メロンパンと、こんなつもりじゃなかった世界。
早く大人に成りたかった
大人に成って自分で稼いだお金で
好きなモノを沢山買って生きるんだ
会社でも沢山評価されて
テキパキテキパキ仕事をこなす
上司に成って
いつしか部下も出来て
みんなから愛され
大事な部下たちを
権力を以って守るんだ
カッコいいスーツだって着こなして
良い時計やカバンを装備して
「行ってきます!」
って言うんだぞ
……言うんだぞ、私
気が付いたら大人に成っちゃってた
くたびれたスーツに履き疲れた靴
1000円の腕時計を装備して
「時間がない!」
電車を待ちながら
コンビニのメロンパンを齧る
目の下のクマをこすって
今日のノルマを計算中
……話が違うじゃないか、ねぇ!
こんなはずじゃなかった世界
くしゃっと捨てるメロンパンの包装に
何が書かれていたかなんて覚えていない
甘かった、ただそれだけのこと
たまに泣きたくなる
泣いたって心配してくれる人はもう居ない
休日前夜は独りで晩酌して
それで終わり
こんなつもりじゃなかった世界
過去に勉強していれば良かった
過去に就活していれば良かった
過去に過去に過去に……
後悔ばかりの人生
ふと
電車を待つ間に時間が出来た
いつものメロンパンが売っていなかったから
空を、見た
澄み渡って綺麗だった
今なら鳥に成れる気がする
空の声に誘われるように
くたびれた足が黄色の線を越えようとした時
「危ない!」と声がした
ガタンゴトン……
通り過ぎた電車の空気を全身に浴びて
寒気と吐き気が同時に襲う
それがあなたとの
最初の出逢いでしたね
こんなつもりじゃなかった世界
「行ってきます!」の声に
あなたは微笑んで
「行ってらっしゃい!」と返してくれる
いつものメロンパンが売っている
気まぐれに包装を見てみた
「毎日お疲れなアナタに!」なんて
エナジードリンクみたいな吹き出し一つ
クスッと微笑んだ私を
誰も認知しない
きっとこのメロンパンの包装の様に
量産型の私が居て
この世界を回している
それで良いんだと思えたのは
孤独じゃないことを伝えてくれる
あなたがいたからだ
甘い、甘いメロンパンを齧って
今日も世界を少しだけ回します
私を救ってくれたあなたのため
あぁ
こんなつもりじゃなかった世界
案外悪くない世界
あなたの居る世界
お疲れ様です。