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眼鏡の初恋はまだ終わらない

「変態って……」


 初恋の相手に変態だと思われているなんて、わたしはショックで目の前が真っ暗になりそうだった。だけどよく考えたら仕方ないよね……確かに上半身裸で汗を拭っているところを覗き見したり、トラックのミラーに干してある汗の染み込んだ肌着の匂いをうっとりとした表情で嗅いでいるなんて……。


「やっぱりわたしって客観的に見たら変態さんだぁぁぁぁ!」


「落ち着いて明梨! 男性恐怖症から急転換の初恋だったから色々とち狂っちゃったのよ。やりよう次第でまだまだ立て直せると思うわ」


「そうっすよ! とりあえず強い印象は与えたんですからこれからどうやって良いイメージに変えていくかがポイントっす」


 確かに畠山さんわたしの印象には強く残ったとはおもうけど、それは変な娘としてであり間違いなく好感度はマイナススタートだ。これをどうやって上げていけば良いのか全く見当がつかない。


「えっと……どうやったら良いのか分かんないよ。わたしって男の人とまともに話したことなんて無いし、変態だと思われてる可能性高いし、話すきっかけも無いし……」


 自覚なく芽生えたわたしの初恋が自分自身の暴走によって終わってしまうのは正直言って悲しい。だけど何も思いつかないし、おそらく彼に変態だと思われているマイナス要因もある。話をするきっかけすら無いのに……。


「彼と話すきっかけならあるわ」


「えっ⁉︎」


「今、明梨が手に握りしめている物よ!」


「この汚物っすか?」


「チーちゃん! 汚物って言わない!」


 そう言えばわたし、今でも畠山さんの肌着を握りしめたままだった! それにしても汚物だなんて酷いよ千紗ちゃん……。


「えっと……でも畠山さんの肌着が何で話をするきっかけになるの?」


「洗濯して返すのよ」


 あっそうか! 汗で汚れた肌着なんだから洗濯して返すのは自然な流れ! 変な子だと思われてるだろうから心配だったけどそれなら話しかけるきっかけになるかも。


「香苗先輩…….天才っすか⁉︎」


「えっ⁉︎ 普通に考えたら出て来そうなんだけど? チーちゃん天然?」


「ありがとう香苗! 終わっちゃったと思ってたわたしの初恋……まだ何とか出来るんだね」


「まあ、首の皮一枚ってところなんだけどね。問題はその時にどうするか? 何を話すかだよ」


 確かにそうだ、わたしはお爺ちゃんやその関係者|(農協の関係者や直売所の職員、空手道場の人達)以外の男性が怖くて怖くてまともに話をした事が無い。

 そもそも若い男の人と何を話したらいいか分からないし、最悪の場合はまたパニクって変な事をしてしまうかもしれない。


「香苗先輩、汚物返す時ってワタシらもついて行った方が良いんじゃないっすか? 明梨先輩もうこの時点でテンパり気味だし」


「もちろん恋愛経験どころか耐性ゼロの明梨を一人で行かせたりしないわ。でも全力でフォローはするけど明梨の口でちゃんと話をしないとね」


 うん、何を話すかは自分で考えないと! 印象としてはマイナススタートなんだから先ずはわたしが無害だという事と好意を持ってる事を伝えて……って、その時点でかなりハードル高くない?


「明梨先輩、なんか頭から煙出そうっすよ」


「まあ、きっかけになるとは言っても難易度高いミッションだからね。肌着返して終わりだったらまだ良いほうでテンパって初恋終了エンドの可能性が一番高い気もするし」


 わたしも何となくそうなりそうな気がする。面と向かって話すとなると正気を保てる自信が全然無い。えっと……えっとどうしよう……あっそうだ! 話す自信が無いなら簡単な謝罪だけを口でして後は物や手紙ですれば!


「ねえ香苗、このあいだはゴメンナサイって謝って紙袋に洗濯した肌着と贈り物、それとお手紙を入れて渡すってのは駄目かな?」


「なるほど、まあ悪くない考えだと思う。明梨って字が綺麗だし文章も丁寧だから慣れない言葉で伝えるよりも良いと思うよ」


「まあ、読んでくれたらっすけどね」


「チーちゃん!」


「いいのよ香苗、最初からダメ元なんだし。何もやらないよりはずっといい……やれるだけの事はやっておきたいし」


 反対にこのハプニングが無ければ何も行動を起こさず、影から彼の背中を覗き見するだけだったかも知れない。終わっちゃうかもしれないけどやるだけやったら後悔は少ないはずだ。


「まあ手紙の内容は明梨次第だけど、洗った肌着に添えるプレゼントをどうするかよね」


 そうよね……毎日いっぱい汗をかいて働いてるんだし、いつもコンビニでサラダやチキンを買って食べているみたいだから……。


「手作りのお弁当なんてどうかな?」


「明梨先輩、料理上手だからいいかもしれないっすね」


 長野のお爺ちゃんの所にいた時はいつもお婆ちゃんと一緒にご飯の支度をしてたからお料理は得意な方だ。寮は食事無しなので自炊をしていて千紗ちゃんや先輩、友達の分も頼まれたら一緒に作っている。材料費はみんなが出してくれるのでわたしも食費が浮いてWIN-WINの関係だ。


「飲食物は絶対にダメよ!」


「えっ、何で?」


 お弁当の提案は花苗にかなり強い口調で却下されてしまった。何が駄目なんだろう?


「だって今の明梨は彼にとって、半裸を覗き見したり汗ビッショリの肌着の匂いを嗅いで喜ぶ女なのよ。そんな人が食べ物を差し入れしたらどう思われる?」


「間違い無く異物混入を疑われるっすね! 毛とか、えっと……分泌物とか!」


 毛とか分泌物ってどこの⁉︎ でも言われてみたら確かにわたしの行動は見ようによったらストーカーだからやめといたほうが良いかも。


「じゃあ汗を拭くタオルなんて良いかも。でも二人共本当に一緒に来てくれるの?」


「一応親友のつもりだからね」


「先輩には普段からご飯やお掃除でお世話になってるっす」


 凄くドキドキするけどまずは手紙を書こう。やる事をやったらあとは畠山さん次第……でもちょっと不安だなぁ。

次回は筋肉に戻ります。

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