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第4話 影は音もなく近づく

森は、静かすぎた。


 風がない。


 鳥の声もない。


 葉の擦れる音すらしない。


「……おかしい。」


 ガルドが呟いた。


 私は頷いた。


 静かすぎるのは非効率だ。生き物は音を立てる。


 だから気がつく。


「気をつけろ。」


 ガルドが剣に手をかける。


「戻ってない冒険者がいるって話、忘れるな。」


 忘れていない。


 銀貨25枚の理由だ。


 森の奥へ進む。


 光が少しずつ減っていく。


 木々が密になり、空が見えなくなる。


 その時だった。


「……レティ。」


 ガルドが小声で言った。


「何。」


「見えるか。」


 前方。


 木と木の間。


 何かがあった。


 黒い。


 いや、暗い…影。


 人の形に見える。


 だが、輪郭が曖昧だった。


 煙のように揺れている。


 生きているのか。


 そうでないのか。


 わからない。


「……あれが依頼の“影”か」


 ガルドが低く言った。


 影は動かなかった。


 ただ、そこにあった。


 存在していた。


 不自然に。


 私は一歩近づいた。


「待て」


 ガルドが腕を掴む。


「不用意に近づくな。」


「調査。」


「だから慎重にやれ!」


 正論だった。


 だが、


 影はこちらを見ている。


 目はない。


 顔もない。


 それでも、見ているとわかった。


 その瞬間。


 影が動いた。


 滑るように。


 地面を這うように。


 速い。


「来るぞ!」


 影が伸びた。


 細く、鋭く。


 槍のように。


 ガルドの足元へ。


 私は指を鳴らす。


 パチン。


 それだけ。


 光に包まれる。


 一瞬。


 本当に一瞬。


 影は消えていた。


 跡形もなく。


 完全に。


 静寂が戻る。

 

 ガルドが固まっていた。


「……は?」


 ゆっくりと振り返る。


「終わった。」


 ガルドが口を開けたまま言った。


「終わったって……」


 周囲を見る。


 影はない。


 気配もない。


 何もない。


 完全に消えていた。


 ガルドが私を見る。


「今、何をした」


「消した」


「どうやって」


「わからない」


 本当にわからない。


 消そうと思った。


 だから消えた。


 それだけだ。


 ガルドが額を押さえた。


「……お前、本当に何なんだ。」


 質問の意味がわからない。


 私は魔導士だ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 その時。


 足元に何かが落ちているのに気づいた。


 金属。


 小さな、銀色の板。


 拾い上げる。


 冒険者タグだった。


 ギルドの紋章。


 そして、割れていた。


 真ん中から。


 ガルドが低く言った。


「……戻ってない奴のだな。」


 周囲を見る。


 他には何もない。


 影も。


 遺体も。


 何も。


 消えている。


「……帰るぞ」


 ガルドが言った。


 私は頷いた。


 調査は終わった。


 影は消えた。


 依頼は達成だ。


 銀貨25枚。


 その価値はあった。


 森を引き返す。


 ガルドが言った。


「なあ。」


「なに。」


「もし、さっきの影がお前を襲ってたら…」


「襲わない。」


「どうしてわかる。」


 少し考えた。


 そして答えた。


「消えるから。」


 ガルドは何も言わなかった。


 ただ、深くため息をついた。


 森を抜ける。


 町が見えた。


 銀貨25枚が待っている。


 肉が食べられる。


 だって今回は爆発していないのだから。

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