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呼吸を分けた日  作者:
6/14

命の境界線を越えて

手術から一ヶ月が経った。


奇跡的に俺と柚月の身体は移植を受け入れ、経過も良好だった。拒絶反応のリスクが高いと言われていたが、今のところ大きな問題は起きていない。


「……透真、起きてる?」


夜の病室で柚月が囁いた。


「ん……起きてるよ。」


俺は静かに返事をしながら、天井を見つめる。


「手術が成功したんだよね。」


「ああ。生き延びたな、俺たち。」


柚月は少し笑った。


「なんか、不思議な気分。」


「……そうだな。」


「透真がいなかったら、私はここにいなかったんだろうな。」


俺は言葉に詰まった。何かを言おうとしたが、喉の奥で引っかかる。


「ありがと。」


柚月は静かにそう言った。


俺はただ、黙って彼女の言葉を受け止めた。


退院の日。


俺たちは病院の玄関に立っていた。外の空気は思った以上に冷たく、冬の訪れを感じさせた。


「……戻るんだな。」


「うん、学校に。」


俺たちは、制服を着ている。体力はまだ完全には戻っていないが、先生たちの計らいで、少しずつ学校生活を再開することになった。


「久しぶりすぎて、ちょっと緊張するね。」


柚月はぎこちなく笑いながら、俺の方を見た。


「まあ、今さら学校が怖いわけじゃないだろ。」


「それもそうか。」


そう言いながら、俺たちは病院をあとにした。


学校に到着すると、廊下の視線が俺たちに集中するのが分かった。


「あれ……柚月?」


「え、透真も?」


「マジかよ……二人とも戻ってきたのか?」


俺たちが生きて戻ってきたことに驚いているらしい。


そりゃそうだ。


俺も柚月も、死にかけていたんだから。


「なんか、めっちゃ見られてる……」


柚月が小声で呟いた。


「気にすんな。」


俺たちはそのまま、ゆっくりと教室に向かった。


教室の扉を開ける。


「……」


一瞬の静寂。


次の瞬間、


「柚月! 透真!」


クラスメイトたちが一斉に駆け寄ってきた。


「本当に戻ってきたんだな……!」


「手術が成功したって聞いてたけど、ちゃんと会うのは久しぶりだな。」


「もう大丈夫なの?」


俺たちは次々と質問を浴びせられる。


「まあ、まだ完全じゃないけどな。」


「でも、生きてるよ。」


柚月が笑顔でそう言った。


その言葉に、クラスメイトたちも安心したように笑った。


「これからまた、よろしくな。」


そう言うと、俺たちはようやく席に着いた。


日常が、戻ってきた。


少なくとも、今は——



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