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大河ドラマと梅里様  作者: 今西薫
9/50

8 兼家が倒れ、まひろ道兼の前で琵琶を弾く、盗賊の正体

ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。

私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。

第八回 招かれざる客


 ドアを開けると、梅里ばいり様は、腕組をして真っ暗なテレビの画面を睨んでいた。

「どうしたんですか?」

「盛沢山過ぎて、どこから話したら良いのかが…」

 真剣な顔で悩むことだろうか。

「ん? 今日はカップケーキか?」

「なんか春っぽいイメージがあるので。三月に入ったから良いかなと」

 可愛らしくアイシングをかけて、ピンクのチョコを削ってかけてみたのがさらに春っぽい。飲み物はココアにしてみた。ココアというか、ホットチョコレート。

「ふーん? でも、ピンクのチョコが可愛らしいな」

 カップケーキとホットチョコレートを梅里様の前に置き、自分の分をトレイからテーブルに移すと、ソファに座った。ここ最近の定位置だ。

「ホットチョコか」

 声がわくわくしてますよ、梅里様。心の中で呟くと、そっと口に含んで、満足げにほほ笑む。

「美味いな」

 ちなみに、私の分は普通のココアだ。ホットチョコレートはちょっと濃すぎます。

「うん。決めた」

 ホットチョコを飲み干して、梅里様はそう言った。

「まず、花山(かざん)帝はすっかりやる気を無くしていて、義懐(よしちか)が政を行っている。兼家(かねいえ)は、帝といえど間違ったことを行うこともある、そういう場合は回りが諫めなければならないと立ち上がり、倒れた」

「え」

 兼家が倒れた。それは、オオゴトでは。

「右大臣家に運び込まれ寝かされ、兄弟三人と詮子(あきこ)も集まった。そこへ清明がやってくる。兼家が寝かされている部屋に入るとすぐ瘴気がひどいと言ったな。その後、枕元では僧による読経、庭では清明が真言を唱えていた。一緒にきていた巫女が、『返せ』と、道長に馬乗りになり、首をしめたところで、清明が指をならすと、巫女の動きがとまった」

「それは、忯子(よしこ)の霊ということですか?」

「おそらくな」

「そもそも、その巫女は本物なんですか? まひろのときはインチキっぽかったですよね?」

「それは分からん。とりあえず見た目だけなら、まひろの時とは比べ物にならないくらい本物っぽく見えたぞ」

「超常的なものをアリとするのかそうでないのか…」

「まだ微妙な部分だからなぁ。まあそんなわけで、忯子の胎の子を流すよう呪詛した結果、忯子もろとも死んでしまったことを兄弟で共有したんだ」

「ええと、呪詛の話を知っていたのは」

「道隆と道兼(みちかね)だな。…それで、恐いのはここからなんだが、兼家がたまに目を開けるんだ」

「え、それって、意識が回復してるってこと…」

「おそらく。兄弟と詮子が一人一人枕元で話しかけたりするんだが、まず道兼の時に目を開ける。次は、一人で眠っている時に目を開ける」

「恐い…」

「そうなんだ。それを踏まえてさらに恐いのが、道兼が為時(ためとき)に近づくんだ」

 梅里様は小さく息を吐く。分かります。為時からしたら、付き合いたくない相手のはずですもん。

「道兼は、書庫で仕事をしている為時に近づき世間話から始めるんだ。そして、上の物をを取ろうとしたとき、袖から腕が出て、痣が見える」

「痣?」

「兼家はたまに意識が回復することがあり、その時に殴られることがある、と言う。子供の頃から自分だけそういう扱いだったとも」

 兼家、そういう人だっけ?

「もし、兼家の指示で道兼が動いたのだとしたら、痣は自分でつけたのだろうが、まあ、為時の同情を買うためだろうな。実際、為時は素直に信じて、花山帝にそれを告げ、道兼は帝に気に入られる」

「あ、花山帝は、右大臣のことは嫌いなんでしたっけ」

「そう。右大臣が寝込んでいるのは、忯子の霊が成仏できていないからだと、清明からも告げられているしな」

「え、でも、右大臣の意識が回復しているのなら、清明は力はニセモノ……?」

「それもあるんだ。今までの描き方からすると、ここでそういう部分を見せるのか、という問題がある」

「な、なるほど」

 ドラマ好きな人たちの観方はなかなか独特ですね。

「道兼は、為時の家にまで酒を持って押しかける」

「……それ、ダメなやつじゃないですか?」

 まひろと出会ったら。

「そう、為時は、まひろと出会わないよう下人に告げようとしたところで、まひろが帰ってくる」

「わあ……」

「まひろは挨拶だけをして部屋に引っ込む。じっと考えて、琵琶を持って道兼の前に出る。一曲演奏が終わると、道兼が演奏に感動して話しかける。問われるままに母に習い、母は病死したと告げる」

「ああ……」

 よく言わなかった。よく我慢した。

「道兼が帰ったあと、まひろは為時に言うんだ。憎しみはまだあるけど、もう道兼に振り回されたくないと」

 激しく頷く。そうだよ、エライよ、まひろ!

