44:人魚という種族
船から飛び出して数分。
霧の目の前に辿り着いた。
近くで見ると夢見心地になってくる。
そのくらい綺麗で、人が生み出したとは到底思えないので人魚がやったのは確かだと思う。
人魚は水を操ることが得意で、霧を発生することも容易いのだろう。
「人魚さーん。僕だよ、フェル」
「フェルちゃんー!会いたかったよぉ」
「おかえり、今すぐに此処から通れるようにしてあげる」
たくさんの人魚が海から顔を出してフェルに話しかけている。
神の子は伝説の地でも有名なんだな……。
俺らの存在が無かったように話されるのは、透明なわけでもないから悲しい。
人魚はようやく俺らに気づいたようで……。
「きゃぁああ!人間っ、魔族っ」
「わかったわ。こいつらがフェルちゃんを誘拐したのね!?」
なんとも騒がしい人魚だな。
それに、俺も魔族で人間じゃないから目は節穴だということだ。
どうやら人間も魔族も嫌っている様子。
水をバシャバシャとかけられるので当たらないように透明な壁を作っておく。
「俺はお前らに話に来たんだよ。って、セイラ生きてるか?」
「生きているぞー。ただ水がぁ」
セイラは逃げ遅れたのか水がたくさん滴っていた。
容赦ないぞこの人魚たち……。
「人間と話すことなんてないわよ!」
「フェルちゃんを返しなさい!」
「フェル、助けてくれー……」
「ん、りょーかい」
フェルはそう言って人魚と話し始めた。
だんだんと人魚の顔が青褪めていくのでどうしたものかと思う。
騒がしい人魚たちが黙るなんてなにか脅しでもしたのだろうな。
「で、フェルは一体どうやって言ったんだ?」
「脅してはない。神の子には必ずゴシュジンが必要なんだけど、それがクロスだよって言ったの」
「俺、まだ幻影魔法解いてないんだけど……」
しゃーない、魔王ってことがバレたら入れてもらえないかもしれないが見た目が黒くない。
幻影魔法解除して人魚に向き直った。
魔王ってわかったからといって怯えないでほしい。
取って食うわけじゃなんだからな。人魚なんて食えないし。
「こんな魔王がゴシュジンなの?!」
「神様がお怒りになっちゃうわ」
「取り敢えず通してほしいぞ。羽が疲れたと声を上げておる」
「羽は喋らないんじゃないか」
人魚は俺とセイラを見定めるようにしてきたがしょうがないと霧の中に入れてくれた。
一部がぼんやりと消えていき、入れるようになった。
よく出来ている魔法だ。魔力がよく1週間も持ったものだ。
中に入ると、しばらくは海が続いて大陸が見えてくる。
「此処が私たちの街、クワルツ・ド・ロッシュ」
「クワルツは神聖な場所なの。魔族如きが来ていいところじゃないのよ」
どうやらフェルのおかげであって失礼をしたら追い出すとでも言いたいみたいだ。
クワルツ・ド・ロッシュは街全体が水晶で造られている。
さすが伝説の地だ。貴重な資源が大量にあるんだろう。
「失礼のないようにするよ。……セイラ」
「妾も怖いから騒がないようにするぞ」
「で、魔族が何をしに来たのよ」
伝説の地を観光しに来たんじゃなくて……。
あれだ、霧の原因を突き止めに来たんだった。
「取り敢えず自己紹介からしよう。魔族の生活をしてないのに魔族って言われるのは嫌だしな。
俺は魔王クロスだけど、普段は幻影魔法を使ってシロという偽名を使っている」
「妾は3代目死神のセイラなのだ。シロ……ではなくてクロスが面白そうだからついて来たのだ」
「面白そうで来るってどーいうことよ」
冷めた目で見る人魚。
人魚は、人の姿になって地面に立っている。
クワルツにいるほとんどは人の形をしている人魚なのだろうな。
自己紹介はしてくれないみたいだ。
「霧の原因を突き止めに来た。人間と50年に1度、伝説の地にいる者は貿易をするだろ?
