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金欠魔導士レティシアは働きたくない  作者: クッソデカパイのナギ


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第5話 銀貨はどこへ消えたのか

冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、空気が止まった。


 ざわついていた室内が静まり返る。


 全員がこちらを見ていた。


 正確には私を見ていた。


「……なんだ?」


 ガルドが小声で言った。


「有名人になったな。」


 意味がわからない。


 私は受付へ向かった。


 さっきと同じ受付嬢がいた。


 私を見ると、わずかに表情が引きつった。


「依頼の報告。」


 私は言った。


 受付嬢はこくりと頷く。


「“影”の調査ですね。」


「消えた。」


「消えた……?」

 

 周囲がざわついた。


「はい……?」


 受付嬢が聞き返した。


「消えた。」


 正確には、消した。


 違いは重要だ。


 ガルドが横から補足した。


「影は消滅した。危険はない。」


 受付嬢はしばらく固まっていた。


 やがて、小さく息を吐いた。


「……確認が取れれば、報酬をお支払いします。」


 それだけで十分だった。


 銀貨25枚。


 ついに。


 ついに手に入る。


 数分後。


 受付嬢が戻ってきた。


 手には、小さな袋。


 革袋。


 重そうだった。


 非常に重そうだった。


「依頼達成を確認しました。ですが、あ、あの…」


 受付嬢は袋を差し出す。


 私は受け取った。


 重い。


 確かな重さ。


 銀貨25枚の重さ。


 生きる重さ。


 私は袋を開けた。


 銀貨が並んでいた。


 美しい。


 輝いている。


 世界で価値の高い金属だ。


「肉。」


 私は言った。


「肉だな。」


 ガルドが頷いた。


「肉。」


 私は繰り返した。


 肉。


 パンも。


 スープも。

 

 ケーキも。


 全部買える。


 完璧だった。


 その時だ。


「ちょっと待ったぁ!!」


 大声が響いた。


 振り向く。


 大男が立っていた。


 鎧を着ている。


 そして、怒っている。


 非常に怒っている。


「そいつだ!」


 大男が私を指差した。


「そいつが森を吹き飛ばした魔導士だ!」


 ……またか。


 ガルドが頭を抱えた。


「違う。」


 私は言った。


「違わねえ!」


 大男が詰め寄ってきた。


「森の爆発で、俺たちの拠点が半壊したんだぞ!」


 知らない。


 本当に知らない。


「修理費を払え!」


 嫌だった。


 非常に嫌だった。


 私は袋を握った。


 渡さない。


 絶対に渡さない。


 ガルドが間に入った。


「待て待て、落ち着け」


「落ち着いてられるか!」


 大男が叫ぶ。

 

「壁が吹き飛んだんだぞ!」


 それは不運だった。


 非常に不運だった。


 だが、それは私の問題ではない。


 たぶん。


 受付嬢が困った顔で言った。


「そうなんです。ギルドとしても、拠点被害の報告は受けています。」


 嫌な流れだった。


 非常に嫌な流れだった。


「修理費は銀貨15枚です。」


 世界が止まった。


「……は?」


 私が言った。


 受付嬢が申し訳なさそうに言った。


「責任の所在が完全には証明されていませんので、これは全額ではありません。」


 違う。そこではない。


 問題はそこではない。


銀貨15枚。


 消える。銀貨15枚が。


 私の銀貨が。


 ガルドが小声で言った。


「……まだ3枚残る」


 少ない。


 あまりにも少ない。


 だが。


 ゼロではない。


 私は袋を見た。


 銀貨25枚。

 

 そこから。


 15枚と宿屋の修理分の7枚を取り出した。


 1枚1枚が、重かった。


 命の重さだった。


 受付嬢に渡す。


 大男は満足そうに頷いた。


「……ありがとよ」


 ありがたくない。


 非情にありがたくない。


 大男は去った。


 私は袋を見た。


 残り。


 銀貨3枚。


 静寂。


 ガルドが言った。


「……肉は食えるな。」


 私は頷いた。


「食べる。」


 肉は食べる。


 絶対に。


 何があっても。


 ギルドを出る。

 

 夕日が差していた。


 ガルドが笑った。


「今回は被害が少なかったな。」


 私は頷いた。


「少ない。」


 銀貨は残っている。


 3枚も。


 奇跡だった。


 本当に奇跡だった。


 私は決めた。


 次は。


 爆発しない依頼を受ける。


 絶対に。


 本当に。


 たぶん。


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