42ジャックの思い
「それからは今でも忘れねぇ。バルタさんの死体をレイルと一緒に馬車で村まで運んだ。そのときは雨が降ってやがったな…。村につくと雨のせいかドンよりしていてよ。俺たちは事情を知らない村の連中にバルタさんの死を伝えた。かなり辛かったよ。でも伝えなきゃいけないことだったからな」
相当に辛かったのだろう。ジャックさんは眉間にシワを寄せて怒りと悲しみが入り交ざった表情をしていた。
「村の連中はバルタさんの死による悲しさや、その原因をつくった国に対する怒りを俺たちにぶつけた。『どうしてバルタさんが亡くならなきゃならんのだ』『ジャックとレイルは何をしていたんだ』とか色々な。俺たちも言いたいことはあったが、その時ばかりはただ呆然と話を聞いていた。そしたらよ、急に胸ぐらを掴まれたんだ。アニカさんだった」
ジャックさんは、またタバコをくわえて煙を吐く。
もう顔を見れなくなって、下を見る。
「『嘘をつくな!嘘をつくんじゃないよ!バルタが死ぬわけないだろう!あいつは護衛の依頼が終わったら帰ってくると約束したんだ!ガルラも待っているんだよ!』ってな。普段は笑ってばかりのアニカさんが泣きながらそう言ってきたんだ。しまいにゃ崩れ落ちちまった」
アニカさん…。
「そこからは俺も朧気だ。バルタさんを墓に埋葬して葬式してさ。何だか実感がなかったぜ。でも抜け殻のようにただ埋めたお墓を一点に見つめるアニカさんのことはしっかりと覚えてるなぁ。ガルラと手をつないでボーッと立ってやがった。ガルラは不思議そうに埋められた墓を見ていたな」
思い出しながら噛みしめるようにジャックさんは話をつづける。
「その後は何日も太陽をなくした村は暗い状態になった。そんなある日、俺がアニカさんのとこで飯を食べているとヤツ…。守護者ギルドのおえらいさんがいまさらやってきやがった。何を言うかと思ったら『国のために魔獣と戦い亡くなったバルタさんの勲章を遺族に授けに来た』とかぬかしやがった。俺は抑えられずテーブルを蹴飛ばし葬式にも来なかった馬鹿野郎をぶん殴っていた。アニカさんやガルラが見ているのにもかかわらずな。その後は俺を守護者ギルドから除名するとか泣き散らかしながら馬鹿野郎が言いやがるから、『かまわねぇ』って言ってやった。まぁ、バルタさんのいない国の傀儡化したギルドに未練はなかったからな」
ジャックさんは、自虐的に笑った。
「馬鹿野郎は半泣きで勲章も渡さずに走って外に出ていきやがった。アニカさんに悪いと思って謝ったら、興味なさそうにしてた。本当に興味なさそうにな。ただガルラは父ちゃんは国に貢献したんだって喜んでたな…」
守護者ギルド…。ガルラは憧れのように話をしてたけど、憧れるような団体ではないように思えた。
「それからしばらくはアニカさんは暗いままだったんだけどよ。突然明るくなりやがったんだ。話をきくとガルラが旅に出ないで宿を継ぐって言ったみたいでな。だからいつまでも一緒にいられるってよ…。でもガルラは昔からバルタさんの冒険話に目を輝かせてたんだ。それでいつかは父ちゃんのように旅にでたいってな」
「もしかして、ジャックさんが言ってた2人は過去に縛られてるって…」
ここまでの話で大体わかってしまった。
「あぁ。ガルラは自分の気持ちを押し殺して母親を優先したんだ。これ以上悲しませないようにってな。アニカさんも昔は旅に出たいガルラを応援していたはずなのに、バルタさんが亡くなって変わっちまった」
何ともやるせない気持ちになる。何が正解なのかわからなくなるほどに。
ジャックさんはタバコを土器に押し付けて火を消すと、俺の目をじっと見つめると両肩を手で強く掴んだ。
「なぁ。ガルラを村の外に連れてってくれねぇか。ガルラは村の外に出たいって昔はいつも言ってたんだ。アニカさんも自分の子には自由に生きてもらいたいって言っていた。でも、このままじゃ依存している歪んだ状態になっちまう。バルタさんも、これじゃあ浮かばれねぇ。なんたってバルタさんはガルラが旅に出ることをすごく楽しみにしてたんだ。頼む…」
ゴクリとツバを飲む。
さっきの酔っ払いと同一人物なのかと疑問にもつほど、ジャックさんは真剣な面持ちをしていた。




