第21話 働きたくないのに、適合した
宿。
気づいたのは、剣の方だった。
静かすぎる。
外にある。
何かが。
窓の外を見る。
誰もいない。
でも、
いる。
「……ガルド。」
「なんだ。」
「来てる。」
ガルドは何も聞かない。
すぐにいつもの剣を取る。
「どこだ?」
「わからない。」
「数は?」
「わからない。」
でも、
近い。
剣が、逃げろと言ってる。
珍しい。
いつもは逆なのに。
扉が叩かれた。
コン。
一回だけ。
静かな音。
「レティシア様…。」
知ってる声。
黒ローブ。
前に来たやつ。
「回収に参りました。」
丁寧。
いつも通り。
「今回は…」
少し間。
「抵抗は無意味です。」
ガルドが小さく息を吐く。
「……どうする。」
「開けない。」
「だろうな。」
扉の向こうで、
何かが動く。
気配が増える。
一人じゃない。
三人。
四人。
もっと。
「この街を壊すことも可能です。」
黒ローブが言う。
「ですが、望みません。」
嘘。
壊せる。
本当に。
わかる。
剣が震える。
怒ってる。
「レティシア様。」
声が近づく。
扉一枚。
「それは、人が持ってよいものではありません」
知ってる。
「それは、人では扱えません。」
知ってる。
「それは、」
少しだけ、
声が変わる。
「人でなくなります。」
ガルドが一歩前に出る。
私の前。
「――帰れ。」
「それはできません。」
黒ローブが答える。
「それは、“我々のもの”です」
違う。
剣が強く震える。
否定してる。
違う、と。
扉が、
軋む。
外から力。
壊れる。
もうすぐ。
「レティシア。」
ガルドが言う。
「下がってろ。」
「無理。」
「下がれ。」
「無理。」
剣が、
呼んでる。
初めて。
はっきりと。
触れろ、と。
私は柄に手を伸ばす。
冷たい。
なのに、
安心する。
「レティシア様。」
黒ローブが言う。
すぐそこ。
「最後の機会です。」
私は答えない。
代わりに、
剣を抜く。
その瞬間。
世界が、
静かになる。
音が消える。
空気が止まる。
ガルドの動きが、遅くなる。
違う。
私が速い。
扉が壊れる。
でも、
遅い。
黒ローブが見える。
顔が見える。
驚いてる。
知らなかった。
この状態を。
剣が、
動け、と言う。
私は動く。
一歩。
それだけで、
黒ローブの目の前にいる。
「――」
声が出ない。
剣が、
止まる。
首の前。
あと少しで、
終わる。
でも、
止まってる。
剣が、
迷ってる。
違う。
私が、
迷ってる。
「……レティシア…」
後ろから声。
ガルド。
遅れて聞こえる。
「戻ってこい…。」
戻る。
どこに。
わからない。
でも、
戻る。
剣が、静かになる。
世界が戻る。
音が戻る。
呼吸が重い。
黒ローブが、
初めて、
恐怖の顔をしてる。
「……確認しました。」
震えてる。
「やはり、“適合しています”」
適合。
知らない言葉。
でも、
嫌い。
「撤退します。」
黒ローブが下がる。
他のローブも下がる。
誰も攻撃しない。
できない。
知ったから。
剣を。
私を。
静かになる。
また、
普通の部屋。
壊れた扉。
ガルドが立ってる。
「……おい。」
「なに。」
「今の。」
「わからない。」
本当。
わからない。
ガルドは少し黙る。
「……そうか。」
それ以上聞かない。
私は剣を見る。
静か。
何も言わない。
でも、
わかる。
もう、
戻れない。




