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波の音と夏の香り
7月14日。
俺たちは約束通り、花火大会の日を迎えた。
「似合ってるよ。」
浴衣姿の柚月を見て、俺はそう言った。
「ほんと? 透真も意外と似合ってる。」
柚月は楽しそうに笑った。
会場に向かう前に、俺たちは海辺に立ち寄ることにした。
まだ日が落ちる前の海は、淡いオレンジ色に染まっていて、波が静かに寄せては返していた。
「ねえ、靴、脱ごうよ。」
柚月がそう言って、浴衣の裾を少し持ち上げながら、砂浜に足を踏み入れた。
「風が気持ちいい……」
俺も靴を脱ぎ、波打ち際に足を運んだ。
「ひゃっ……冷たい!」
柚月は少し驚いたように笑いながら、俺の手を引いた。
「ほら、透真もこっち。」
足元に波が優しく触れる。
砂の感触が心地よく、ただ歩いているだけなのに、心が満たされるようだった。
「こういうの、普通の青春っていうのかな。」
「うーん……どうだろう。でも、今すごく幸せだから、それでいいんじゃない?」
柚月が振り返って微笑んだ。
「そっか……そうだな。」
俺たちはしばらくの間、波と戯れながら、穏やかな時間を過ごした。