「だからもし、兼家が道兼に指示をしたのだとしたら、為時に近寄るように言ったかどうかというのが、気になるところなんだ」

「あ、痣を見せた時に言った、たまに意識を取り戻す時があるっていう、そっちかもしれないと」

「うん。兼家は、道兼が殺したのが為時の妻だったと知っていると思うんだ」

「知っていて、道兼に為時に近づくように言うわけはない、と梅里様は思ってるんですね?」

 梅里様はひとつうなずく。

「さすがのお人よし為時でも、自分の妻を殺した人間とは近づきたくないと普通は思うだろう」

「兼家はそう考えそうですよね」

「道兼の考えで為時に近づいた可能性もあるから、兼家意識回復説は保留なんだがな」

「でも、結局帝に紹介しちゃうんですね?」

 同情してしまったということか。

「薬湯を道兼が運んでくる。右大臣の息子ということで毛嫌いする態度を帝は隠さない。それを見て、あんまりだと思った為時は、右大臣からは邪険にされてるようだと告げるんだ」

「さすがのお人よし為時!」

「そうなんだよ…」



「そういえば、直秀(なおひで)の正体はバレたんですか?」

「最後の最後でバレたな。そこで待て次回、だ」

「わ」

 自分で質問したとはいえ、失敗した…

「最初に、打毬(だきゅう)の慰労会みたいなのを開いていてな。えふ(ふぉー)と直秀が右大臣家に集まってるんだ。ちゃんと貴族の衣装を借りてな」

「大胆ですねえ」

「その時に、道長が腕の傷について探りを入れる。もしかしたら牽制したのかもしれん。直秀は枝が刺さったとごまかす。その後、右大臣家に入り、捉えられ、マスクを剝がれる。その少し前に、まひろにはそろそろ京から出ようと思うと話していたから、最後の仕事というつもりだったのだろう」

「道長は、辛かったでしょうね」

「捕まりさえしなければ、多少の物が盗まれても良いと思ってたかもしれん」



「あとは、そうだな。兼家が倒れる前、左大臣に彼の一の姫の婿に道長はどうかと打診していたな」

「左大臣の一の姫……って倫子(ともこ)ですか?」

「どうにかして繋がりを持ちたいらしい。が、左大臣は兼家のことが嫌いなんだろうな。妻にその話をするんだが、乗り気ではない。そこへ倫子が猫を追いかけて乱入。道長のことを聞いて、退場したあと一人で『道長さま』なんて呟いたりする」

「………あ、打毬で見たんだ」

「おそらくな。道長はまひろのことしか見てないから、倫子の視線などには気づいてなかっただろうが」

 ああそれはとてもあり得る。きっとまひろも道長のことが気になっていただろう。

「……あれ? 今回は、まひろと道長は会ってないのですか?」

「会ってないんだ。今まで毎回毎回、直接会って話をしているのに、五節の舞姫の後でも会っているのに、会えていない。まあ、道長からの手紙を焼いたのだから、まひろのほうはもう会わないつもりかもしれないが。…だが、二人は同じ時間に月を見上げるんだ」

「ロマンチックですね」

「そうなんだ。だが、二人が世間に知られる形で夫婦になることはないのは確実だから、何を応援したらいいのか迷うんだ」

「……梅里様、応援してるんですか」

「応援してるぞ」

 もう何百年も生きているはずなのに、フィクションに振り回されるというのはどうなんだろう。

「面白い創作は良い物だ」

「似たような話が過去にあったりしないんですか?」

 見飽きたり、昔の物のほうが面白く思えたりしないのだろうか。

「切り口は変わってくるし、役者も変わっている。映像の技術も以前とはまったく違う。どこかで見たような話しでも、先が読めても、面白い時は面白いな」

 しみじみとそんなふうに言う。

「『水戸黄門』という時代劇があってな」

「? はい。知ってます」

「あれは三パターンしかなかったらしい。仇討ちものと、そっくりさんと、あとは何だったかな? まあ、そのパターンを組み合わせたり、展開を少し変えたりして、作っていたんだ。だが、視聴者は飽きなかった。ワンパターンだからこそ面白いと思ったというのもあるが、面白さというのは、目新しいストーリーやアイデアというものではないのだろうと、吾は思っているんだ」

「そうなのですか?」

 面白さというのは正直分からない。ある作品を面白いと思うことはあっても、ほかの人が同じように面白いと感じるわけではないことは分かっている。『水戸黄門』は確か何十年と放映されていた番組で、多くの人に受け入れられていたからこそ長い年月続けられたのだろう。それはつまり、多くの人が面白いと思ったということ。

「うん。目新しいストーリーも、アイデアも大切だが、それだけではダメだということだな」

 それはなんとなく分かる。漫画をアニメ化したとき、同じストーリーなのにまったく面白くないことがある。多分、面白さというのはストーリーだけの問題ではないのだ。漫画とアニメでは表現方法が違うから、比べて良いものでもないのだろうけど。

 梅里様が手を伸ばしてカップケーキを手に取った。どうやら今日のところはここまでのようだ。カップの紙をはがして、パクリと口に入れる。いっきに半分ほどなくなった。もぐもぐと口を動かしているが、口もとには笑みがある。気に入ってもらえたようだ。

「美味いな。これは、おかわりはあるのか?」

「ありますよ。今度はチョコ生地のを持ってきますね」

 言って立ち上がると、梅里様は瞳を輝かせた。


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