えば、世界の創生の秘密……とか?」
お母さんが冗談めかして言った。
「……お母さん……それはさすがに……」
私はさすがに呆れ顔で反論する。
「まぁ、例えばよ! 例えば!」
「うーん……」
私はお母さんのスケールの大きさに、ちょっと引き気味になった。
流石にそんな大それた秘密はないでしょ。
その時、遠くからパタパタと足音が聞こえてきた。
タタンが帰ってきたみたい。
ダイニングキッチンのドアがバタンと勢いよく開き、タタンが入ってくる。
「あ! みんなもうご飯食べてる!」
タタンはテーブルに着くと口を尖らせて不満そうに言った。
「遅いよタタン。なにしてたのっ!?」
私はつい少し怒った口調で言ってしまった。
これは、私の悪い癖。タタンにはついお姉さんぶってしまう。タタンも慣れっこみたいで、あんまり気にしてる感じではなさそうだけど。
「ごめーん」
タタンが両手を合わせて謝る。
「はあ……まったくもう。せっかくの料理が冷めちゃうじゃない」
あー。また言っちゃった。
ブツブツと文句を言う私を見て、お母さんが笑う。
「まあまあ、いいじゃないの。ね、タタン? 何か収穫はあったかしら?」
お母さんは優しくフォローするように言った。
「ほれははぁ、へりほっとのひゃひんと、ひらふとが、らんまひかひっちしたんは」
タタンはもぐもぐと煮込みハンバーグを口いっぱいに頬張りながら喋るので、まともに聞き取れない。
「タタン、お行儀悪い! ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい!」
私はまたもやタタンにちょっとお姉さん口調できつく言ってしまった。
「ふぁーい」
タタンは急いで飲み込むと話を再開した。
「んぐ。……ええと、エリオットが撮った写真と、絵本の挿絵が何枚か完全に一致したんだ! すごい偶然でしょ?」
「そうねぇ……もしかしたらこれは大発見かもしれないわね」
お母さんは少し真剣な顔つきで答えた。
タタンの顔がぱあっと明るくなる。
そして椅子から降りると、ピョンピョン跳ねながら続けた。
「だよねっ!? 絵本になった実在の場所があるんだ!」
「タタン! お行儀が悪い!」
私は流石にこれは怒った。
タタンは、しゅんと大きな耳を垂らし席についた。
「うぅ……ごめんなさい……」
私とタタンの姉弟ぶりに、お母さんはクスクスと笑う。
「そうね、この絵本は空想の話じゃなくて、実際にある場所が舞台なのかもね?」
「お母さんもやっぱりそう思う?」
私はお母さんの言葉に思わず食いつく。
「うん。でも、まだ結論を出すのは早いと思うわ」
お母さんは少し考え込んだ様子だったけど、すぐに顔を上げた。そして、ニヤリと意味深な笑いを見せる。
「二人とも、この絵本の謎。確かめてみたいと思わない?」
私とタタンは顔を見合わせた。そしてほぼ同時に頷く。
『うん! 確かめたい!』
お母さんはニコリと笑うと言った。
「明日からちょうど夏休みでしょ? この絵本の謎。夏休みの自由研究にしちゃわない?」
お母さんの言葉に、私の胸はドキドキした。
冒険と、夏休みの宿題が一度に終わるなんて!
こんな最高な夏休み。他にあるっ!?
『了解!』
私は、あまりの嬉しさにご飯が何倍も美味しく感じられた。
それは、タタンも同じみたい。
「じゃあ、この絵本について、明日までに調べとくわね! エリオットのログ帳もあったと思うから。明日から忙しくなるわよ! 今日はさっさと寝なさいね」
『はーい!』
私たちはさっさと食事を終え、お風呂に入ってベッドへ向かう。
明日からの冒険がワクワクしすぎて、なんだか眠れそうもないけど。
タタンはもうすっかり眠りに落ちてる。AIロボって、こういう時関係なくスリープモードに入れるから、羨ましい。
足掻いてズレた掛布団を直してやる。
「……おやすみ、タタン」
私はベッドに入ると、口元が自然と緩んでしまうのを感じながら、眠りについた。




