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5.群れへの対策

「…………」


 ぺこりと頭を下げただけでロイドはちょっと身を引いた。


「はぁ、やはり歴戦の冒険者って感じですねぇ」

「人見知りなだけじゃないでしゅ?」

「で、こちらのちびっこが冒険者のライラと従魔のモーニャだ。こう見えてもかなりの魔力があるが、知っているか?」

「……彼女の名前を知らない冒険者などいないよ。なるほど、君がそうなんだね」


 ロイドがすっと屈む。屈んでもロイドとは微妙に目線が合わない。

 ロイドの筋骨ががっしりしすぎているからか。


 ロイドの瞳からは静かな闘志が見える。

 朴訥としていながらも、信頼できそうだった。


 同時に探りを入れられているとライラは感じ取った。見られている。


(やっぱり並みの冒険者ではなさそーでしゅね)


「覚悟はできている?」

「あい! 頑張りましゅ!」

「……いい目だね。作戦は?」


 立ち上がったロイドがアシュレイに問う。


「予定通りだ。冒険者は総出でこの峡谷に氷河ヘラジカを追い立ててくれ」

「その後は……?」

「俺と――」

「あたちがやりましゅ!」


 ライラが元気良く手を振り上げる。

 普通なら4歳児のそんな言葉など、信用しないだろう。


 だが、ロイドも知っている。驚異の新星、奇跡のちびっこ、森の魔女、破壊の幼女――ライラの様々な異名を。疑う余地などない。


 ロイドが頷き、歩き出す。

 その足取りは確固たる目標に向かってのモノだった。

「冒険者に二言はないよ。配置につく」





 それから数時間。

 アシュレイが指揮を取る隣でライラは待ち続けた。

 ゆっくりと本営の緊張が高まっていくのが伝わってくる。


「はふー、大丈夫ですかねぇ」


 焦ってくるモーニャの頭をライラが撫でる。

 伝令から報告を受け取ったアシュレイがライラに向き直った。


「氷河ヘラジカの群れは順調にこちらへ向かっている。もうまもなく、見えるはずだ」

「はいでしゅ」

「……氷河ヘラジカがこれほど集中するというのは、初めてだ」

「そーなんでしゅか?」

「氷河ヘラジカは気性が荒い。仲間内にもだ。それゆえ数十頭も一気に動くのはめったにない」


 モーニャがふむふむと頷く。


「へぇー、じゃあ完全な不運ですねぇ」


 その言葉にライラは押し黙った。


(偶然というのもありましゅが、そうじゃないとすると……)


 魔物が暴れる要因は多々ある。

 自然現象によるものもあるが、人間のせいということもある。


 朝方、ライラたちがギガントボアに襲われたように。

 シェリーが追われたように。


 ライラの回る思考をアシュレイが優しく遮る。


「まぁ……原因は解明したいが、まずは目の前の討伐だ」


 その言葉が終わる頃には、雪を叩きつけるような地響きが轟いてきていた。

 80体もの氷河ヘラジカが走れば、大地をも揺らす。


「来ましゅたね」

「ああ、こちらも魔法隊は用意しているが……」

「まずはあたちがやってみるでしゅよ!」


 徐々に地響きが大きくなり、震源が接近してくる。

 ロイドたちは役割を果たしたようだ。


 猛烈に雪を撒き散らしながら、氷河ヘラジカの一団が峡谷に姿を見せる。


 角を振りかざしながら突進する氷河ヘラジカにヴェネト王国の兵士が戦慄した。

 あの一頭でも生き残れば、並みの兵士では敵わないのだから無理もない。


「……そろそろだな」


 アシュレイがライラと兵に目配せをする。

 氷河ヘラジカが峡谷を走り――行き止まりに到達する寸前、アシュレイが腕を振り上げた。


「ライラ、攻撃開始だ」

「はーいでしゅ!」


 モーニャがライラのバックパックから大きめの瓶を取り出した。

 ライラが純色の緑に満たされた瓶を掲げ、狙いを定める。


 その瓶に内包された膨大な魔力は、魔法使い以外にも感じ取れるほどだった。

 大きく振りかぶったライラが全身の筋肉と魔力を総動員し、氷河ヘラジカの群れへ純緑の瓶を投げる。


「とーう!!」


 モーニャの風の魔力がプラスされ、瓶は華麗な放物線を描いて飛んでいく。

 峡谷の最奥部、氷河ヘラジカの中央に瓶が吸い込まれ――魔力に満ちた緑色の雲が、群れの中に出現した。


「ぶもー!!」

「ナイスシュートでしゅ!」


 ライラがガッツポーズを決める。

 緑色の雲は氷河ヘラジカを飲み込んでいく。


「よし、風魔術で雲を封じ込めろ」


 アシュレイの号令が発せられると、峡谷上の魔術師が風を巻き起こす。

 強風は峡谷の上から下へと吹き付け、毒色の雲を押し付ける。

 氷河ヘラジカの怒声と足音がすぐに小さくなっていった。


「ふむ、効果が出ているな」

「あたちが丹精込めて作った麻痺毒でしゅよ。効果はバツグンに決まってましゅ」


 ライラが放り投げたのは、動物用の麻痺毒だった。

 緑色の雲が広がり、これを吸い込んだ魔物を眠るように麻痺させるのだ。


「状態異常を引き起こす毒は確かにあるが、これほど強力な毒――どういう風に作用しているんだ?」

「ほら、魔物には核があるでしゅよね? それを麻痺させているんでしゅ」

「明らかにヤバそうな毒だが、人間には大丈夫なのか?」

「雲が消えれば。水にも溶けて環境にもクリーンでしゅ」


 麻痺毒の雲は実際、水に溶けて十分ほど経つと効果が劇的に弱まる。

 この峡谷なら雪に吸収され、もう無毒化しているはずだった。


「……その言い方はどうかと思うが。にしても、これほど効くものか……」

「ちょっと効きすぎかもでしゅね。まー、そういうこともあるでしゅ!」


 ライラもその点はちょっと不思議であった。

 想定よりも群れが早く沈黙している。毒の回りが早い。


「群れによって毒の耐性が違うかもでしゅ」

「かもな。あとはお前が凄すぎるかだ」


 絶大な魔力と超精密な調合力がないと、こうも上手く働きはしないはずだ。


 眼下の氷河ヘラジカはほとんど沈黙した。

 暴風のごとき群れが峡谷で静かになっている。麻痺毒が完全に回ったのだろう。


 その様子にヴェネト王国の兵から歓声が上がった。


「やったぜ! これなら簡単に討伐できる!」

「しかも無傷でな!」

「あのちびっこのおかげだ!」

「ちびっこ万歳ーー!!」


 氷河ヘラジカの群れが完全沈黙したのを受けて、アシュレイが号令を下す。


「よし、総員! 攻撃開始だ!」

【お願い】

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