第10話 働きたくないのに、静かにしてくれない
静かな日は長く続かない。
知っている。
経験上。
良い日は、すぐに終わる。
「レティシア。」
ガルドが呼んだ。
「依頼がある。」
「やだ。」
反射。
「まだ内容を言ってない。」
「どうせ面倒。」
「薬草採取だ。」
「やる。」
ガルドは少し笑った。
薬草はいい。
安全。
壊れない。
消えない。
森に向かう。
風。
木。
匂い。
落ち着く。
昔と同じ。
何も変わらない。
それが一番。
ガルドが薬草を採る。
真面目。
偉い。
私は座る。
見ているだけ。
それで十分。
その時、違和感。
小さい。
でも、確実にある。
空気が、少し重い。
見えない何かがある。
遠く。
まだ遠い。
でも。
知っている。
この感じ。
「……レティシア?」
ガルドが気づいた。
「どうした?」
「いる。」
「魔物か?」
「違う。」
魔物じゃない。
人…。でも、人でもない。昔…
何度も来た。
何度も見た。
何度も消した。
面倒なもの。
探すもの。
私に破壊させようとするもの。
ガルドは剣を握った。
優しい。
守ろうとしている。
無理なのに。
それでも。
嫌じゃない。
「帰ろ。」
言った。
「でも依頼が――」
「帰ろ。」
繰り返した。
ガルドは少し迷って、頷いた。
いい人。
森を出る。
違和感は消えない。
むしろ。
近づいている。
ゆっくり。
確実に。
街に戻る。
人がいる。
安心。
壊れにくい。
宿に戻る。
椅子に座る。
安全。
そのはず。
でも。
窓の外。
遠く。
一瞬だけ。
見えた。
黒いローブ。
立っているだけ。
動かない。
こっちを見ている。
目は見えない。
でも。
わかる。
見ている。
探している。
私を。
ガルドは気づいていない。
気づかなくていい。
その方がいい。
黒いローブは動かなかった。
ただ、立っているだけ。
それだけで十分。
知っているから。
あれは。
諦めない。
逃げても。
隠れても。
待っていても。
いつか来る。
必ず来る。
面倒。
本当に面倒。
だから。
目を閉じた。
見なかったことにする。
それが一番。
働きたくない。
戦いたくない。
壊したくない。
ただ。
静かにしていたいだけ。
本当に。
それだけなのに。




