第3話 貝と生活基盤
「無事に召喚出来ましたね。では、ここから本格的に住む環境を整えていきましょう」
「もしかして、『テントガイ』っていうのを使うのか?」
「ご明察です。では、テントガイを召喚してみましょう」
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テントガイ
くすんだ白い色をした巻貝。殻が特殊な構造になっており、膨らませることが可能。
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召喚したテントガイは、説明の通りくすんだ白色の巻貝だった。サイズは手に乗る程度だが、どうも殻を膨らませて大きくなるらしい。
「では、テントガイをレンキンガイの穴に放り込みましょう」
ハミットに言われるがまま、レンキンガイに開いた穴にテントガイを放り込む。そしたらなんと、ハミットが穴の縁をハサミで挟んだのだ。
「穴の縁付近にレンキンガイの水管があるのです。ここに私が触れることで、錬金のコントロールを行います。この作業は私にお任せ下さい」
数十秒後、穴からテントガイが吐き出された。パッと見た感じ、なにも変わってないように見えるが……。
「地面に置いて頂天を押して下さい。大きくなりますから」
よく見てみると、確かに巻貝の頂天部分がスイッチのようになっており、押し込められるようになっている。言われるままに押してみると、なんとテントガイが大きくなった!
「これがテントガイを素材に錬金した『テント』です。いかがでしょう?」
「これがテント!? 前世のテントよりも便利じゃないか」
前世のテントは、ペグを打ち込んだりフレームを組み立てたりと手間がかかる。最近はワンタッチで設営できるタイプの物もあるらしいが、このテントガイを使ったテントは持ち運びの便利さや設営の簡単さで前世のテントと一線を画していると思う。
……ま、前世のキャンプの知識はインターネットの受け売りだけどな。アウトドアグッズは高くて手が出なかったし。
大きくなったテントは、人間の2~3倍以上の大きさがある。全面に丸いサザエの蓋のようなドアが取り付けられている。
「大きくなると同時に長いスパイクが地面に刺さるので、嵐が来ても吹き飛ばされませんよ」
「それはいいな! じゃあ、中に入ろう」
ドアを開けると、そこには床も壁も貝殻の裏のような純白で光沢がある空間が広がっていた。天井付近には採光窓が4カ所取り付けられており、日中であれば割と明るい。
「採光窓は換気窓の機能も兼ねているので、テント内で火を使っても酸欠にはなりません。庇も付いているので雨水が入り込むこともないですね」
「至れり尽くせりだな! ……なにも無くて殺風景だけど」
「家具は追々作っていきましょう。まだまだ生きるために必要な物はありますからね」
「必要なのは貝殻です。何でもいいので貝を大量にレンキンガイへ投入して下さい」
「なるほど。よし、全部入れてみるか」
俺は貝をレンキンガイの真上に大量に召喚した。アサリやシジミなどの食べられる貝を利用するのは気が引けたので、カワニナやタニシといったどう利用するかわからない貝を使った。
大量に召喚しハミットが錬金の操作をすると、カワニナやタニシの殻の色が複雑に混ざったような、天井が無い箱が吐き出された。あとバケツも。
「『水槽』ですね。貝殻でできただけの、ただの水槽です。これを使って飲み水を確保します」
水、か。確かに生きるために必要だな。だがただの水槽で、どうやって真水を確保するんだ?
「『シオアサリ』と『ロカカキ』を入れ、海水から真水を作ります。タネは貝の詳細を見れば理解していただけると思います」
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シオアサリ
殻が塩で出来たアサリ。海水中の塩分を殻にする性質があるため、海水を淡水にすることが出来る。
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ロカカキ
見た目はカキそのもの。水中のあらゆる汚れや病原菌、ウイルスなどを捕食し、綺麗になった水を吐き出す。その性質から毒を体内にため込むため、食用には出来ない。
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「なるほど。シオアサリで塩分を除去、ロカカキで水を清潔にして飲用水にするのか」
「その通りです。ではバケツで水槽に海水を入れ、シオアサリとロカカキを召喚しましょう」
ハミットの言う通りにバケツで海水を水槽に入れ、シオアサリとロカカキを召喚した。
だが召喚はともかく、海水を水槽に入れる作業がキツかった。この身体の年齢が何歳かはわからないが、少女になった身の上としては重労働だ。
「うおお、重い……!」
「頑張って下さい。日頃の運動不足を解消するチャンスですよ」
日頃って、この身体になって1日も経ってないんだが? こいつ、なんか会話の節々に辛辣なところが見え隠れするな……。
「海水が溜まったら、数時間放置しましょう。おそらくそれくらいで飲める水になっているはずです。その間に他の生活に必要な物を作っておきましょう」
「そうだな。その方が時間の有効活用だ。それで、次は何を作る?」
「火を手に入れます」
火。ここがどれくらい気温が下がるのかは知らないが暖を取れる手段はあった方が良いし、調理にも使える。特にこれから貝を主食にするであろう事は明白だから、食中毒を予防するためにも火は大事だ。
「素材は貝殻をたくさん、それとチャッカタツムリです」
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チャッカタツムリ
火属性の魔力をため込む性質を持つカタツムリ。殻はほぼ火属性の魔石と化しており、チャッカできる程度の火を吹ける。火属性の魔導具の素材となる。
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説明を見る限り、どうやらこの世界は魔石や魔導具が存在している様だ。おそらく魔法もあるのだろう。それに関して今は確認する術は無い。
だが、今気になる事は……。
「なぁ、ハミット。カタツムリって貝なのか?」
「貝ですよ。陸上で活動できるように進化した貝です。ちなみに殻を捨てて生きられるようになったのがナメクジです」
「えっ!? あ、ああ。そうだったのか……知らなかったよ」
カタツムリどころかナメクジも貝だったんだなぁ。、新鮮な驚きだ。
「貝は動物の中ではかなり多様性が高い種族です。深海から淡水、陸上まで幅広く生息し、様々な環境に順応するようにそれぞれ進化していますからね。
少々話が逸れましたが、火を手に入れる道具を作っていきましょうか」
というわけで、俺は水槽を作ったときと同じようにカワニナやタニシを大量にレンキンガイへ入れ、続いてチャッカタツムリを召喚する。チャッカタツムリは真っ赤に輝く殻に溶岩のような身体の色をしたカタツムリで、手のひら程度の大きさだ。そしてほのかに暖かい。
チャッカタツムリをレンキンガイに放り込み、ハミットが錬金のコントロールを行う。しばらくすると、四角い物体が吐き出された。
よく見ると上面は三ツ口コンロの様になっており、下部はオーブンのような扉が付いている。
「『オーブン付きコンロ』です。これで火を使った料理が出来ますよ。テントの中でも使えます」
「それは便利だな」
というわけで、錬金したオーブン付きコンロをテントに運び込んだ。大きさの割に軽かったが、やはり小さい身体では動かすのに苦労し、半ば引きずるように動かすしか無かった。
レンキンガイの近くにテントを立てて良かった……。




