第1話 金欠魔導士レティシアは働きたくない
「……おい。」
目の前には消し炭になったゴブリン。
焦げた匂いが、森の湿った空気に混じる。
私はまだ、何もしていない。
「おいってば!!」
隣で、ガルドが叫んだ。
「今の、お前がやったんだろ!?」
「知らない」
正直に答えた。
本当に知らない。
だから仕方ない。
気がついたら、ゴブリンは燃えていた。
「詠唱もなしにか!?」
「してない」
ガルドは両手で頭を抱えた。
「お前なぁ……自分が何者かわかってないのか……」
わかってることならある。
腹が減った。
ぐうぅ……
静かな森に、不快な音が響いた。
ガルドがゆっくりとこちらを見る。
「……昨日から何も食ってないって言ってたな。」
「言った。」
面倒だったのだ。
ゴブリン討伐。
報酬は銀貨3枚。
安い。あまりにも安い。
「帰る」
「待て!!」
ガルドが私のローブの裾を掴んだ。
「だから依頼はちゃんと最後までやれって言っただろ!巣がまだ残ってる! 途中放棄したら報酬は出ないんだぞ!」
「別にいい。」
「よくない!! 今、銅貨一枚しか持ってないだろうが!」
図星だった。
私は財布を確認した。
銅貨1枚。
それが全財産だった。
……なぜこうなった。
理由は単純だ。
昨日、ケーキを買った。必要な出費だったから。
「働け。」
「嫌。」
即答した。
ガルドの顔が引きつった。
「お前なぁ……」
その時だった。
ガサガサ、と。
森の奥から音がした。
ガルドが剣の柄に手をかける。
「……まだいたのか!?」
面倒だ。
本当に面倒だ。
だが、腹が減っている。
それはもっと面倒だ。
私は仕方なく、前に出た。
「おい、何する気だ!?」
「早く終わらせる。」
「だから巣を探して――」
最後まで聞く必要はない。
指を鳴らす。
それだけで十分だった。
次の瞬間。
森の奥で、光が弾けた。
遅れて、轟音。
ドォン――――
風が吹き抜け、木々が揺れる。
静寂。
ガルドが、口を開けたまま固まっていた。
「……今、何をした…?」
「巣を消した。」
「消したって……」
煙が、ゆっくりと空へ昇っていく。
もう、何の気配もなかった。
ゴブリンの気配も。
巣の気配も。
何もかも。
ガルドが、ぎこちなくこちらを見る。
「……全部、か?」
「全部。」
沈黙。
数秒後。
ガルドは深くため息をついた。
「最初からそうしろ……。」
「面倒だった。」
「どの口が言うんだ、その台詞……。」
私は踵を返した。
「帰る。報酬をもらいに行く。」
腹が減っている。
今度こそ、ちゃんとした食事をする。
ケーキも良いが、パンも悪くない。
肉もあればなお良い。
ガルドが苦笑した。
「まったく……。」
森を抜ければ、町はすぐそこだ。
そして、報酬も。
今日こそは、ちゃんと食べられる。




