第2話 報酬は修理費で消えます
町が見えた瞬間、嫌な予感がした。
「……なあ、レティ…」
隣でガルドが呟いた。
「何。」
「宿屋、あんな形だったか?」
傾いてる。
宿屋の屋根が少し——いや、かなり傾いていた。
屋根瓦が崩れ、壁の一部が黒く焦げている。
煙もまだ細く立ち昇っていた。
私は立ち止まった。
「……違う。」
「だよな。」
違う。
明らかに違う。
嫌な予感が、確信に変わった。
宿屋の扉を開ける。
中では、親父が頭を抱えて座っていた。
床には瓦礫が散らばり、窓は割れている。
親父が顔を上げた。
そして、私を見た。
じっと。
無言で。
数秒。
「……レティシア。」
「なに。」
「お前、何をした。」
「何もしてない。」
半分は本当だ。
半分は知らない。
親父のこめかみに血管が浮いた。
「森の方で、とんでもない爆発があった。」
ガルドが、ゆっくりとこちらを見る。
やめろ。
その目はやめろ。
「その直後、衝撃波で宿の壁が吹き飛んだ」
親父が、崩れた壁を指差した。
「修理には、金がかかる。」
沈黙。
嫌な流れだった。
非常に嫌な流れだった。
「……依頼は達成した。」
私は言った。
「ゴブリンの巣は消えた。」
親父の目が細くなる。
「そうか。」
「報酬を。」
親父は立ち上がった。
そして、私の肩に手を置いた。
力強く。
逃げられないように。
「修理費で、相殺だな。」
思考が止まった。
「……は?」
ガルドも固まった。
「いや、待て、親父。」
ガルドが慌てて口を挟む。
「報酬は銀貨3枚のはずだろ。」
「壁の修理は銀貨10枚だ。」
親父が言った。
慈悲深い顔で。
終わった。
完全に終わった。
「差額を請求しないだけ、ありがたいと思え。」
私は財布を確認した。
銅貨1枚。
変わっていない。
何も変わっていない。
むしろ悪化した。
ガルドが、そっと私を見た。
「……野宿するか。」
私は頷いた。
「する。」
宿を出る。
夕日が、やけに眩しかった。
腹が鳴った。
ぐうぅ……
ガルドが空を見上げた。
「明日、依頼を探そう。」
「面倒。」
「働け。」
「嫌。」
即答した。
ガルドが笑った。
「金がないぞ。」
私は少し考えた。
そして言った。
「……簡単な依頼ならやる」
「お、やる気になったか?」
「爆発しないやつ。」
ガルドは深くため息をついた。
「それが一番難しいんだよ、お前の場合は」
意味がわからない。
私は、何もしていないのだから。
本当に。




