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眼鏡は落ち着かない

 SNSのフレンドに初めて男の人の名前が登録された。元はと言えばわたしの方から遠回しに付き合って欲しいと手紙で伝えたのに「畠山泰明」の名前を見る度に心臓がドキドキする。


「明梨先輩と運送屋のお兄さんって二人共アカウント本名なんすね。まあ別にいいとは思うんですけど……」


 畠山さんにお手紙の返事をしてもらいお互いにSNSのフレンド登録をしたその日の夕方、わたしは香苗と千紗ちゃんと一緒に寮の近くのファミレスに来ている。

 ドリンクバーに山盛りフライドポテト、ミックスピザと大皿シーザーサラダをシェアするいつものスタイルだ。


「それにしても……何か形式ばったと言うか堅苦しい手紙ねえ。女子大生の書く手紙じゃ無いような気もするけど明梨らしいと言えばらしいかな」


 一応、わたしが畠山さんに書いた手紙はコピーして二人に渡してある。もしかして失礼なことがあってはいけないし、情報は共有するべきだと思ったからだ。


「でもこの手紙ちゃんとラブレターにはなってますし、お兄さんからも交際OKの返事をもらえたんすから結果オーライじゃ無いっすか?」


「ラブレター⁉︎」


 わたしが思わず大きな声を出してしまうと香苗と千紗ちゃんが不思議そうな顔でわたしを見る。


「いやいや! ラブレターって……わたしはただ単に畠山さんにご迷惑をかけた顛末と自分のきもちを手紙に書いただけで……」


 手足をバタバタさせて慌てるわたしに二人はニヤニヤと笑いながら言う。


「貴方は暴力を振るう父や幼い頃に私を苛めた男子によって男性恐怖症になった私が初めて好意を持った男性なのです……とかねえ」


「出来る事なら始めは知人としてでも良いのでお付き合いをしていただければ幸いです……て明らかに好きです付き合って下さいって言ってるようなもんっすよね」


 確かに……わたしが初めて好意を持ったとか、お付き合いをしていただければ幸いですって……自分の初恋を終わらせたく無いって一心でなんて事を書いてんだわたしは!

 気付いた瞬間に自分の顔が急激に赤くなって行くのが分かる。分かってしまったら凄く恥ずかしい!


「あうっ! あうっ! もしかしてやらかしちゃった?」


「ん〜これで振られてたり引かれたりしてたらやっちゃってるんだけど畠山さんOKだったからラブレター作戦は成功って事で良いんじゃないかな?」


「結果オーライっす!」


 確かに畠山さんはわたしと交際することを承諾してくれたしこれからどう付き合っていくか考えてくれるって言ってた。


「えっと……とりあえずは上手くいったんだよね」


「お兄さんが良い人って言うか天然で助かったのが真相っすけどね!」


「アハハッ、まあいいじゃない。それよりもフレンド登録したなら何かメッセージ送ってみたら?」


「そっ! そうだね、じゃあさっそく……」


 えっと……まずは挨拶とお礼から。


『今日はお付き合いを承諾してくださりありがとうございました』


「もうちょっと色気のある事書けないっすか?」


 えっ⁉︎ そうか! これからお付き合いするんだからビジネス文書みたいになったら駄目よね。


『嬉しくて今日のデザイン実習は集中出来ずあなたのことばかり考えておりました』


「明梨! 言葉も表現も堅苦しいから話し言葉でいいんだよ!」


 あわわ! そうか! 堅苦しい言葉じゃ他人行儀だよね、でもまだ知人の段階だしとりあえず経緯の説明と本人の了承を取らないと。


『友人の香苗から堅苦しい言葉遣いは会話でもSNSでも止めるべきだと注意されました』


 あっ! 香苗って言っても誰だか分からないよね! でも一応面識はあるから……。


『あっ! 香苗というのは今日私といた友人の事です』


 えっと……そんで! そんで! 本題だぁ!


『もしもこれからは会話も文章も口語でよろしければお返事していただければ幸いです』


 あわわっ! もう何が何だか!


『畠山さんと知人になれただけでも私は嬉しく思っております』


「とりあえず落ち着け明梨!」


 わたしの頭頂部に軽くチョップをする香苗とそんな私達を見て馬鹿笑いする千紗ちゃんの姿を見てなんとか我に返る事ができた。

 男の人の知り合いが出来て、しかもわたしの方からその人に好意を持っていて、しかもおそらく初恋だということもあって自分でもビックリするくらい浮き足立っている。


「ごめん香苗」


「先輩、二十歳を過ぎて初めて異性を意識したから精神がついて行って無いんすよ。自然体が良いと思うっすよ」


 う〜ん、千紗ちゃんにも言われたけど一度意識しちゃうと自然体って難しいんだよね。その時、スマホがメッセージを受信した……畠山さんだ! わたしは落ち着いて開く事が出来ず、何度もスワイプを空振りしてしまう。


『真田さん、とりあえず知人から始めるんだしあまり意識しなくてもいいよ。普通に大学の友達と同じように話したりメッセージをくれたらいいからね』


 ううっ、畠山さんに心配されてしまった……そう思ってると彼から追加のメッセージと写真が送られて来た。


『今日は友達の神坂と飲みに来たんだ、とりあえず写真を送っとくよ』


 畠山さんが送って来た写真には彼と…….あれっ? どこかで見た事があるような男性が写っていた。それを見て香苗が大きな声を出す。


「これって! レールウェイズのエース神坂英雄じゃない⁉︎ 何で畠山さんと一緒にいるの⁉︎」


 そういえば香苗の家は家族でレールウェイズのファンだったなぁ。


「あっ! どっかで見たことあると思ったら、自動車保険とビールのCMに出てる人っす!」


 うん、わたしも千紗ちゃんと同じ認識。そう言えば野球をしていたって言ってたけどそんな有名なプロ野球選手と友達なんだったら、畠山さんも学生時代強いチームにいたのかな? そう言えばわたしは彼の事を何も知らない……でもこれから彼の事をもっと知りたいし、わたしの事も知って欲しい。


 やっぱりこんな気持ちは初めてだ……。

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