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筋肉と怪物

「あのお固い文章にそこから伝わるパニクリ様! お前にお似合いの本当にクソ真面目な娘みたいだな!」

 腹を抱えて笑いながら神坂が言うのを苦笑いで流しながら俺はドルチェを食べている。冷たいジェラートが喉に気持ちいい。


「クソ真面目は余計だ、俺も彼女も異性と付き合うというかプライベートでまともに話をした事も無いから緊張してるんだよ」


「お前、野球やめてから仕事とトレーニングと勉強ばかりでろくに遊んだ事もないだろ? そのへんがクソ真面目なんだよ、SNSでこんなにお固い文章送って来るなんてこの娘もお前と同類臭いな」


「遊んだ事無いと言われても……いろいろと遊びや趣味になりそうな事はやってみたんだけども、どれもしっくりと来ないんだよな」


「特別な事をしなければならんと思うから行き詰まるんだ、遊びなんか些細な事でいいんだよ。例えば……そうだな今から俺と飲みに来ている事をメッセージで送ってみろ」


「分かった」


 まあそのくらいならいいけど、でもそれの何処が些細な遊びなんだろ?


「あっ! メッセージの前に俺とのツーショット写真だ、それを添付して出来るだけ軽い口調で送るんだぞ」


 軽い口調って言われてもなぁ、そもそもメッセージなんて簡潔にわかり易くするのが良いんじゃないのかな? そう思いながらスマホをなぜか神坂が持っていた自撮り棒にセットして写真を撮った。

 まあとりあえず『今日は友達の神坂と飲みに来たんだ、とりあえず写真を送っとくよ』って感じでメッセージと画像を送る。


「う〜ん堅苦しくはないけどなんか素っ気ないなあ……まあお前らしいと言えばらしいから別にいいや」


「素っ気無いって言うけど、これで十分伝わると思うんだけどなぁ」


「伝わりゃいいってもんじゃないんだよ。遊びっていうか余裕っていうか……お前、冗談やギャグもほとんど言わないしな」


「苦手なんだよ」


 ドルチェで冷えて甘ったるくなった舌を温めてサッパリとさせていると俺のスマホに真田さんからの返信が届く。


『わたしはサイデリヤで友達とお話をしてるよ』


 メッセージと共に送られた写真には真ん中に真田さんが緊張した面持ちで座っていて、左側にはこの前に見たショートヘアでスレンダーな女の子、右側に大柄で少しムチっとした女の子が写っていた。


「お前の彼女は真ん中の娘か? たしかに真面目そうでおぼこい感じだな。俺はどちらかというと右側にいる肉付きのいい娘のほうが好みだな、抱き心地も良さそうだし」


「彼女⁉︎ いやっ、まだそこまでの関係じゃないし! それよりも俺の知り合いの友達に手を……」


「出さない、出さない! 学生は後々面倒になる事が多いから狙わないって。俺がターゲットにするのは自立した成人女性だけだ。それに友達の関係者に手をつけるのは俺の主義に反するからな」


 神坂は異性と縁の無かった俺とは違い高校生の時から女に不自由する事は無かった。

 ただモテる男はモテる男なりのルールがあるらしく、人の女には絶対に手を出さない、友人の関係者は相手側から来ない限り恋愛対象にしない、複数の女とは付き合わない、相手を傷つけない、別れる時は後腐れ無くがモットーだと言う。

 実際にこいつは上手くやっているらしく、これだけの有名人が女好きで浮名を流しているのに写真週刊誌やタブロイド誌に女性関係で取り上げられた事は一度も無い。


「それよりも分かるかハタケ? こういうやりとり自体が遊びなんだよ」


「これが遊び?」


「何気ないやり取りの中に冗談やちょっとしたアクセントを入れるんだ。それだけで何気無いやり取りが楽しくなるんだよ、必要な事を最小限に伝えるだけじゃつまらんからな」


 俺は自分では他人とのコミュニケーションが取れていると思っていたんだが……必要な事がだけじゃつまらないのか?


「彼女からの返事も素っ気無いっというか、棒読みくさいな。まあ友達が促してるんだろうけど、スマホ持ってるのどう見てもスレンダーな娘だしな」


 こういったやり取りが遊びなのか……言われてみれば皆んな会話や暮らしの中で冗談を言って笑い合ったり日常生活にちょとした物を付け足しているな。やっぱり神坂や淀川の姐さんが言うように俺はクソ真面目なんだろうか?


「また深く考え込んでるだろ? そういうところがクソ真面目だって言ってんだよ。まあ、そんなお前と投げ合ってなかったら今の俺は無いんだけどな」


「俺と投げ合ってなければ今の神坂が無いってどういうことだ? 確かに二年と三年の時は延長まで投げ合ったけど……俺は甲子園では準決勝止まり、無失点で春夏連覇して七球団からドラフト一位指名された怪物のお前とは格が違うだろう?」


「二年の夏にお前と投げ合ってなけりゃそこまでの投手になって無かったさ。同年代で自分以外のピッチャーを凄いと思ったのも、こいつにだけは負けたくないと思ったのもお前だけだからな! お前がいたから二年の夏以後は必死で練習したんだ。三年の時に怪物ピッチャーと呼ばれたのもプロ野球界を代表するエースになれたのもお前というクソ真面目な野球馬鹿のライバルがいたからだ」


 神坂は真剣な顔でそう言ってくれるけど、俺にとっては雲の上存在だった、才能があって名門校の野球エリートでしかも研究熱心。二年の夏の時メル友になってから野球談義に華を咲かす様になり友達として長い付き合いになっている。


「いや、新人賞から最多勝、防御率に奪三振にMVP、タイトルを取って無い年の方が少ないお前にそう言われると申し訳ないような……」


「高卒では候補に上がりながら指名されなかったけど大学で活躍してプロ入りするのを……また投げ合えるのを楽しみにしてたのに肘壊しやがって」


「すまん……」


「いや、謝る事じゃない。しかし野球をやめてもクソ真面目でストイックなお前が心配だったんだよ」


「性分なんだよな、他の生き方が思いつかない」


 悪い事じゃ無いとは思うんだけど職場の人達や友達に心配をかけているのは事実だ。


「これは良い機会だと思うぞ! ひたすら真面目な堅物のお前が女と付き合うことによって何か変わるかもしれん。ちゃんとアドバイスはしてやるから本気で付き合ってみろ」


「ああ、彼女とちゃんと交際してみるよ」


 言ってみたものの男性恐怖症だった真田さんと異性とまともに付き合ったことの無い俺、はたして上手くやっていく事が出来るんだろうか?

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