表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】転生チート王女、氷の魔術王に溺愛されても冒険者はやめられません!~「破壊の幼女」が作る至高の魔法薬が最強すぎるので万事解決です~  作者: りょうと かえ
第6章 無敵なあたちとあたちのとーさま

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

33.大公進撃

 夕日が王都を染める頃。


 魔物の襲来に怯える王都の中にあって、ボルファヌ大公だけは違った。

 彼は野心にぎらつく眼を武装した配下に向ける。


 ボルファヌ大公が集めるだけ集めた手勢が庭にもおり、総勢は数百名にもなった。

 名目は魔物の襲来に備えるため。しかし、ボルファヌには異なった思惑があった。


「あの若造のことだ。魔物の襲撃は退けるだろう……。しかし消耗しきるはずだ」


 アシュレイさえ消してしまえば、他はどうとでもなる。

 否、どうにかしなくてはならない。


 これ以上座していては、ますます勢力に差が開いてしまう。


(そんな事実は認められん……!)


 アシュレイの軍が大打撃を受けていれば、ボルファヌ大公はこの兵でもってクーデターを実行するつもりであった。


 もちろんアシュレイの軍が無事なら、また別の機会を待つしかないが。

 だが、何度も魔物の襲来を王都周辺で起こせば勝機はある――ボルファヌ大公はそう頭の中で算段を立てていた。


「そのためにもあの若造の軍がどうなったか、押さえねばな……」


 そこにボルファヌ大公のスパイが息を切らせて飛び込んできた。


「申し上げます、大公様!」

「おお、あやつはどうなった?」

「魔物の襲撃に対し、アシュレイ陛下は孤軍での戦闘を開始! 戦闘自体は勝利され、軍も健在のようですが――陛下は大怪我をされ、瀕死とのこと!」

「なんだと!? それは本当か!」

「は、はい! 近衛軍は勝利したものの、祝う者はおりません……」


 ボルファヌ大公は野蛮に歯を剥き出した。


「……やはり青臭い奴よ。どうせ兵を見捨てられず前線に立ち、傷を負ったのだろうな」


 やはりアシュレイは王の器などではなかったのだ。ボルファヌ大公はひとりごちる。

 俺ならば王都を危険に晒してでも生き残る。最後に生きていた者が勝者なのだから。


「よし、儂は出るぞ! ヴェネト王国の実権を我が手に取り戻すのだ!!」


 ボルファヌ大公は馬へ騎乗し、完全武装の兵を引き連れて大通りへと向かう。


 いつもは喧騒あふれる市内も死んだように静まり返っている。

 アシュレイの悲報とともに活力を失ったようだ。


 ボルファヌ大公は意気揚々と王宮に向かう。

 アシュレイが動けない今、王宮を押さえれば門閥貴族も自分を支持するに違いない。


 大通りを威圧しながらボルファヌ大公は進む。

 ここまでは順調だった。


「……あれは」


 大通りを塞ぐように数十人の騎士がいる。

 その先頭に立つ男に目をこらし――ボルファヌ大公は笑った。


「バルダーク! 来たのか!!」


 それはバルダーク侯爵の一隊であった。

 全員がボルファヌ大公も見覚えがある名うての騎士や魔術師だ。


 なんという遭遇。このタイミングで合流できるとは。幸先が良い。


「……閣下、テレポートや飛行などで集められるだけの戦闘員を集めて参りました」

「ほっほう! ご苦労だった! よし、我が後ろに加われい!」


 バルダークが加われば日和見主義者も腹を決めるだろう。

 ボルファヌ大公が自分の後ろを顎差す。


 だがバルダークは微塵も動かなかった。

 バルダークの隊が動かないとボルファヌ大公の軍は進めない。ボルファヌ大公が眉を寄せる。 


「いえ、私はこのまま陛下の元に馳せ参じるつもりでしたが……閣下はなぜ、このような軍を連れて王宮への道を進まれるのです?」

「お前は聞いていないのか、あの若造が瀕死なのだぞ。王宮を空ける訳にはいかんだろうが!」


 ボルファヌ大公が叫ぶとバルダークが負けじと叫び返す。


「真に王国を想えば、門外にて魔物を防ぐよう陣を張られるはず! 陛下が危急の折り、このように王宮に乗り込むのは大逆の誹りを免れませんぞ!」


 バルダークがボルファヌ大公の軍を睨みつける。更に彼の兵も一歩も引かない構えだった。

 ボルファヌ大公が歯をぐぐっと噛む。


「貴様……! 我が行軍を邪魔立てするか! どけい!」

