永遠に終わらない最後の一日
その日は、まるで通常の一日の続きのようだった。
陽が明るくて、風が気持ち良くて、ベンチに座り、次はどこに行こうかと話していた時、染み出すように病いが薄い空気を連れてきた。
その日の夜、帰宅後に椅子に座り諸事ないものを食べながら笑い合っていたはずなのに、通話が引き続かないまま、夢の続きみたいに、あの時は、私達は床に入った。
「この夏、ここまでいろんなことできたね」
「まだ終わってないよ。もっと体力付けて、私達らしく続けよう」
そんな何気ない交わせが最後の話になるとは、思いもよらなかった。
夜中、つらそうな泣き声で目を覚ました。
「はあ、はあっ、ぅぅっ...」
彼女がむせ込むように泣いていた。
病院でない、だからこそのごまかしがきかない。
味も香りもない空気の中で、ただただ背中をさすった。
「夢見てた」
「死んでたの。私」
その言葉に、どこか心裏で「それはきっとこの光景の先の未来のことだ」と思った。
朝になった。買い出しに出る振りをして、ひとりで病院へ向かった。
医師の部屋で、相変わらず真面目な顔の先生は言った。
「辛い話をします。ドナーによる移植は他の手札もない。しかし、成功率はほんのわずで、最悪の結末も考えていただくしかない」
「それでも、やります」
「本気なんですね。この辛さを、そこまで乗り越えられると思ってるんですか」
ここで、どうしても頭をよぎったのが、昔の一言。
「その人になら、私の味方してほしかった」
「当たり前でしょ、不公平なんかじゃない。命なんだから」
「それを不公平にしているのは自分なんです。また、私、脆さを見せちゃいけない主人公になっちゃってる…」
そのまま、遠い陰を引きずって家返りした。
買い物袋を振るように持って、笑顔で「ただいま」と言ったけど、心のどこかで、漂いた不安が香り立っていた。
「あれ、道路で出会った犬と写真撮ったの」
「おっきく印刷しとこっか」
そんな何気ない事を笑って話せるまでには、どれほどの痛みを呈けても足りない。
かけがえのない味方を止められるのなら、死ぬことさえ、思考の範囲に入っているのだと…自分で自分の思考が思えるに自分自身が怖かった。




