第12話 働きたくないのに、働かそうとしてくる
黒ローブは、帰った。
帰ったけど、終わっていない。
窓の外にいない。
でも、いないだけ。
いなくなっていない。
そういう種類。
知っている。
ガルドは、ずっと黙っている。
パンも食べていない。
珍しい。
食べないガルドは、ガルドじゃない。
「……ねえ。パン食べないの?」
「……。」
「固くなる。」
「……ああ。」
そう言って、パンを手に取る。
でも、食べない。
「レティシア。」
ガルドが言った。
「さっきの奴…」
「知らない。」
本当。
名前は知らない。
顔も見ていない。
中身も見ていない。
でも。
何かは知っている。
「お前を探してた」
「そう」
「理由は」
「知らない」
嘘じゃない。
理由は、たくさんある。
ありすぎて。
どれかわからないだけ。
ガルドは黙った。
考えている。
重い。
こういう空気は嫌い。
働きたくなるから。
働きたくない。
本当に。
「逃げる?」
聞いた。
ガルドは顔を上げた。
「どこへ。」
「どこでも。」
本当。
どこでもいい。
この街じゃなくてもいい。
この国じゃなくてもいい。
全部捨ててもいい。
慣れている。
そういうの。
ガルドは、少しだけ笑った。
「借金はどうする。」
「……。」
忘れてた。
大事なこと。
とても大事なこと。
逃げても。
借金も追ってくる。
最悪。
「……やっぱり逃げない。」
「そうか。」
ガルドはパンをかじった。
普通。
いつもの音。
それだけで。
少しだけ。
戻った気がした。
「レティシア。」
「なに?」
「お前…。」
ガルドは、少し迷った。
珍しい。
ガルドは、あまり迷わない。
「強いな。」
「知ってる。」
本当。
知っている。
昔から。
ずっと。
「でも…」
ガルドは続けた。
「強いのに…」
止まった。
言葉を探している。
「……なんで逃げる?」
答えない。
答えなくていい質問。
そういうのは。
嫌い。
面倒。
「逃げてない。」
言った。
「動いてないだけ。」
本当。
動かない。
動かなければ。
壊れない。
壊さない。
ガルドが、剣を見た。
壁に立てかけてある剣。
抜けない剣。
刀身を見たことがない。
「俺は弱い。」
突然言った。
知ってる。
普通の人間。
普通の剣士。
魔物も倒せる。
でも。
さっきの黒ローブには。
勝てない。
「でも、」
ガルドは、剣を手に取った。
重い音。
カタリ。
「逃げない。」
そう言った。
「……なんで?」
聞いた。
聞きたくなかったけど。
聞いた。
「借金がある。」
「最低…。」
本当に最低。
でも。
少しだけ。
安心した。
ガルドは、少し笑った。
「それもある。」
それも。
ということは。
それだけじゃない。
面倒。
本当に面倒。
「でも、」
ガルドは、剣を握ったまま言った。
「置いていけない。」
静か。
風の音だけ。
窓の外。
雲が動いている。
「この剣も、」
そして。
少しだけ。
止まって。
「お前も。」
言った。
馬鹿。
本当に馬鹿。
面倒。
すごく面倒。
働きたくなくなる。
でも。
少しだけ。
楽になる。
「……勝手にすれば。」
言った。
本当。
勝手にすればいい。
私は頼んでない。
頼んでないけど。
追い出さない。
ガルドは頷いた。
「あぁ。」
それだけ。
それだけで。
決まった。
外。
黒ローブはいない。
でも。
また来る。
知っている。
今度は。
一人じゃないかもしれない。
もっと強いのが来るかもしれない。
面倒。
本当に面倒。
だから。
働きたくない。
本当に。
でも、
もし、
どうしても働かないといけなくなったら。
その時は。
少しだけ。
本当に少しだけ。
働こうと思った。




