7.繋がり
「そうでしゅよね!」
「陛下、大丈夫なので……?」
「まず絶品といっていい。驚いた。宮廷料理に勝るとも劣らない」
アシュレイの評価に触発され、兵と冒険者がおそるおそるナイフを動かす。
次に食べたのはロイドとシェリーだった。
「……うまいな」
「わぁ、思っていた以上の味ですねっ! とってもジューシー!」
「ふっふーん、どうでしゅか」
「恐れ入った。しかしよく、魔物の肉を食べようと思ったな」
「むしろ食べようとしないのが不思議でしゅ」
「……やはり変わった子だ」
話しながらもアシュレイは止まることなく食べ続けている。
他の人も段々と食べ始め――。
「う、うめぇ! 魔物の肉ってこんなにうまかったのか!?」
「こんな上等の肉、食べたことない!」
味に魅了された人達がガツガツとステーキを食べまくる。
お腹を膨らませたモーニャが風魔法を振るい、さらにステーキを切り分けた。
「はいはーい。おかわりはありますよー。欲しいひとー?」
「こっちにくれー!」
「俺も俺も! これならまだまだ食べられる!」
「大好評でしゅねー」
どこからか酒やおつまみも出てきて、歌い出す人まで現れる。
ステーキ食事会は宴会に変わっていった。
戦いが終わり、肉があればどこでもそうなるだろう……これが祝宴だ。
ライラはとりあえずアシュレイの隣で肉を食べまくっていた。
もちろん秘伝の自作焼き肉タレをかけながら。すーっと身体に味が入ってくる。
「よく食べるな」
「育ち盛りでしゅので」
「ふむ……何歳だったか?」
「よんしゃいです!」
「4歳は育ち盛りというのか……?」
首を傾げたアシュレイがじぃっとライラを見つめる。
その瞳の奥はライラには読めなかった。
しかし不思議と不快感はない。なぜだろうか、隣で食事をしていても負担に感じなかった。
一介の冒険者と国王。身分は隔絶しているのに、居心地がいい。
これはモーニャ以外には感じたことのないことだ。
(……どうしてでしゅかね)
アシュレイがフォークを置く。
「立ち入ったことかもしれんが、親はどうしているんだ?」
「いましぇん。記憶もないでしゅ」
「……そうか。気を悪くしてしまったな」
「いいんでしゅ」
その点について、ライラは本当に気にしていなかった。
転生者でもある自分は、生まれた時から人とは違う。
親がいないのは前世から慣れているし。
「だとしたら、そのライラという名前は――自分で名付けたのか? いい名前だな」
「違いましゅよ。これだけがあったんでしゅ」
ライラはモーニャに目配せした。
モーニャが雪原の上のバックパックから、一枚の布切れを取り出す。
森に置き去りにされたライラ。
唯一、そうなった経緯の手掛かりが名前の刺繍された布切れだ。
これだけはいつどこでも持ち歩くようにしていた。
「……これは」
「あたし、生まれた時から森にいたんでしゅ。なぜだかは知らないでしゅけど。で、これだけが身体に巻き付いてて……へ?」
アシュレイが布を凝視している。普通でないほどに。
「ど、どうしたんでしゅか?」
布を見つめていたアシュレイがささやく。
雪に溶けそうなほど、小さな声で。
「俺にも娘がいた」
「はい?」
「魔物の群れが妻と産まれたばかりの子の療養所を襲い、ふたりとも死んだ」
ライラは戸惑った。何の話をしているか、さっぱりわからない。
声の調子は変わらず、恐るべきクールさだった。
「……この布は妻の刺繍だ。間違いない」
「ええ〜〜っ!?」
「そ、それってどういうことですかぁ!?」
ライラとモーニャがひっくり返らんばかりに大声を出した。
「この布と共にあった、ということは……お前は俺の娘だ」
「ひぇぇー!! ど、どーしましょう!! どーしましょったら、どーしましょう!」
モーニャが慌てふためきながら右往左往する。
「……落ち着きなしゃい」
ぺしっとライラがモーニャにチョップをかます。
「あたちより騒いでどーするんでしゅか」
「主様、冷静ですね!?」
「驚いてましゅよ。でも考えてなかったわけじゃないでしゅ」
冒険者をしていれば、いつか家族に会えるかもとは思っていた。
両親でなくとも祖父母や叔父叔母とか。
自分がここにいるということは、どこかで自分を産んだ相手がいるということ。
その痕跡が全く消えてしまうとは思ってなかった。
「4年でしゅからね。そんなに昔のことじゃないでしゅ」
「むむっ、さすが主様! クールでクレバー!」
「……ああ、そうだな」
「でもホントなんでしゅか? うっかり間違いじゃすまないでしゅよ」
「俺の妻、サーシャはこのヴェネト王国で珍しい黒髪だった。それに魔力の素質は遺伝する。俺とサーシャの子ならば、この桁違いの魔力も頷ける」
黒髪、確かに珍しいとは思っていた。
少なくともヴェネト王国では自分の他に見たことがない。
妻の刺繍と黒髪。それに魔力。
ライラにも他に親の心当たりがあるわけではなかった。
「へぇー、じゃあ決まりですねぇ!」
「そうでしゅね……」
ごくりと息を呑む。状況証拠は揃っていた。
今日はなんという日だろうか。
軽い気持ちで魔物退治に来たはずなのに、まさか父親と再会するなんて。
しかもその父親は、この国の王様だったのだ。
(で、どうしまひょう)
アシュレイもライラも、感動の親子の再会という感じではない。
身体は幼くてもライラの心は大人で、アシュレイもこーいう人間なのだ。
会話が途切れ、なんとはなく気まずい沈黙が流れる。
ライラも次に何を言ったら良いか、わからなかった。その流れを変えたのはアシュレイからだ。
「ところで、その黒いソースだが気になってしょうがない」
「……あい?」
「とてもいい匂いだ。分けてくれないか」
不器用にもほどがある。これが親子の対話だろうか。でも仕方ない。
「いいでしゅよ」
「食べたら飛んじゃいますよぉ!」
「ほう、楽しみだ」
アシュレイのステーキに、お手製焼き肉タレをかけるライラ。
やれやれ、もっと違う会話の切り出し方があるだろうに――と思いながらも悪い気はしないライラであった。
これにて第2章終了です!
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