9:王子の婚約者
方向音痴で好奇心旺盛なこの王子、将来大丈夫かと思う今日この頃。
いい加減俺を見習って大人になってほしいな。
まだ出会って1ヶ月も経ってないけど。
「なんで婚約者に合わないといけないの?
どーせ、いつかさよならするんでしょ」
「そうしないためですよ」
王子は不満そうに俺について来た。
ついて来るから此奴は一人になりたくないのかもしれない。
にしてもこの城本当に広いな。
絶対に魔王城より広いから迷子になった事は何回もある。
ワープポイントを勝手に作らせていただいた。
「何処に婚約者の人いるの?」
「この扉の先ですよ。頑張ってください」
王子が失敗した瞬間俺の失敗でもあるんだからな。
よそでプレッシャーでもかけておこう。
王子はゆっくりと扉を開けた。
「レイ王子......御機嫌よう。私はユナ・リリーですわ」
リリー家、それは貴族の中でもクズな貴族。
何だっけ......裏取引と虐待ではないんだけど長女の子が酷い目にあっているっていう。
あ、その長女がこの婚約者みたいだよ。
本当は次女が来るはずだったのだけど親が次女を手放したくなくて、次女も親元を離れたくないから長女へ擦りつけたらしい。それで今に至る。
リリー家って我儘な奴しかいないイメージだからいい子そうで助かる。
王子の世話を少し任せる事とGPSをつけなくて済むかもしれない。
よかったね、王子。
王子は品定めのように婚約者を見た。
自己紹介、バッチリと決めてくださいね。
「レイ・ブルーライズ」
「王子」
「......です。ユナ様、よろしくお願いします」
敬語というものを学ばせた方がいいな。
それまで魔法剣をお預けさせてもらおうかな。
まあ、王子にしてはよく出来た。褒めてやろうか。
俺の心を読んだのか、王子がじっと見て来た。何か不満でもあるか。
あるなら一生褒めてやんないからな。
今日は王子と婚約者......ユナ様の為のお祝いの会がある。
そう、買い物で買った社交界用の服はこのためにあるんだ。
俺の楽しみは暗殺者と戦う事だけど。
ユナ様はさっきから(心の中で)騒ぎまくっている俺を怖がるように見た。
「あの......其方は」
怪しい者だもんな。急に現れて家庭教師のくせに王子の側近。
俺は平和に暮らせればそれでよかったんですけど、お給料はよろしい。
ちゃんと好印象を与えるために自己紹介をするか。
「レイ王子の家庭教師、シロと申します。前までは白魔導士をやっていました」
王が作った嘘の自己紹介。前まではフリーの白魔導士って事になってる。
「家庭教師ってシロって名前なの?」
「王子は聞いて来なかったじゃないですか」
聞かれなければ言う必要もない。シロは本名ではないがな。
ユナ様に頭を下げられたので頭を下げた。
人に頭を下げるなんて初めてなんだけど変に見られていないかな。
とても、心配だ。
「じゃあ、魔法剣!」
「今日1日はユナ様とお過ごし下さい」
「えぇ......」
嫌そうな顔しても知らない。ってか、ユナ様に笑われているぞ。
俺はこれからたくさんの仕事がある。暗殺者のための計画を練らなければいけない。
王子ー、頑張ってこないと魔法剣没収しますからねー。