第1話 転生したら少女になって海岸に倒れていました
「貝塚巻夫さん、でお間違いないですね?」
気がついたら、どこまでも白い空間にいた。そして目の前には知らない女性が一人。
しかも、面識が無いはずなのになんで俺の名前を知っているんだ?
「簡単に言うと、あなたは死にました」
「ファッ!?」
思わず変な声が出てしまった。
「死因は暴行死です。心当たりはありませんか?」
「暴行死……そういえば、変な若者二人組に襲われたような……」
確か、自宅のアパートに入る直前にいきなり後ろから襟元を捕まれ、状況が理解できないままバットとかで殴られまくった気がする。
意識がもうろうとしていたからあんまり覚えてないけど。
「あの人達、強盗です。闇バイトってヤツですか?」
「いやいや、だったらおかしくないか!? 俺は氷河期世代の万年フリーターで、財産なんて大して無いはず……」
「人違いだったみたいですよ? 本当は別の人をターゲットにしていたみたいですが、元締めのミスであなたを襲って殺してしまったようですね」
「マジか……」
なんだか理不尽すぎるが、俺の人生こんなもんかとも思ってしまう。なんせ努力して『人生安泰』と言われていた名門大学を卒業できたものの、就職氷河期という時勢の悪さにぶち当たってしまい、フリーターとして生活するしか選択肢が無かったからなぁ……。
それからはもう、不運の連続。運良く就職できた連中は収入がドンドン上がり結婚して家庭を持っているし、これまた運良く氷河期を避けられた後の世代も同様。
対して俺は、収入が上がらず、スキルも上げられず、自分の仕事が社会に貢献できている実感も無い。ただ日々を生きているだけという動物と変わりが無い人生だった。……いや、繁殖できるだけ動物の方が恵まれているか?
「自分の人生の運の無さを嘆いておられますか? はい、正解です。ここは不幸な人生を送ってしまった方だけがたどり着ける部屋。幸運と不幸のバランスを取るための救済措置を行う場所。
まぁ硬っ苦しい言葉を使わずラフな言葉で表現すると、異世界転生の部屋です」
「異世界転生!?」
それってアレか? ファンタジーな世界に主人公が生まれ変わって大活躍みたいな……。
ということは、もしかして俺にもチートな能力とかがもらえたり!?
「概ねその通りですが、どのような転生にするかを決めるのでいくつか質問をします。まず生前の姿のまま転生するか文字通り赤ちゃんから転生するかですけど……赤ちゃんからやり直してもらいましょうか」
まぁ、別に異論は無い。俺はもう中年だし、たとえ活躍できたとしても20~30年くらいだろう。赤ちゃんから生まれ変われば50年以上は活躍できる。
ちなみに生前の姿で転生するのは10代以下で死んだ場合に勧めることもあるそうだ。理由は俺が考えていた事と同じで、異世界で長く活躍できるかららしい。
「続いての質問ですが、異世界でどのように生きたいでしょうか?」
「どのように、とは?」
「例えば、勇者になって世界を救うとか、魔王になって人間を滅ぼすとか。最近は田舎でのんびり暮らしたいとか物作りを極めたい等の要望もありました。まぁ、これはあくまで一例です」
「う~ん……」
いざ考えてみると、何も思いつかない。考えてみればただその日の命を繋ぐだけの生活を長く続けていたからな。人生の目的なんて考える余裕なんて無かったし。
「本当に何も思いつかないようですね。ですが大丈夫です。おまかせプランもありますから。そうですね……貝塚さんの名前にちなんで貝に関するチート能力をお付けしましょう」
「え、ちょ……」
この女、マジで勝手に能力を決めやがった!! だが自分の来世について何も考えられなかったことは事実なので、何も言えない!!
「後は設定した能力に合う世界とマッチングして――はい、決まりました。これで貝塚さんの定性準備は全て完了しました。お疲れ様です」
すると、俺の身体がどんどん消え始めた。なんか恐怖を感じるんだけど!?
「お体の消滅と共に転生先へ生まれ変わります。最後に1つ申し上げますが、実はここ最近、転生装置の調子がおかしくてですね……転生時に予期せぬ事が起こるかもしれません」
「ちょ、それって……」
「申し訳なく思っていますが、いくら上司に掛け合っても『このくらいで業務を止められるか。転生適格者は捌ききれないほどたくさんいるんだ。致命的に壊れてから報告しろ』としか言わずのれんに腕押し状態でして……。公務員の悲しい現実ですね」
あんた、公務員だったのかよ! てっきり神様とか神の使い的なやつかと思った!
「とりあえず、設定した能力の付与は確実に実行されますので、快適な生活と幸せな人生は確かにお約束できます。では、よい来世を~」
こうして、俺の身体の消滅と同時に意識がプツリと途絶えた。
異世界での貝塚巻夫の来世、一体どうなるのだろうか!?
***
目が覚めて最初に感じたのは、潮の匂いだった。手には砂の感触。そして目の前には、見渡す限りの青い海と白い砂浜が広がっていた。所々磯のような岩場もある。
より詳しく状況を把握しようと立ち上がる。……ん? 立ち上がる?
おかしい。俺は赤ちゃんから生まれ変わったはずだが……。
手を見てみると、中年男性とは思えないようなプニプニでちっちゃかった。だが、赤ちゃんの手では無くもっと成長したときの手だ。
下を向くと、真っ白いワンピースを着ていた。スカート部分には精巧な花の刺繍が施されており、いかにも高級品っぽい。
髪を触ってみると、どうも背中までストレートに伸ばしているらしい。髪を目の前に持ってくると、それは綺麗な銀色をしていた。
「って、銀髪!? なんでだ!? ……って声が……」
声が非常にかわいらしくなっていた。声質からして少女だろうか。
急いで自分の顔を触ってみる。肌は白いし、すべすべしていて毛穴一つない。おまけに髭の剃り残しが無い! あまりにも綺麗だから何度も触ったが、別に顔の造形が変わることは無かった。というかむしろツヤツヤして輝いている気がする……。
「まさか……」
慌てて近くの磯の潮だまりで自分の顔を見る。するとそこには、生前の俺の面影が全く無い美少女の顔が映っていた!! しかも髪色は銀髪のロングと、俺の前世ではやらなかった髪型だ!!
「……いや、見た目も声も女の子っぽいだけで、実は男という線も……」
ワンピースの袖口から腕を突っ込み、胸を触る。……まぁ、ちょっと柔らかいか? 男の胸とあまり変わらないような気がする。
問題は下半身だ。恐る恐るワンピースのスカートをめくってみる。そこにはふんわりした薄手のスカートが何枚かあった。確か『ペチコート』って言うんだっけか。スカートのボリュームを上げたり形を整えたりするための、内側のスカート。
どうやらこのワンピース、ペチコートと一体型になっているようだ。しかもペチコートはレースを主体に、太さの違う糸を編み込んで花柄を描いているという手の込みっぷり。見えないところまでこだわってやがる。
そして最後のペチコートをめくり上げると、白く美しい光沢を持ったパンツがあった。この生地、見た感じ絹っぽいな。上部にちょこんと付いているリボンに、太さの違う糸を織り込んで精巧な花弁を描いているという、ペチコートにも負けず劣らず高い技術が詰め込まれたパンツだ。だが今の俺にとって重要な事は、男物のパンツにあるはずの穴が無いということだ……。
そーっとパンツの中に腕を突っ込んでみた。……無かった。何十年も見慣れ、さわり馴れたはずの玉と棒が。代わりにあったのは、綺麗に割れた縦筋のみ。
結論、俺の性別は男から女へと変化を遂げた。それも少女だ。




