第11話 働きたくないのに、見つかった
見られている時は、わかる。
目じゃなくても。
距離があっても。
隠れていても。
わかる。
昔から。
ずっと。
窓の外。
今日もいる。
黒いローブ。
動かない。
ただ立っている。
帰ってほしい。
本当に。
「レティシア。」
ガルドがパンを食べている。
平和。
いいこと。
「今日も依頼——」
「やだ」
「まだ言ってない。」
「どうせ面倒。」
ガルドはため息をついた。
その時。
コンコン。
扉の音。
止まった。
ガルドも止まった。
また。
面倒。
「……誰だ?」
ガルドが聞いた。
返事はない。
代わりに。
扉が、勝手に開いた。
音もなく。
ゆっくり。
黒いローブ。
中に入ってきた。
近い。
昨日より。
ずっと近い。
ガルドが前に出た。
「止まれ。」
剣を抜いた。
正しい。
でも。
意味はない。
黒ローブは止まらない。
歩いてくる。
一歩。
また一歩。
遅い。
でも。
十分。
「レティシア・ヴァール…」
声。
男。
若くもない。
老いてもない。
普通。
でも。
普通じゃない。
「見つけた…」
見つかった。
知ってた。
ずっと前から。
「帰って。」
言った。
黒ローブは止まった。
「拒否する。」
当然。
いつもそう。
「お前は必要だ。」
必要。
便利な言葉。
何かを壊す時に。
よく使われる。
ガルドが言った。
「何の話だ?」
黒ローブは答えない。
私だけを見ている。
それで十分。
「来い。」
命令。
嫌い。
本当に嫌い。
「やだ。」
答えた。
黒ローブの空気が変わった。
少しだけ。
重くなる。
魔力。
強い。
普通の人は動けない。
ガルドも、少しだけ動きが止まった。
でも。
倒れていない。
強い。
いいこと。
「抵抗は無意味だ。」
黒ローブが言った。
無意味。
それは違う。
意味はある。
面倒になるという意味が。
「動かないで。」
言った。
黒ローブが止まった。
本当に止まった。
空気も止まった。
魔力も止まった。
全部。
止まった。
静か。
それが一番。
「帰って。」
もう一度言った。
黒ローブは動かない。
でも。
壊れていない。
消えていない。
ただ止まっているだけ。
強い。
今までの人たちより。
ずっと。
「……なるほど。」
黒ローブが言った。
止まっているのに、声だけ動く。
面倒。
「やはり、お前は…」
続きは聞かない。
聞きたくない。
「帰って。」
三度目。
大事なこと。
黒ローブは、ゆっくりと後ろに下がった。
一歩。
また一歩。
扉の外へ。
消えた。
静かになった。
ガルドが動いた。
呼吸が戻る。
「……今のは…?」
「知らない。」
本当。
名前は知らない。
種類は知っているけど。
ガルドは、しばらく何も言わなかった。
それから。
「大丈夫か?」
そう聞いた。
自分じゃなくて。
私に。
不思議。
大丈夫じゃないのは、そっちなのに。
「大丈夫。」
答えた。
本当。
壊れていない。
消えていない。
まだ。
外を見る。
黒ローブはいない。
でも。
いなくなっていない。
知っている。
また来る。
必ず。
もっと増える。
もっと面倒になる。
嫌。
本当に嫌。
だから。
働きたくない。
本当に。




