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大河ドラマと梅里様  作者: 今西薫
4/50

3 倫子サロン。三人の三郎とほど良い毒の効果

ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。

私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。

第三話 謎の男


 時計を観て、ドラマが終わったのを見計らってリビングのドアを開ける。

 今日は柚子ピールのチョコ掛けだ。なんとなく紅茶を選んだ。

「ふふふふふ」

 待ち構えていたとばかりに私の顔を見て笑い出した。

「今日も面白かったんですね、良かったですね?」

 何故初回放送の時に話そうとしないのかが不思議でならないが、どうもそう決めているらしいので仕方ない。そして、話したくて仕方ないらしい。

「今日はだな、倫子(ともこ)がなかなか恐かったぞ」

 登場人物が恐いのが何が楽しいというのだろう……。

「はいはい。その倫子さんってどんな人なんですか?」

 確か前回までは聞かない名前だったはずだ。

「源雅信(まさのぶ)の娘だな。源雅信は左大臣だ。大層美しいと評判の姫で、(エフ)4(フォー)たちの噂話でも出てきた。F4ってのは、道長の友人というか同僚たちだな。みな藤原姓だから、F」

「そんな呼び名を付けちゃったんですか」

われではないぞ。SNSだぞ」

 梅里ばいり様は、スマホを印籠のようにかざして見せた。画面は消えたままだけど。

「ちなみに、この物語では、第三話の時点で道長は十八歳、公任(きんとう)も同じ。斉信(ただのぶ)が十七歳、行成(ゆきなり)が十二歳だな。……まひろは、十四歳か」

「……で、その倫子さんがどうしたんですか?」

「そうだ、倫子だ。まひろが、倫子のサロンに参加することになったのだ」

 興奮してソファの上に膝立ちになる梅里様の前に、柚子ピールを載せた皿と、紅茶を置く。ここ三週間ほどの定位置となった場所に腰を下ろし、自分の分の紅茶を手に取った。

「……サロン、って何ですか?」

 平安時代にサロン、とは。

「同世代の姫君たちの集まりだな。左大臣家の倫子の家に集まって、倫子を中心に勉強をしたり話をしたりする。教育係は赤染衛門(あかぞめえもん)でな」

「誰です?そのあかぞめなんちゃらって」

「吾も良くは知らんが、頭の良い女らしいぞ」

「……」

「まあそれでだ。まひろが参加するんだ」

「あのう、なんでまひろが参加したんですか? 左大臣家と繋がりがあったんですか?」

「父の為時(ためとき)が左大臣源雅信の妻と遠い親戚なのだそうだ」

「繋がりがあったんですね……。ってことは、為時がその細い繋がりを使ってまひろを送り込んだ、と」

 ふと気づくと、梅里様がにやにやしながらこちらを見ていた。

「やけに乗り気だな。そうか、面白いか。録画してあるから観てもいいぞ」

「う……。考えときます」

 少し心が揺さぶられているが、ちょっと悔しいのでそう答えておく。それよりも、理由だ。

「で、何があって左大臣家に乗り込んだんですか」

「右大臣が、左大臣が娘を入内させるつもりじゃないかと心配してな。東宮から何か聞いてないかと為時に訊いても、聞いてないと答えるばかり。そこで、まひろをサロンに参加させることにしたのだ」

「……まひろは知ってるんですか?」

「何も言わずに参加しろと言ってるんだな、為時は。丁度外出禁止にしていたところだから、外出させてやろう、といったところだ。……あとは、まひろは賢いから、身分を乗り越える才があるだろうと、持ち上げてもいたな」

 さすがに、何も知らずに望みの情報を引き出すのは難しいのでは、と思ってしまう。

「帰宅してすぐに、入内の話とか出たか?と聞いて、すぐに目論見がバレたがな」

「為時って、すごく良い人なんですね……」

「そうなんだよ。それがヤツの良いところであり、悪いところなんだな」

「で、それで倫子の何が恐いんですか?」

「うん。偏(へん)つぎという遊びをするんだよ。倫子もサロンの他の姫の三人も、苦手だって言うんだけど、まひろはその遊びがよく分からない。やったことがないんだな。でも、説明をされると、偏の札と旁(つくり)の札を合わせて一つの感じを作るというのは分かる。分かるだけでなく、まひろは、漢字が得意なんだ。なにせ、漢文が得意だからな」

「………まさか」

「そう、まさかだ。まひろは他の者のことはまったく考えずに、全部取ってしまう」

「あー」

 おそらく、まひろより位の高い姫君たちの集まりにいきなり参加して、いきなり全勝優勝。閉じられた女だけの空間でそんなことをしたらどうなるかなんて、想像に難くない。世間知らずとかまだ小さいとか

