24 大赦により隆家が戻ってきて、道長は真相に気づく。まひろは脅されても動じない。中宮は職御曹司に
ドラマのネタバレをしてますので、お嫌なかたは回れ右を。
私見がかなり入ってますので、それも嫌な方は回れ右を。
第二十四回 忘れえぬ人
飲み物は私的には紅茶一択なのだけど。これにはコーヒーも合うような気がする。
腰に手をあて、カットする前のウィークエンドシトロンを見下ろす。パウンドケーキの中にレモンのジャムが入り、酸味の効いたアイシングがかかっている。うーーーん。ミルクティにしようかな…。
ちょっと自棄気味にそう結論付けて、茶葉をティーポットに入れてお湯を注ぐ。蒸らし時間を使ってミルクを少し温める。カップに温めたミルクを少し注いで、蒸らし終わった紅茶を注ぐ。イギリスでは紅茶を入れた後にミルクを入れるか、それとも今回のようにミルクを先に入れておいて紅茶を注ぐのか論争があるとかないとか。あんまり違いがあるようにも思えないのだけど、こっちのほうがよく混ざるので、私は先入れ派なのだ。
ドアをノックして返事を待つ。時間的にはもう終わっているので返事を待たずに開けても問題ないけれど一応。
「もう良いぞー」
軽い返事が返ってくる。
「今日はウィークエンドシトロンですよー」
梅里様は軽く首を傾けた。見た目の年齢通りに見える瞬間だ。
「ゆずのパウンドケーキと同じだな」
「柚子がレモンになっただけですよ。もともとウィークエンドシトロンってケーキがあるんです。ゆずパウンドのほうが真似っ子バージョンですねー」
説明しながらお皿とカップを梅里様の前に置く。
「ふぅん」
もう心は目の前のケーキに囚われているらしい。端をフォークでカットして口に運ぶ。
「柚子よりさわやかな感じだな」
「レモンのほうがスッキリした感じになりますよね」
プロのパティシエなら多少配合を変えるのだろうが、私はプロではないので、生地に入れ込むジャムとアイシングの粉砂糖を溶く果汁を変えただけだ。それでも十分美味しい。
「ミルクティなんだな?」
「お好みでお砂糖をどうぞ」
梅里様は少しだけ味見をしてからお砂糖を入れることにしたらしい。
「今回は、まひろと宣孝(のぶたか)とのことと、伊周(これちか)と隆家(たかいえ)が大赦で都に戻ってくることになったこと、帝が定子を内裏に呼び戻したこと、だな」
用意しておいた角砂糖を一つ入れて混ぜながら話し始める。
「そういえば、前回は、プロポーズしたところで終わったんですよね」
「うん。その続きからだ。案の定そんなことにまったく気づいてなかったまひろは、冗談だと思うのだが、宣孝は、ありのままのおまえをまるごと引き受けるだの、自分が思う自分だけが自分ではないだの、忘れえぬ人がいても良いだな言って帰っていったものだから、さすがのまひろも本気だと理解できたようだ」
「そこまで言われて冗談だと受け取られたら、問題です」
「そうだな」
梅里様は小さく笑う。
「おそらくまひろが宣孝の思いに気づかなかったのは、はやり為時(ためとき)の友人だという部分だろう。父親と同じような年齢の男が自分に思いを寄せているだの考えもしなかった、ということだ。周明(ジョウメン)がまひろ経由で左大臣を動かそうと迫るのだが、こちらはしっかりと意図を理解していたからな」
「周明が急ぎ過ぎたんじゃないですか?」
「かもしれんな。急に、まひろと一緒に宋へ戻りたいだのその為に左大臣に手紙を書いてくれだの言い出せば、怪しむのも仕方なかろう。まひろはストレートに、私のことを好いてはいない、と言うと周明は手近にあった壺を割ってその破片をまひろの喉元に突き付けて手紙を書かせようとする。書かないならまひろを殺して自分も死ぬ、と言う。それが間違いだった」
なかなか恐いことするな周明。だが。
「まひろは、母を目の前で殺されてますもんね」
「一見少し風変りな貴族のお姫様だが、経験が違う。気安く死ぬなんて言うなと言い、目の前で母が殺されたこと、友人が死んだことを言う。周明自身も捨てられて助けられたのだろう、と。周明はそこでこの方法はダメと気づき、宋はおまえが思っているような国ではない、と言って去っていく」
「周明はきっと、普通に恐がるお姫さまだと思ってたんでしょうね…」
「そうだな。その後、為時が戻ってきて朱と言葉を交わす。通詞はまひろだ。周明は先に帰ったと伝えられる」
「まひろ、通詞ができるくらいにはなってたんですか!」
「だいたい一度聞けば覚えたらしいぞ。中国語は同じ言葉でも文脈でアクセントの位置が変わるらしいから、完璧ではないだろうがな」
