命の境界線を越えて
手術から一ヶ月が経った。
奇跡的に俺と柚月の身体は移植を受け入れ、経過も良好だった。拒絶反応のリスクが高いと言われていたが、今のところ大きな問題は起きていない。
「……透真、起きてる?」
夜の病室で柚月が囁いた。
「ん……起きてるよ。」
俺は静かに返事をしながら、天井を見つめる。
「手術が成功したんだよね。」
「ああ。生き延びたな、俺たち。」
柚月は少し笑った。
「なんか、不思議な気分。」
「……そうだな。」
「透真がいなかったら、私はここにいなかったんだろうな。」
俺は言葉に詰まった。何かを言おうとしたが、喉の奥で引っかかる。
「ありがと。」
柚月は静かにそう言った。
俺はただ、黙って彼女の言葉を受け止めた。
退院の日。
俺たちは病院の玄関に立っていた。外の空気は思った以上に冷たく、冬の訪れを感じさせた。
「……戻るんだな。」
「うん、学校に。」
俺たちは、制服を着ている。体力はまだ完全には戻っていないが、先生たちの計らいで、少しずつ学校生活を再開することになった。
「久しぶりすぎて、ちょっと緊張するね。」
柚月はぎこちなく笑いながら、俺の方を見た。
「まあ、今さら学校が怖いわけじゃないだろ。」
「それもそうか。」
そう言いながら、俺たちは病院をあとにした。
学校に到着すると、廊下の視線が俺たちに集中するのが分かった。
「あれ……柚月?」
「え、透真も?」
「マジかよ……二人とも戻ってきたのか?」
俺たちが生きて戻ってきたことに驚いているらしい。
そりゃそうだ。
俺も柚月も、死にかけていたんだから。
「なんか、めっちゃ見られてる……」
柚月が小声で呟いた。
「気にすんな。」
俺たちはそのまま、ゆっくりと教室に向かった。
教室の扉を開ける。
「……」
一瞬の静寂。
次の瞬間、
「柚月! 透真!」
クラスメイトたちが一斉に駆け寄ってきた。
「本当に戻ってきたんだな……!」
「手術が成功したって聞いてたけど、ちゃんと会うのは久しぶりだな。」
「もう大丈夫なの?」
俺たちは次々と質問を浴びせられる。
「まあ、まだ完全じゃないけどな。」
「でも、生きてるよ。」
柚月が笑顔でそう言った。
その言葉に、クラスメイトたちも安心したように笑った。
「これからまた、よろしくな。」
そう言うと、俺たちはようやく席に着いた。
日常が、戻ってきた。
少なくとも、今は——