25:神獣、フェンリル
「いいですか?フェンリルの住処は精霊の森......」
「それなら簡単ね!」
「ではなく、魔境の森です」
「......」
フェンリルに会いに行くため、姫に場所を知らせていた。
精霊の森は精霊がたくさん住んでいるんだけど、精霊を使い魔にするより神獣を使い魔にした方が神様の血も多いことだし力はきっと倍増するから精霊の森に用は一切ない。
魔境の森は、俺の住んでいた魔王城......の近くにある森の名前で、そこが人間が住むところとの境になるから勝手にそう名付けられたらしい。
フェンリルは神獣だ。しかし、そのぶん魔力を好むから魔境の森に住み着いたと考えられている。
そんなフェンリルに会うには一生分の運を使ったって無理だとも言われているにはこれまた事実。
ならどうやって会うか?実際に会えるのか?
会える根拠はどこにもない!こればかりは運に任せるしかないッ!
「さて、準備はいいですね?」
「......はい!」
うん、姫なのにいい覚悟をしている。
普通の人だったら絶対に魔境に行くのは嫌だって断るだろうにね。
幽霊嫌いの王子に見習ってほしいものだ。
魔境は弱い魔物から強い魔物までたくさんいた。
俺が魔物を倒すのには何一つ躊躇いがないのは、前世が人間だったからというのもあるが......魔王だからって魔物、魔族と対峙しないかってなるのその答えは『する』になる。
魔物同士が、種族が違うとか力を見せつけるとかいう理由で争いあうのと同じように俺だって種族がそこらとは全然違う。治めるだけであって争わないわけでもない。
だから王子のポーション作りの時にスライムをたくさん倒せたってわけだ!
「シロさん......」
「はい、全然見当たりませんね」
「......フェンリルって本当にいる?」
「実際に見たことはありません」
「ないのね」
「ないのです」
慣れてもいないところを歩かせて申し訳ないとは思っているけど、俺だっていつフェンリルに会えるかとかわからないんだ。
奥へ、さらに奥へと足を進める。
「向こうから魔物の声!」
ほんの僅かだけど聞こえた。
『ガルル......』と鳴く声と、戦っているような音だった。
狼の鳴き声かもしれないなら行ってみる価値はある。
「姫」
「はい」
「行きますよ」
予想通り、狼と魔物が戦っていた。
狼の毛並みは、泥が付いているが白く魔物を睨む瞳は氷のように水色......これが、フェンリル。
一目見ればその強さもわかるが、相手はB位階冒険者とかそのくらいが倒すオーガとA位階冒険者が倒すケンタウロスだからフェンリルが苦戦するのも無理はない。
「光魔法、輝きの矢」
「創造魔法......突き刺せ」
姫覚えたての輝きの矢がオーガを居抜き、俺の創造魔法で造った硬い槍はケンタウロスを突き刺した。
一瞬の出来事だったけど......姫がB位階冒険者以上の実力があることだけわかった。
『......助けていただいたこと、感謝する』
「面を上げよ」
「......シロさん」
姫の目線が突き刺さる。
これでも魔王だからついやってしまうんだよわかるだろ!
いや姫は王じゃないから分からないだろうね!
『して、そなたらは我を探していたように見えた』
「私たちは神獣、フェンリルを探していました。それは確かです。ところで、怪我をしたところ痛くないか?」
「はぁ......シロさん」
ちょっとくらい敬語を外したって溜息をつかなくていいじゃないか。
転生した際にこっちの世界の神様とは会ってなかなか親しい仲になったんだから抗っても大丈夫なはず。
取り敢えず......聖魔法を使い、全てを回復させる。
汚れは浄化魔法で落とせば綺麗さっぱりだろ。
『願いとあらば聞いてやろう』
「姫の使い魔となってほしいのです」
『なに?この我が使い魔だと?』
「毎日美味しい食事が三食。さらに綺麗な水も飲めて、夜はふかふかのベッドで寝られる......こんなに都合のいい話ありますか?ないですね」
『何時もは助けてもらった例として強くしてほしいとか言われるのだが......くはは!面白いじゃないか』
「あー、うれしー」
神に認められたようなものだが俺にとっては嬉しいことはひとつもない。
そろそろ、帰ろうか......とその前に。
「フェンリル、小さくなれ」
『......なんでだ』
「国に入る時に面倒なことになってしまいます」
姫が理由を喋ってくれた。
フェンリルなんて急に現れたらパニックでもしかしたら討伐されてしまうかもしれない。
こんな、綺麗とはいえ大きな狼を連れてきたら王は笑うだろうが王子は失神しそうだし。
フェンリルは渋々小さくなってくれた。
強さが隠れてしまうというのが少し癪に障るのかもしれないが我慢してもらおう。
フェンリルがそのまま小さくなったから狼ではなくてもはや子犬とかしていた。
「改めて、私はマリア・ブルーライズですわ」
ある程度国の近くまで戻ってきたところで姫がフェンリルに自己紹介した。
「私はシロです」
『我はお前の人格を疑うぞ』
ああ、うん。それ以上言わないでほしい。
今日は俺も人格が荒ぶった日だと思っているから。
『我が名は神獣フェンリル』
「え、それだけ?」
『それだけとはなんだ』
「......いえ、お名前はないのですか?」
そう姫の言う通り、それは種族の名前であってフェンリルの名前ではない。
『なら、シロ。お前がつけろ』
「姫の使い魔となるのに?」
ま、どうでもいいか。
期待したような目で見られているし、名前をつけてもらえるとなれば嬉しいのかもな。
「スティーリアでどうだ」
『スティーリアか......いい響きじゃないか』
文句ないのかよ!スティーリアとか長いからスティでいっか。
愛称を込めてだからめんどくさいわけでは無いのだけど、ちょっと言いにくいし。
『ふはは!我が名はこれからスティーリアだ』