「閣下! 王都の外で魔物と戦われるというのであれば、このバルダーク! 喜んで先陣を切り、大群の中で死にましょう!」


 そこでバルダークが剣を抜き放ち、両手で構える。

 すでに彼は分身薬を飲んでいた。


「しかしながらこのまま進むと仰せであれば、命を賭してお止めせねばなりません!」

「……その右腕、貴様もアシュレイに鞍替えしおったか」

「これが最後です、閣下! どうか!」


 ボルファヌ大公が右腕を上げる。彼の近衛が前に出て、戦闘態勢を取った。


「国家存亡の危機に、貴様と問答している時間はない! 構わん、敵はたったの数十人だ! 踏み潰せい!」

「我が兵よ! 閣下はご乱心だ! お止めせよ!」


 互いの兵が抜刀し、前進する。

 こうしてボルファヌ大公とバルダーク侯爵の兵はお互いに切り結ぶことになった。


 激しい剣戟が巻き起こり、通りに魔術が飛び交う。

 通りに面した家が破壊され、市民は逃げ惑った。


「ヴェネトの騎士よ! 一歩も引くな!」


 ボルファヌ大公のほうが兵は多いが、練度と士気はバルダーク隊が上回っている。

 十倍の敵を前にしてもバルダークは引かず、隊が崩れる様子もなかった。


「くそっ! こんなところで足止めされるとは……」


 ボルファヌ大公は前線から下がり、歯噛みする。


 時間をかければバルダークの隊をすり潰し、王宮には迫れる。

 しかしそれまでに兵を失いすぎ、時間をかけすぎれば不確定要素が増す。


 王宮を押さえるには速度がもっとも重要だった。

 こんなところで時間は浪費できない。


「……馬鹿な男め」


 ボルファヌ大公は呟くと懐から魔法薬の瓶を取り出す。

 真紅の液体が満たされたその瓶は、激しく泡立ちながら凶々しい魔力を放っていた。


「新作の誘魔の薬――切り札を用意して正解だったな。これがあれば……!」


 王都を多少破壊することになるが、バルダークの処理のほうが優先だ。


 アシュレイがいなければ、追及はどうとでもなる。

 ここまで来てしまったら、やるしかない。


「ふん、魔物と戦いたいと抜かすなら、戦うがいい……!」


 ボルファヌ大公が誘魔の薬を握りしめ、戦闘が行われている地面へと叩きつける。


「なんだ、これは……!?」


 真紅の液体が即座に煙となり、バルダークの隊を包む。

 煙はすぐに消えたものの、煮詰めた砂糖のように甘い匂いが立ち込めた。


 この誘魔の薬はこれまでの獣系を呼び集めるタイプとは違う。

 昆虫系の魔物を呼び寄せる新作だった。


 どんな魔物が来るかは未知数だが、昆虫系は空を飛ぶものも地中を掘り進むものも多い。

 即座にこの場へ魔物がやってくるだろう。

 大公の予測はすぐに当たった。


「……なんだ!?」


 戦闘中の兵士がざわめき、手を止める。


 王都の大通りがわずかに揺れていた。

 崩れかけた家がさらに壊れ、重苦しい地鳴りが地下より響く。


 同時に地面が隆起する場所もあった。普通の地震ではない。

 何かが地中を叩き、集まってきてくるような……。


「これは……」


 ボルファヌ大公はにやりと笑い、兵に号令する。


「我が兵よ、後ろに下がれい!」


 ボルファヌ大公の兵は戦闘を中断し、後方に集結する。

 息を切らせるバルダーク隊は不自然な揺れに戸惑うばかりだった。

 ただ、その中で魔物戦の達人であるバルダークだけはこの揺れに覚えがあった。


「まさか、このタイミングで……」


 彼方に視線を向けると、遠くの家や王宮は全く揺れていない。

 つまりこの大通り周辺だけ、謎の揺れに襲われているのだ。


「はははっ! バルダーク! お前さえいなけなれば、ヴェネト王国は俺のものだ!」

「――それはどうかな?」

「なにっ!? ……空か!」


 聞き覚えのある声にボルファヌ大公が空を向く。

 そこには赤き竜のロイドに乗ったアシュレイ、ライラ、モーニャがいた。

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
はわわ、後光が差して、ファンファーレが鳴り響くような、めっちゃ盛り上がるシーンではないですか〜! 次話を読んできます!
父王様大丈夫なのかしら。 無理し過ぎてライラちゃん残して… なんて事のないように。 しっかり甘える可愛いライラちゃんが見たいです^_^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