第7話 働きたくないけど、世界は働かせてくる
働きたくない。
これは大事なこと。
とても大事。
なのに。
「ギルドに登録するぞ。」
ガルドはそう言った。
昨日から何度も言っている。
しつこい。
「やだ。」
「やる。」
「やだ。」
「やる。」
ガルドは折れない。
こういうところは、あまり好きじゃない。
でも。
お金は、もっと大事。
だから。
仕方なく来た。
冒険者ギルド。
中はうるさい。
酒の臭い。
汗の臭い。
笑い声。
怒鳴り声。
金属の音。
落ち着かない。
帰りたい。
「こちらへどうぞ。」
受付の人が言った。
エリナという名前らしい。
優しそう。
でも、少し緊張している。
紙を渡された。
「名前を。」
名前を書くのは、嫌いじゃない。
短いから。
レティシア・ヴァール。
書いた。
その瞬間。
エリナの手が止まった。
顔も止まった。
呼吸も、少し止まった。
よくあること。
「……レティシア・ヴァール?」
「そう。」
エリナは、私を見ていた。
じっと。
逃げ場を探すみたいに。
そういう目。
知っている。
前にも見たことがある。
何度も。
面倒だから、何も言わない。
しばらくして、エリナは仕事に戻った。
いい人。
それが一番。
外に出た。
空気が楽。
ガルドが言った。
「これで依頼を受けられるぞ。」
「受けない。」
「受けろ。」
「やだ。」
その時。
「……レティシアさん。」
後ろから声がした。
エリナだった。
「依頼があります。」
「やだ。」
反射。
「薬草採取です。」
「……」
薬草。
安全。
簡単。
疲れない。
「報酬は銀貨5枚です。」
「やる。」
「基準がわからん!」
ガルドが叫んだ。
簡単なこと。
危ないのは嫌。
疲れるのも嫌。
森は静かだった。
太陽。
風。
匂い。
落ち着く。
ガルドが薬草を採っている。
頑張っている。
偉いと思う。
私は木にもたれている。
「お前も働け。」
「見てる。」
「見てるだけだろ。」
「応援してる。」
「してないだろ。」
してない。
でも、言うのは自由。
その時。
気づいた。
何かいる。
弱い。
小さい。
すぐわかる。
「ガルド。」
「なんだ。」
「いる。」
ガルドはすぐに剣を抜いた。
良い反応。
嫌いじゃない。
ゴブリンが出てきた。
一匹。
本当に弱い。
ガルドが斬った。
終わり。
早い。
「このくらいなら余裕だな。」
そう言っていた。
余裕。
いい言葉。
私はゴブリンを見た。
小さい。
弱い。
簡単に死ぬ。
昔は。
もっといた。
もっとたくさん。
数えきれないくらい。
消した。
一瞬で。
全部。
「……レティシア?」
ガルドが呼んだ。
気づかなかった。
「帰ろ。」
それだけ言った。
ガルドは何も聞かなかった。
いい人。
聞かないのは、優しさ。
たぶん。
森を出る。
風が気持ちいい。
平和。
何も起きていない。
それが一番。
ギルドに戻れば、銀貨5枚もらえる。
パンが買える。
スープも。
もしかしたら、肉も。
悪くない。
ガルドが隣を歩いている。
一人じゃないのは。
少しだけ。
本当に少しだけ。
悪くない。
でも。
やっぱり。
働きたくない。




