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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

チョコ渡すだけなんだがー?

作者: よくヘラ
掲載日:2026/02/14

 いつも通りの朝。そのはずなのに、そうであるはずなのに、いつもと校内の雰囲気が違うと私は感じていた。

 当然だ。今日はバレンタインなんだから。小学生の頃も、中学生の頃も、そして高校生になった今も、この日は特別に感じる。

 視界に入る女の子みんなが私にはキラキラしているように見える。意図や思惑など関係なしに、実際渡すものを手にしているのか否か問わずに、みんながみんな輝いているように見える。

(……今すれ違った女の子、ポケットから箱、ちょっと出ちゃってたな。今から渡しに行くのかな? それとも放課後まで? 今渡さないと溶けそうだけどなぁ……冬だけど廊下はともかく、教室とかは普通に暖房で暖まってるし)

 他人のチョコを心配し、自分の持つそれは心配しない私。なんでだろう、他者のチョコがそうであるならば、私の物も例外では無いだろうに。

 ふと、ポケットに手を突っ込んで箱に触れてみる。安っぽい箱、だけど装飾──とは言っても小さなリボンを一つ付けているだけだけど──のおかげでしっかりプレゼントに見える箱。それに触れながら私は小さく、深く、重く、ため息をつく。

 持ってきたのに。渡そうと決めて持ってきたのに。私は躊躇してしまっている。恐れている。怖がっている。

 私がチョコを渡す相手は女の子だ。同性である女の子。別に不思議な事ではないだろうけど、それでも私の抱いている気持ちは特殊だから、異常な事だと認識している。

 友チョコではなく、義理チョコでもなく、本気の本気の本気チョコ。マジチョコガチチョコ告白チョコだ。

(渡す……べきなのかな?)

 ふぅ、と小さくため息。それを吐きながら私は、ゆっくりと廊下を歩き続けた。

 数秒後。ついに私は教室に辿り着いてしまった。いつも通り挨拶とかせずに普通に扉を開けて入ればいいのに、今日は何故だか、扉に触れることを躊躇してしまう。

 教室にはきっと居る。彼女が居る。渡したい相手がそこに居る。そう思うと私の手は震え、足は止まり、心臓がドキドキバクバクと高鳴り始めてしまう。

 しまう、仕舞う、しまう。耳たぶの下あたりが少し熱い感覚。それを感じながら私は、ゆっくりと扉を開けた。

 開けると同時に飛び込んできたのは、私の耳を痛めつけたのは、無駄に甲高いカースト上位の女子軍団のくだらないつまらないしょうもない会話。無駄に声のボリュームだけが大きく、大して面白くない事をさも大爆笑できるネタかのように自信満々に話すヤバい集団の声だった。

(やば……緊張してるせいかな? いつもより陽キャ達への妬みが凄まじい……醜い……はぁ……こんなんだから私、ダメなんだろうな)

 社会適合者のキラキラ青春を傍目に、隅っこ人生を過ごす私はなるべく彼女達の視界に入らないよう、存在を消しながら早歩きで自分の席へと向かっていく。

 席に着いて、頬杖をついて、スマホを手に持って、はぁと私は小さくため息をつき、再びチョコの入っている箱に私は触れる。

 渡そうかな、どうしようかな、辞めようかな、やめておこうかな、しないほうがいいかな、諦めようかな。色々と理由をつけて、作って、私は私の決めた事から逃げようと模索する。

 陰キャだからこそわかる、人とのコミュニケーションを取る難しさ。少しでもミスったら仲違いをし、関係が変わってしまう恐ろしさが。

 もしもこのチョコを渡して、私の気持ちが彼女に伝わったらその時、私と彼女の関係はどうなってしまうのだろうか。

 きっと、私の求める理想の結果にはなり得ない。ハッピーエンドだなんてありえない。

 メディアとかネットでは同性愛者とかそう言う人たちが生きやすい世界を、なんて言ってるけれど、どこまでいっても区別されている時点で私たちは特殊な人間であり、ノーマルではなく、異常と称されるのだ。

 それ故に、それ故に、それ故に。ハッピーエンドは訪れない。漫画やアニメのように簡単に受け入れられないし、受け入れてもらえない。私自身、自分が特殊な側だと理解しているからこそ、私自身を不可思議な存在と見て、だからこそ自分を自分の感情を自分の恋愛観を、悩んで困って嘲る。

(……なんて風に。私って可哀想な存在なんだなと自負して不幸なフリをして、特別な自分に酔いしれているから……酔いしれてしまうから……私、利口ぶって自傷して変にヘラるんだろうな)

 胸の辺りが少し痛む。全身に寒気があるような、鳥肌が立ちすぎているような、そんな感覚を覚える。

 結局私は、何がしたいんだろう。結局私は、どうしたいんだろう。結局私は、結局私は、結局私は──

「おっはよー! はいこれあげる! 今日バレンタインだからさ!」

「……うぇ?」

 と。突然現れた友人、私の大好きな友人、私の愛している友人が目の前に現れ、笑顔で挨拶をしながら私にチョコを差し出してきた。

 差し出されたそれは、大容量パックに入っている感じの小さくて透明な包み紙に包まれたチョコ。明らかに安い感じのそれは、バレンタインのチョコというよりは、ただ食べているお菓子のお裾分けといった感じ。

 私はそれを無言で受け取り、封をあけてチョコを口に含む。甘いような、別に甘くないような、とりあえず微妙に美味しくない感じのチョコ。それを口に含みながら私は、なんとなく笑ってしまった。

「……はい。じゃあお返しにこれ、あげる」

 チョコを食べ終えたと同時に私は、ポケットの中に手を突っ込み箱を手に取り、サッと軽い感じでそれを目の前の彼女に差し出した。先程彼女がそうしたように、軽く、とても軽く差し出した。

「お? え? 何これガチ感凄いね? 箱じゃん」

「……ふふ、そう、箱。美味しそーと思って買った箱入りのチョコ」

「食べていい? ていうか食べよ?」

 許可を取りながら、私の許可を待たずに箱を開ける彼女。箱の中身を取り出すと同時に瞬時に彼女はそれを口に含み、それとほぼ同時に私に箱の中身をお裾分けしてくる。

 私はそれを受け取り、躊躇なく口に含む。

「……美味し」

「流石箱入りって感じだねー? ありがとね、ホワイトデーにお返しするわ」

「別にいいよ……さっきのチョコのお返しだし、それ」

「えー……じゃあいっか。これでWin-Winだもんね」

「……そ、Win-Win」

 先刻まで。凄く真面目に「チョコを渡す」という行為を真面目に考えていた自分がバカらしくなるくらい、私のそれは呆気なくあっという間に終わってしまった。

 いいよね、別にこれで。私たちは友達なんだし、それ以上の関係にはなれないんだし。

 なれっこないんだし。成就するはずないんだから。

「てかさ、なんでこんなチョコ持ってたの?」

「んー……バレンタインだから?」

「誰かに渡す予定だった? もしかして最初から私にこんないいチョコを? 私たち親友だから?」

「んにゃ……失恋したから渡す必要の無くなったチョコを、改めて渡しただけ」

「ふーん……失恋したんだ。かわいそ」

「バレンタインなのにねー……」

「ねー」

(……陰キャがバレンタイン楽しもうなんて思うな、って感じかな)

 美味しそうに私の渡したチョコを口にする彼女から視線を外し、窓の方を見て、私は小さくため息をつく。

 バレンタイン、つまんねーって感じで。

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