表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第二話 希望の闇

俺の唯一の友人が死んだ。

人は死ぬことを改めて思い知らされた。

それに俺は彼女のこと何も知らない。

好きな食べ物とか好きな季節とか、

何も知らないまま話せなくなってしまった。


俺は葬儀の参加を申し出た。

せめてもの礼儀と挨拶をするために。


雫の葬儀は少し東京から離れた所で行われた。

俺も黒いスーツに身を包んで先生の車に背負われた。


「なぁ木瀬、葬式は初めてか?」

先生はしゃがれた低い声で聞く。

「いえ、前に一度だけ。」

俺は両親を中学に入ってすぐに亡くしている。

「そうか…やっぱり悲しかったか?」

「はい。涙が止まりませんでした。」

「そうか。」


葬儀場に到着すると、雫の母親が挨拶回りをしていた。

母親は無表情だった。


葬儀の前先生と少し話をした。

葬儀場の駐車場の先に眺めのいい展望台があった。

よく風が吹いていて、気持ち良かった。

「フー」

「先生って煙草吸うんですね。」

「いや初めて吸った。クソまじぃ」

「でも、涙が乾いていく感じがする。」

「泣いたらよ、花咲も天国行くとき悲しいと思ってな」

「そうですね…」

先生の目尻には涙の跡がついていた。

「結局泣いてんじゃないすか。」


「うるせえ。今泣いてるお前に言われたくないぜ。」

「え?いや、俺泣いてますか?」

「あぁそりゃビショビショだ。ほらよ拭いとけ」

先生真っ白のハンカチで俺の顔を拭いてくれた。

さっきまで煙草臭かった先生からはいい匂いがした。


「俺たち、葬儀の前に泣いちまってバカみたいだな。」

「はは…そうですね」

悲しいのになんかおかしくて。

おかしいのに涙が止まらなくて。


人には死など必ず訪れる。

人が死んだらどうなるか?

葬儀中ずっとそんなことを目を閉じて考えていた。

お経の言葉が並ぶ度、心が重くなっていく。


人が死んだら天国か地獄に行くらしい。

生前良い事をしたら天国。悪い事をしたら地獄。

それが一般的な考えだ。


しかしそれは仮説に過ぎない。誰も知らないのだから。

人が考え出した仮説だ。

それなら幽霊や亡霊という存在は?

なぜ彼らは天国や地獄に行けなかったのだろうか?


つまりは、俺らは死後のことを何も知らない。

死んだ人が教えてくれるわけもない。

違う世界に行くのかもしれない。

天国と言われる場所でずっと過ごすのかもしれない。


目を開くと、お経が聞こえなくなった。いや止まった。

時間止まったんだ。

まるで魔法だ。

すると薄暗かった葬儀場が青白く彩られた。

そして桶に供えたお花が宙に舞った。

不穏な空気が肌を擦った。


聖導者(ディクレム)共め。こんな少女まで手にかけるとは…』

どこからともなく男が現れた。

声の元は艶やかな白髪に、整った顔、紫色の美しい目をしていた。

そして彼は桶のそばにお花を添えた。


俺は驚きも隠せぬまま立ち上がった。

「誰だ!」

そう叫んだ。

すると彼は驚いたように目を丸くしてこっちを向いた。


『お前、何者だ?』

「それはこっちのセリフだ!急に現れてブツブツと…」

『私は堕天の一橋(ひとはし)、名はシルファ。』

「堕天…?」

『我々堕天は聖導者(ディクレム)を追っている。』

「ディクレム?」

聖導者(ディクレム)は、宿命を定めし者。そこの少女も奴らに導かれた。つまりこの少女が死ぬのは決まっていたことなのさ。』

「何…言ってんだよ…」

『信じられないのも無理は無い。お前ら地球人は奴らの玩具に過ぎない。奴らの能力の実験台にされている。奴らは命を遊び道具としか思っていない。』


『いやそんなことはどうでもよい。小僧、お前本当に人間か?私の堕戒魔導に耐える人間なんてありえぬ。』

「何が何だかわからない」

『今分からずとも問題ない。お前がどうしたいかだ。この先を知りたければこれを使え。』

シルファは鍵を渡してきた。

なんだったのだろうか…

わけもわからぬまま行ってしまった。


シルファが居なくなった途端、

お経がまた流れ始めた。


俺の頭の中はぐちゃぐちゃだったが冷静だった。

シルファの言ったことを整理しよう。

まず彼は異世界からの使者であること。

そして彼の言ったことが正しければ花咲雫は殺されたということ。

もしかしたら何かが変わろうとしているのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