本当に頭がよかったんだなあ…。
「だが実際は、周明はまだ松原客館にいた。まひろを懐柔しようとしてできないことを悟ったのだろう。朱と会話する場面があってな。そこを見る限り、周明自身もまひろへの気持ちはあったようだな」
「それは、切ないですね…」
実際は気持ちがあったのに、自分のことを好きではないと言われ、脅して言うことをきかせようとして覚悟を見せられ。……ああ、だから、姿を消したのか。
「伊周と隆家の大赦の件は、詮子(あきこ)が、伊周が枕元に立っていたと言い、寝込んでしまう。それをうけ、帝が大赦を行うことにしたんだ。この時に帝に言われる。二人を都から追放したことを今は悔いているということ。道長に止めて欲しかったということ。後々聞いたら、矢は花山院の命を狙ったものではなかったということ。そして、道長はそれを知っていたのかと問う」
「え……?」
「道長はそこで気づくんだ。斉信(ただのぶ)に嵌められたかもしれない、と」
「え……!」
視聴者は。厳密には私は視聴者ではないけど、視聴者はもちろん知っている。隆家が伊周が止めるのに弓を放ったことを。けれど、道長は斉信に伝えられた。
「明子の膝枕で、人はそこまでして上を目指すのかと言っていてな……」
梅里様、妙に遠い目で語るのは何故ですか…
「ああ、いや。放送開始時の道長は暢気な少年で、本役になってからも暢気な青年で。史実の道長とはずいぶんと違うらしいとSNSでは言われていたんだ。一つ一つ、道長の心をえぐるような出来事が積み重なり、少しずつ対処できるよう心構えが変わっていく。一昨年の『鎌倉殿』の義時(よしとき)と重なってな…」
「……あれも、しっかりハマってましたもんね…」
「うん、毎週心をえぐられたが、実に楽しかった」
意味が分からない。
「まあ、道長はそんな感じで自分の甘さに気づいたのだが、さらに追い込まれる。帝が詮子を見舞って、定子の娘を内親王とすること、定子を内裏に戻すことを宣言する。最初で最後の我儘だと言う。詮子は帝の様子を見て、許可を出す。頭をかかえた道長に行成(ゆきなり)が職御曹司(しきみのぞうし)ではと提案する」
シキミノゾウシ?
「うん、吾もよく知らぬのだが、内裏に隣接してはいるが、帝はいちいち輿に乗らねばならぬらしい。あと、中宮にまったく関係の無い場所ではないらしいぞ」
詭弁だ!と叫ぶ人がいそうではある。
「帝は納得し、その日のうちに定子の元を訪れる。問題は、この後だ。帝は、政務もなおざりにして連日通うようになる」
「それは、定子の立場が悪くなるのでは…」
「なるだろうな…。実際、実資(さねすけ)は批判的だ」
うーん…。
「さて、為時が視察から戻ってきて、まひろに宣孝にプロポーズされたことを告げられる。驚きすぎてぎっくり腰になったのは可哀相だが、まひろが言うんだ。宣孝相手になら、道長に対して抱いていた感情と同じような感情は持たないんじゃないか、子供も産んでみたい、と」
「道長に対して抱いていた感情……嫉妬、ですね」
妾はいやだと伝えたのはまひろだ。
「為時も、不承知とまでは言わないと言い、話はそこで終わる。あとは都から文がきて、宋人たちへの対処について指示がくる」
「あ、一安心ですね!」
私がそう言うと、梅里様は神妙な顔で首を横に振った。
「時をかせげ、とのことだ」
「…………」
それは、実質、良いプランが無いということだよねえ…
「ダメじゃないですか」
「ダメだが、仕方なかったのであろうなあ」
梅里様はそれでも情けなさそうな感じでため息をつく。
「朱の意図について都へ書状を送るとそれを持って道長は帝に相談をする。帝は定子のことで頭がいっぱいで、交易を始めればいいじゃないかとまで言う。何が問題か分ってないんだな。道長が、越前と都は近いので攻め込まれる危険があると告げてようやく表情を改める。だが案はない。道長の思うようにせよ、と告げる」
「……本当に、定子のことで頭がいっぱいなんですね…」
「うん。交易品の中からいくつか定子にプレゼントする宋の品を差し出させるように言っていたしな…」
「ダメじゃないですか」
「うん、多分ダメな方向だと思うぞ」
「じゃあ、ケーキのお代わりを持ってきますね」
話が一段落ついたところで立ち上がる。自分の分も持って来よう。ウィークエンドシトロンの酸味は後を引いてとても好きだ。
「うん!」
梅里様の返事がお子様だ…。
苦笑しながらもはずんだ気持ちで台所へ移動するのであった。




