儚き夏の灯
夜空に大輪の花が咲き誇る。鮮やかな光が散り、そして消えていく。その瞬間を逃さぬように、柚月と俺は肩を並べて見つめていた。
「きれい……」
浴衣姿の柚月が、ぽつりと呟いた。
「うん……」
俺はただ、その横顔を見つめる。
祭りの喧騒が徐々に落ち着き、行き交う人々が少しずつ姿を消していく。海辺へと続く道を歩きながら、俺たちは射的屋の前で足を止めた。
「透真、やってみてよ。」
「俺が?」
「うん。せっかくだし。」
俺は渡された銃を構え、的を狙う。引き金を引くと、弾が一直線に飛び、見事に景品を打ち落とした。
「すごい……!」
柚月が目を輝かせながら、俺の手の中の景品を見る。それは、線香花火のセットだった。
「最後の花火に、ちょうどいいな。」
そう言って、俺たちは人のいなくなった海辺へと向かった。
波が静かに打ち寄せる浜辺で、俺たちは素足になり、砂の感触を確かめながら歩いた。
「こうやって裸足で歩くの、気持ちいいね。」
「そうだな。なんか、全部洗い流してくれるみたいだ。」
俺はそう呟きながら、遠くに見える打ち上げ花火の余韻を眺めた。
やがて、俺たちは小さな焚き火を囲み、手に持った線香花火に火を灯す。
火の玉がじわじわと大きくなり、やがて落ちるその瞬間まで、俺たちはじっと見つめ続けた。
「あ……終わった。」
柚月のかすれた声が響く。
俺は線香花火の消えた跡を見つめながら、心の中で呟いた。
『そう。僕らの青春という名の人生は、まるで線香花火みたいだ。最後の最後まで粘り続け、もがきながら光を放つ。でも、どんなに願っても、どんなに抗っても、火の玉は静かに落ちてしまう。他の人たちは、もっと命に貪欲で、しぶとく、しがみつくように生きているのに——俺たちは、こうして早く朽ちていく。』
静寂が訪れる。
柚月がそっと俺の手を握った。
「……透真、ありがとう。」
俺は何も言わず、ただ強く、その手を握り返した。
夏の夜風が、儚くも確かに、俺たちの肌を撫でていった。




