交差する思い
病室の空気が張り詰めたまま、俺たちは怒鳴り合っていた。
「透真!! なんでそこまでして私を助けようとするの!?」
柚月の叫び声が病室に響く。涙で滲んだ瞳が、俺の心を締め付ける。
「だって、お前は……死にたくないだろ!? 助かりたいはずだろ!?」
俺も負けじと怒鳴り返す。声が震えているのは、怒りなのか、焦りなのか、それとも別の感情なのか。
「違う! そんなことじゃない! 私は、私は……!」
柚月が拳を握りしめる。今にも崩れそうなほど震えながら、必死に言葉を紡ごうとしている。
「私を助けるために、透真が犠牲になるなんて嫌なのよ!!」
「犠牲だなんて思ってない!! 俺は……俺は、ただ……お前に生きてほしいんだ!!」
柚月は苦しそうに唇を噛みしめた。
「そんなこと言うけど……! 透真だって、本当は無理してるんじゃないの!? 私より……透真のほうが死を恐れてるんじゃないの!? 私のために、自分を犠牲にしようとして……そんなの、間違ってる!!」
俺は一瞬、息が詰まる。
「俺が死を受け入れてない……? そんなわけ……ない……」
声に、自信がないのが自分でもわかった。
俺の頭には、あの時見たものが焼き付いていた。
柚月のカバンに入っていた闘病日記。肺がんで苦しみながらも、彼女が懸命に生きようとしていた証。
それだけじゃない。病室の引き出しに仕舞っていた、妹の手紙。
『お姉ちゃん、生きてね。お願い、離れないで。星にならないで。』
震える字で綴られたその願い。
柚月の家族は、彼女に生きてほしいと思っている。だから——
「柚月を助けられるなら、それでいいんだよ……」
俺はそう呟く。
「何言ってるの……透真……」
柚月が泣きながら首を横に振る。だが、俺は止まれなかった。
「俺は、お前の病気を知ったとき、何もできなかった。でも……今なら、俺にできることがあるんだ……!」
「違う……違うよ……!! そんなの、私が望んでることじゃない!!」
柚月は叫ぶ。
「だったら、お前はどうしたいんだよ!? ただじっと死を待つのか!? 俺に、お前が死んでいくのを見てろっていうのか!?」
「それでも……透真が自分を犠牲にするのだけは絶対に嫌なの!!」
柚月は力いっぱい叫び、ベッドのシーツを握りしめた。涙が止まらないまま、声を振り絞る。
「私は……私はね……透真が生きてくれるだけでいいの……」
俺の身体が、一瞬硬直する。
「透真が生きてくれるなら……私は、それで……」
柚月は涙でぐしゃぐしゃになりながら、俺の腕を掴んだ。
「お願い……生きて……透真……」
その言葉が、俺の心を深く突き刺した。
俺は、本当に柚月を救おうとしていたのか?
それとも——
俺は、ただ、自分の存在意義を見つけたかっただけなのか?
柚月を助けることで、俺は「生きる理由」を作ろうとしていただけなのか?
「透真……お願いだから……」
柚月が、弱々しく俺の腕を引いた。
俺は、自分の拳を見つめた。
俺は、本当に、正しい選択をしているのか?
「で、でも…俺はもうしn…」
俺はどうせ寿命はもって1年間…移植はされたくない。
俺も本当は大腸ガンで余命宣告あと3年と言われ、それからもうすぐ2年経つ。
他の所には転移していないから、まだ彼女に移植させる可能性はある。
だから、命のバトンを彼女に…
「透真…[し]って何よ!もしかして死ぬって…」
「私のせいで…ごめん。ごめん。ごめ……。」
俺が言いかけてしまったから、柚月に勘違いを…
「あの…柚っ…」
柚月がいねぇ…まずい行かねぇと…
俺は点滴の針を抜き、ベッドを飛び起き、走った。
「うぐぁっ…体のどこもかもいてぇ…でも、」
病院の案内を見て、屋上に向かった。
屋上につながるドアからは少し風が漏れている。
ドアを開けるとあまりの夕日の眩しさに腕で光を遮り、屋上に出て、周りを見渡した。
すると、黒い影と下には靴と何かがある。
「柚月っ!…」