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眼鏡、家族に筋肉の事を話す

 リフォームして住設備が快適になってはいるけど、昔ながらの縁側と床の間がある居間。千紗ちゃんと二人で過ごす寮の部屋にも慣れたけどやっぱり田舎の畳の部屋ほうが落ち着くなあ。


 土で汚れた作業着から普段着に着替えたお婆ちゃんとお母さんがお茶の用意をしている間にわたしは仏間に向かう。お母さんに渡した今から食べる羊羹とは別の包みを仏壇に供えて線香をあげて、おりんをりん棒で鳴らすと遺影のお爺ちゃんに微笑みかけて挨拶をする。


「ただいまお爺ちゃん。わたし、好きな人が出来たんたよ」


 お彼岸にお墓参りに来た時から今までに起きた事をいつものようにお爺ちゃんに報告する。今までとは少し違う話……男の人を好きになってお付き合いするようになった事をお爺ちゃんはきっと喜んでくれるよね。

 だってわたしが花嫁さんになることやひ孫を抱く事を楽しみにしてたって……えっと、よく考えたら結婚もひ孫もまだまだ現実味が無いじゃない。

 そもそも泰明さんとのお付き合いはまだ始まったばかりだっていうのにわたしったら何を考えてるんだろ? 


「明梨、お茶の用意が出来たからこっちにおいで」


 自分の恥ずかしい考えに赤面しているとお母さんがわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。居間に戻ってみると、ちゃぶ台の上に急須と湯呑み茶碗と切り分けられた羊羹が乗っている。

 夏でも日陰だとクーラー無しでも十分過ごす事が出来て、下手したらクーラーを効かせた電車の車内よりも涼しいくらいだ。だから熱いお茶が凄く羊羹に合っていてとても美味しい。


「それにしても明梨がお化粧してるなんて初めてみたわぁ。それにイヤリングまでして、ピアスじゃないわよね?」


「さすがに穴を開けるのは怖いから、ネイルも勧められたけど料理する時や作品作成の時に邪魔になるからやって無いし……」


 お母さんとわたしがお化粧やアクセサリーについて話をしていると、お婆ちゃんがお茶を一口飲んで微笑む。


「やっぱり二年以上街で暮らすと垢抜けるのかねえ? 春に来たときは化粧っ気なんか無かったのに」


「いきなりお洒落するようになって驚いたわよ、何かあったの?」


「えっとね……好きになった人がいて今お付き合いしているの」


 お母さんとお婆ちゃんは目を見開いて驚いた顔をするとしばらく沈黙してお互いに目を合わせてしばらく考え込む。

 そして最初に口を開いたのはお母さんだった。


「女の人なの? 今はLGBTとかで同性愛に寛容な世の中だけど、やっぱり田舎じゃ偏見もあるからこの辺の人達には黙っておいたほうが良いんじゃないかな?」


「違う! 違う! ちゃんとした男の人だよ」


 確かにわたしはお父さんのせいで男性恐怖症気味だけど、お母さんの発想は飛躍し過ぎだよ。慌ててお母さんの誤解を解こうとすると、今度はお婆ちゃんの発想が暴走する。


「還暦は過ぎてないだろうね? せめて母親よりは歳下にしといたほうが……」


「そんなに歳上じゃないよぉぉぉぉ! 二十六歳のお兄さん!」


 わたしがそう叫ぶとお母さんとお婆ちゃんは完全にフリーズしてしまった。まあ確かに泰明さんと出会う前のわたしの状態を考えたらそう思うのも無理ないかな?


「えっとビジュアル系とか美女装とかの中性的な感じな人?」


「信じられないくらいの老け顔とか?」


「ちがぁぁぁぁぁう! わたしがお付き合いしてるのはこの人だよ! 運送会社で働いている畠山泰明さん!」


 わたしがスマホの画像を見せると二人は目をまん丸に見開いて驚いていた。


「嘘っ! 恭介のせいで男性恐怖症になってずっと男の人を避けてた明梨が……しかも結構いい男!」


「でもよく見たらどことなく若い時の(しげる)さんに似ているような気がするねえ」


 恭介はお父さんで繁はお爺ちゃんの名前だ。お父さんはお爺ちゃんのことが怖くて、わたしとお母さんの前に姿を現さなくなったけど、お母さんとお婆ちゃんの話だと自分以外の人間は物と同じように思っているような人だったそうだ。

 わたしはとにかく怖い人だという記憶しか無く、思い出そうとすると身体が震え出してしまうからお父さんの事は考えないようにしている。


「うん、お婆ちゃんが思った通り泰明さんって何となくお爺ちゃんに似ているんだ。だから好きになったんだと思う」


 それからわたしはお母さんとお婆ちゃんに泰明さんとの出会いから付き合うまでの経緯、初デートに今の関係を掻い摘んで話す。


 仕事の休憩時間にコンビニの水道で汗を拭っていた泰明さんの後ろ姿がお爺ちゃんに似ていたから毎日後ろから覗いていた事、彼の汗がどんな匂いなのか? 匂いもお爺ちゃんに似ているのか気になって、彼の肌着に顔を埋めて匂いを嗅いでいるところを見つかったのが出会いだった事。


「我が娘ながらさすがに引くわ、はっきり言って変態じゃないの」


「ストーカーってやつかい? よくその人そんな事する娘と付き合う気になったねえ」


「ううっ、何も言い返せない……えっとそれからね……」


 その後は友達の助けを借りて誤解を解いた事、取り敢えず知り合いからお付き合いを始めた事、海へドライブデートに行ってそれから本格的に付き合うようになった事を話して、後は彼がどんな人かをわたしの知る限り二人に伝える。


「その人も女の子と付き合った事無いっていう割には手慣れてないかい?」


「泰明さんは交際した事無いだけで普通に女の子と話は出来るよ、コミュ力も高いし」


「何か聞けば聞くほど繁さんに似てるねえ、野球辞めても鍛錬を続けているところとかクソ真面目なわりに人当たりが良いところなんか」


「だから好きになったんだと思うの、わたしお爺ちゃんの事が大好きだったから」


 しばらくの間しんみりとした空気が流れ、羊羹を咀嚼する音とお茶を啜る音、そして蝉の鳴き声だけが響いていた。


「でも、孫を抱ける可能性がゼロじゃなくなったのは嬉しいね」


「お母さん! まだ付き合って一月も経ってないのに気が早すぎるよ!」


 お母さんが突然変な事を言うもんだから、お茶を吹き出しそうになったよ! だけどお母さんの表情は真剣だった。


「でもやっぱり嬉しいのよ。アイツのせいで男性恐怖症になったあなたが普通に恋愛していることが」


「お母さん……」


 お母さんもお父さんの事で色々と傷ついていたのにわたしの事を心配してくれてたんだ。なんだか目頭が熱くなったその時、お婆ちゃんが笑いながら口を開いた。


「普通の恋愛? 出会い方は全然普通じゃないけどねえ」


 お婆ちゃんの言葉でしんみりとした空気が一気に変わり、三人で大笑いする。確かにわたしの暴走から始まった恋愛だけど今のところは順調だ。そのうち二人に泰明さんを紹介したいな。


 まだお婆ちゃん家に帰ってきて数時間しかたっていないんだよね、いつもなら数日間ゆっくり出来ると思うのに今年はもう帰りたいと思い始めてる。

 電話やSNSでのやり取りは出来るけど彼と一緒にいたい、彼の匂いを近くで嗅いでいたいと思う気持ちが強くなっている。


 まだ一日目なのにデートからずっと毎日のように側に居たせいなのかなあ? 泰明さんに会いたいなあ。

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