関係ないのだ。

「微妙な空気になった時、倫子が言うんだ。『すごーい、まひろさんは漢字がお得意なのね』。ものすごい天然ボケっぽい言い方で」

「………それは、嫌味的な……?」

「まひろにとってはな。でも、おそらく通じてはいない。他の姫君たちはそれを聞いて倫子に賛同するように笑う。それで、その場の空気が和むんだ」

「その、倫子さんて、なかなかの」

「な? 恐いだろう?」

 私はこくこくと何度もうなずいた。




「で。道長はどうなったんですか?」

 前回の引きから考えると、気になっていたのはそこだ。右大臣家の三男なのだから、そんな酷い目には合わないだろうけど、どうなったのか、どうおさめたのかは気になる。

「うん、役人たちに連れて行かれるんだが、すぐに従者が右大臣家に報せて、解き放たれる」

「ということは、その場で、自分が産暖人の息子とは言わなかったのですね」

「まだ、まひろには伝えたくなかったようだな」

「まひろは、心配したでしょうね」

 自分のせいで役人に捉えられる。どんなにか心配しただろう。

「ところが、だ。その晩、まひろの家に、ぶつかった男が現れて、無事だと報せるんだ」

「ぶつかった男? 現れる…?」

「ぶつかった男だと分かるのは視聴者のみだがな。屋根の上に座って、フクロウの鳴きまねをして、出てきたまひろに、無事だと告げる」

 思わず顔をしかめる。

「もちろん、まひろは簡単には信じない」

「ですよね」

 どこの誰とも分からない人物がやってきていきなり無事だと告げられても、信じられるわけがない。ましてや、役人に連れていかれたのだ。

「で、まひろは似顔絵を描いて、弟の惟規(のぶのり)に渡して、三郎と言う名前の人を捜して、と言う」

「まひろって、似顔絵得意なんですか?」

 梅里様はにやりと笑う。

「いいや。弟も、こんなんで見つかるわけがない、と言ってやればいいのに、素直に探すんだ。しかも、途中で本人たちにも聞いている」

「本人たち……」

「馬に乗っている道長とその従者だな。従者のほうに聞いて、知らないと言われている」

「すごく分かり易いですねー」

 言ってからふと気づいた。

「まひろ本人が探さないのかって思ったけど、そういえば、外出禁止令が出てるんでしたっけ」

「そうだな。もともとまひろの代筆のバイトを良く思ってなかった乳母が為時に告げたんだ。下級貴族とはいえ、外聞の良いことではないからな」

 梅里様は、どうやら口が乾いてきたらしく、冷めた紅茶をひと口含む。

「で、話を戻すと、弟は三人の三郎を探し出してきた」

 戻すってそこなんだ。道長じゃないんだ…

「それを御簾ごしに確認した。あれだけ素顔のまま外出してたのに」

「ああ、顔を覚えられないように、ですかね」

「外に出たら分からんとか、絶対に違うと思うんだが」

「梅里様の気持ちは分からないではないです」



「ところで、兼家(かねいえ)が道兼(みちかね)に命令した帝に毒を盛れっていうのはどうなったんです?」

 ふと思い出した。第二回からどれくらいの時が経ったのかは分からないけど、何か動いているのではないか。

「うまく、体調不良になって、不安になっていたな」

「?」

「毒、って、毒殺ではなく?」

「帝相手には、さすがにそこまで大それたことはしないようだな。兼家も、ちょっと体調不良になって退位を考えるようになって欲しい感じだな」

「それを、道兼も上手に実行した、と」

 うん、と梅里様はうなずく。

「だがここで、実資(さねすけ)が、おかしい、と言い出すんだ」

「さねすけ……平安貴族にぴったりはまった人、でしたっけ」

「あと、日記も記している」

 日記を書いてる人はいっぱいいると思います。梅里様。

「彼は優秀な文官なんだが、病気にしてはおかしい、毒でも盛られたのではと言い出すんだ。それも道兼の横で」

「おお」

「道兼は、実資の鋭さに驚きながらも平生を装うんだな。父親の力で官職を得ているのだろうが、ちゃんと働ける人間だったのだと感心したな」

「なんか、的外れな部分で感心してませんか?」

「いや、でもな? 兼家が道兼に毒を盛るよう指示したとき、不安に思わなかったか? こいつにできるのか?って」

「思いましたけど」

「だろう? 本当に、大きなボロを出さずにやるんだよ。ちゃんと優秀なんだな。もったいない」

 ああそれは確かに。乱暴者ではあるけど、優秀な息子を、汚れ仕事役向きとする父親。ひどく哀しい話ではある。

「あと、この毒を盛る件が、『呪詛』だというのも面白い話ではあったな」

「?」

 毒は毒では?という私の疑問に、梅里様はうなずく。

「『呪詛』というと、呪術的なもの……呪いとか超常現象的なものだと理解し勝ちだが、実際は違うのだと……違うな、そういう危険な『クスリ』を使うことも含めての『呪詛』なんだな」

「つまり」

 私は考えながら、言葉を発する。

「体調不良の原因は分からないから、誰かに呪詛された、と」

「まあ、病気も、読経でなんとかしようという時代だけどな」

 平安時代で陰陽師が出てきて『呪詛』という言葉が出てきたら、もっと非現実的な部分を出してくるのだと思っていた。けれど、あの時代はあの時代で、科学的な側面があったのかもしれない。

「脚本家の見解なのか、ドラマ制作側の見解なのかは分からないけど、そこは面白いなと思うんだよ」

 梅里様は満足そうに笑うと、柚子ピールを齧って、「美味いな」と言った。

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