でも此処には入れない……それだと困ってしまうんだ。だから冒険者として原因を突き止めるんだ」
「ふぅーん。残念だけど霧を解く気はないわよ」
「なんでだよ。お前らは困らないのか?」
「私達は人間の助けなんてなくても生きていける。ご飯も美味しくないしね。
それよりも人間が困ってしまえ。これは罰よ。私達を怒らせたとびっきりの罰!」
人魚の話を聞いていると人間に恨みがあるようだ。
俺が何かした覚えはないんだけど他の人間がなんかしてしまったんだよなぁ。多分。
この伝説の地では人間から食料をもらって宝石を差し上げていたと言われている。
まあ、不味いのも無理はない。まだ美味しくないものが大体だからな。
俺が作ったのカレーくらいだし。
「よし、飯が美味けりゃ文句はねぇな!手伝えフェル、カレーを作るぞ」
「わかった。材料は空間の中から取り出すね」
「いつの間に食材が……」
空間から出て来るのは数多くの食材。
店をまるまる1個買い占めたかのようにたくさんある。
これなら作れば解決する気がする。
◇◇◇◇◇
さぁ、カレーが完成しましたー。
バターチキンカレーを作るのは初めてだけどいい出来だと思う。
セイラも初めて食べるだろうから、まあ、口には合うと思うけど。
「ほれ、食えよ人魚」
「毒は……入ってないわよね?」
「ん。これで毒がないことは証明できたろ」
試しに一口食べてみる。
まあまあいい出来だ。チキンを大きく切ったから食べ応えがある。
人魚は俺の様子を見て毒がないと判断したのか一口食べた。
「何これ……」
「あれ、口に合わなかったのか?妾は美味いと思うが」
「すっごく美味しいじゃない!こんな美味しいものを食べれるなら言ってよね」
「これ、俺が作っただけだから人間が作れるかっていうと覚えない限り作れないけどな」
「あんた、クレスだっけ、認めてあげるわ」
「クロスだけどな。間違えんなよ」
「私の名前を特別に教えてあげる」
あ、無視された。
「私はクワルツ・ド・ロッシュ第一王女のペルルよ!ルル様とお呼びなさい」
「よろしくペルル」
「無視しないでよっ」
最初に無視して来たのはどっちだか……。
ん?第一王女って言ったか?
もうしかしなくてもめちゃ偉い人じゃんか。
失礼のないようにって言ってたのに失礼をしまくった気がする……まあ、いいか!
今回はカレーに免じて許してもらおう。
本人は気にしていなさそうだし多分命はまだ俺の元に留まってくれる。
「クロスと死神は許してあげるわ。でも、霧は解けないの」
凄く悲しそうな声でポツリと話し始めた。
人魚がなぜ人間や魔族が嫌いなのか。
なぜ、伝説の地に霧をかけたのかを、ひとつずつ話してくれた。
「私には妹のナルがいるの。何時も2人で海に行って環境を調査していたわ。だけど、人間と魔族がやって来て戦い始めた。辞めてもらおうと2人で止めに行ったらナルは人間に攫われて私は魔族に攫われそうだった……まあ偶然逃げることが出来たのだけどね。怖くなって人間が嫌いになってしまったの」
ナルという妹がいる……んっと、俺何処かで会ったことがある気がする。
ブルーライズの城で姫の側近を務めていて、城で働いている子であることは確かだ。
楽しそうに働いていたんだけどなぁ。攫われて来たのか。
「ナルってパルルと同じ金髪で、水色の瞳をしているセイラくらいの子だろ?
俺が働いているブルーライズってとこで働いてるぞ」
「はぁ!?さっさと連れて帰って来なさいよ」
「まあ、行ってみる」
船はもう帰ってしまったし、空間移転をするしかない。
俺の魔力は半分以上減ったのだった。




